どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

自薦ポエム132 『後ろ姿の雪だるま』

2022-05-11 00:09:03 | ポエム

  雪だるま

   (ウェブ画像)より

 

 

森に囲まれた山間の村の昼下がり

雪だるまが陽光を浴びていた

朝まで降った雪がやんで

家を抜け出した少年が作ったものだ

 

雪だるまは身を寄せ合い

仲良さそうにしている

それなのにどこか寒々しい

後ろ姿にはどんな意味があるのだろうか

 

通りかかった主婦がそれを眺め

コウちゃんとばばみたいだねと言った

声をかけられた男の子が頬を染めていう

違うわい モアイ像だい

 

後ろ姿の二人が祖母と自分なのか

それとも家を出て行った母と自分なのか

男の子の心の中では決めかねている

だから誰と誰と言われるのがつらいのだ

 

なぜこんな雪だるまを作ってしまったのか

少年は悔しさと怒りで胸が息苦しくなる

旅芸人と駆け落ちして消えた母など

とうに頭の中から消し去っていたのに

 

屋根がすっぽり雪で覆われる季節になると

家にまつわるすべてのことが塗り込められ

まっしろの庭先で母と遊んだ5歳の記憶が

影絵のように映ってしまうのだ

 

酒がもとで病死した父の代わりに

可愛がってくれたばあちゃんは好きだが

蓮如さんにも半分こころをよせているから

たまには駄々をこねて困らせてみたい

 

コウちゃんとばばみたいだね、と言われて

ちがうわい 空を見上げているモアイ像だい

寄り添っているのは仲がいいわけではなく

雪だるまが日差しで歪んでくっついたのだ

 

そう コウちゃんは頭がいいから

物語をいっぱいつくったんだってね

県のコンクールで金賞を取ったんでしょ

将来は水上勉のようになれるかもよ

 

ばあちゃんと同じようなことをいうから

ほっぺたが思わず赤くなる

小母さんに世話になるから無視できないが

ほんとうは一人にしてほしい

 

越前の農家の庭先で雪だるまが森を見ている

真宗の地の影をまとった夕暮れが

もうすぐ二つのかたまりを包むだろう

真っ白のだるまと少年を闇で覆うことだろう

 

(2019/02/09より再掲)

 

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