(逃げ水)
艶子と父親が並んで写っている写真を見た夜、正孝は三番町の事務所で仮眠をとり朝を迎えた。
調査会社からもたらされた資料は、もう少し精査する必要があったが、正孝の関心はまだ見ぬ村上紀久子の存在に移っていた。
艶子に送った彼女の礼状から、柏崎市にある老人福祉関係の病院に入っている父親を見舞ったことが判明した。
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(発光する神経)
正孝は、滝口から渡された写真の中に、艶子が見慣れない男と写っている一枚を発見した。
男はかなり年老いた感じで、ベッドのクッションに寄りかかるように坐っていた。
その横に立って微笑んでいるのが、艶子だった。
春先なのか、萌黄色のセーターを着ている。
ベッドの傍らには、タオルや下着を収納できる縦長のキャビネットが置かれている . . . 本文を読む
(欲と二人連れ)
艶子の変死事件に関する新聞報道は、伊能正孝に大きな衝撃を与えた。
松江に帰省中の出来事ということで、半分はプライベートな要因を想定していたが、その考えが楽観的すぎたことを思い知らされた。
やはり、今回の事件は正孝の足元から起こっている。
正孝の気づかないところで、何かが動いていたのだ。
艶子の尋常でない死に . . . 本文を読む
(ミクロの空気砲)
その晩、伊能正孝は松江市内の温泉街に宿を取り、ホテルの一室でこんがらがっている現在の状況を分析した。
まず明らかにしなければならないのは、艶子の死因である。
弥山の山中で発見された艶子の遺体は、当初、服薬自殺と思われていたのだが、現場周辺の状況から警察も違和感を抱いたらしい。
そして、自殺と事件の両面から捜査を進めた。
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