浅間高原の松
「讃歌」
松の木のてっぺんから見ている鴉が
行ってしまったら
ぼくは濡れた砂で おまえの
だいだい色の腹に地図を描いてやるよ
僕がつくった苦心の地球儀
晩夏の太陽のように輝くおまえの地球儀
ふたりで静々とささえて
神に捧げよう
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(さくら貝の歌ー異聞) 美わしきさくら貝ひとつ 去りゆけるきみに捧げん この貝は去年の浜辺に われ一人ひろいし貝よ その子の名は、キララといった。 入学式の日に、小学四年生として編入してきた。 担任の先生は、キララが福島からの転入者であることを告げた。 この町へ避難してきたのは、キララとお祖母ちゃんの二人だけだった。 福島で海産物店をやっていた両親が津波に攫われ、 . . . 本文を読む
禅林寺
禅林寺の起源
元禄十二年(一六九九)八月台風のために建物が倒壊したので、松之坊は寺社再建不可能のために寺社地を村方へ返還した。
そこで村方一同は協議の末、江戸本所石原に在った黄檗宗賢洲元養禅師に寺社建立のことを懇請した。
かくして村方一同より官へ願い出で、元禄十三年十二月、黄檗宗霊泉山禅林寺と改称、江戸神田紺屋町駒田孫右衛門が開基となって堂宇伽藍の経営も着々と進 . . . 本文を読む
葦
「利根川堤にて」
ひるがえる五月の風にさざ波ひかり
川はふくらみを見せる
むかし 人の世の歳月を
水の流れに譬え
模糊たる
霧の中へとみちびいた人々は
この新緑の光を浮力とし
いまも蝶の羽をもって
流れを
追いつづけているだろうか
ときおり
かっと見開く
初夏の太陽は
「時」 . . . 本文を読む
(お大尽カット) 留吉は塀の外を歩いていた。 けさ早く刑務所から仮釈放され、保護司の家を訪ねた後、ドヤ街に近い住宅地で懐かしい娑婆の空気を嗅ぎまわっていたのだ。 時刻は秋の夕暮れである。 ちょうど通りかかったお屋敷の冠木門越しに、手入れされた松の見事な枝ぶりが覗いていた。 留吉は門の前を通り過ぎながら、屋敷の中をちらっと透かし見た。 松だけでなく、柘植や桧も、たったいま床屋から帰ってきた . . . 本文を読む