『ばらフェスタ駆けめぐり』
四月から五月の終わりにかけては、あまりのんびりとしていられない。
さくら、ツツジ、ばら、藤の花が矢継ぎ早に咲き、人間の都合などお構いなしに季節を駆け抜けてしまうからだ。
今年も神代植物園の人出を横目に、それぞれの花の最盛期を見逃してしまうんじゃないかと半ばあきらめていた。
仕事の関係で時間がとれなかったり、天候に恵まれなか . . . 本文を読む
『生首』と『眼の海』の間で
(辺見庸詩文集・詩集の相次ぐ受賞の意味するもの)
3・11から一年を経て先ごろ辺見庸の詩集『眼の海』が高見順賞を受賞した。
昨年早々に詩文集『生首』で中原中也賞、そして今回立て続けといった印象での受賞である。
詩集という形での出版がこれまであまりなかったという新鮮さもあるが、文字表現の世界にいま何かが起こりつつあるのが感じら . . . 本文を読む
『花と新緑の六合村』
先週末、三週間ぶりに山荘に行ってみた。
ゴールデン・ウィークの混雑をスル―した効果で、らくらく目的地まで到達できた。
関越道を使うと三時間少々の行程で、例の高速バス事故が報じられた藤岡ジャンクション付近では否応なく現場を意識させられた。
ドライバーは、誰でも大きなショックを受けている気がする。
渋川・伊香保出口で降り、六合村ま . . . 本文を読む
(失踪) バタンと音がした。 愛犬のトイプードルを追いかけていた庄三の胸が、びくっと反応した。 前方の木々の間に、さびれた別荘が見える。 音は、その建物の蔭から聴こえてきた。 庄三は、太った体を揺すって雑木林の小道を走った。 急いで走っているつもりだが、よたよたした小走り程度のスピードだったかもしれない。「リリー!」 声がかすれていた。 ほとんど悲鳴に近かった。 自分の声が、いやな予感を . . . 本文を読む
「自動起床装置のいま」
(辺見庸の仕かけたもの)
二十数年ぶりに、辺見庸の芥川賞受賞作を読み返してみた。
今回よかったのは、新風舎文庫版の『自動起床装置』を手に入れることができた点である。
何がよかったかというと、ぼくが最初に読んだ「文学界」(1991年5月号)だけでは知りえなかったさまざまのことが投げ込まれていて、少しだけ理解が進んだような気 . . . 本文を読む
(作詞でもしてみようか)②
ぼくの家族は東京下町の住民だったが、線路わきに避難道路をつくるからと強制疎開させられ、汽車で二時間ほどの農村に移り住むことになった。
父の仕事は国鉄の職員であったが、K駅の助役を最後に退職し、遠い親戚を頼って家族をその地に連れてきたのである。
春まだきのある一日、最寄り駅から二里ほどの道のりを、家財道具を積んだ牛車とともにぼくらは疎開先に向 . . . 本文を読む