(そして神無月)
堂島秀俊が殺人容疑で逮捕されたのは、朝の8時ごろ東京むさし野市の自宅マンションを出たところでだった。
街路樹の葉が色づき始めた季節、きちんとスーツを着た三十代後半の男に、物陰から現れた私服刑事が3人擦り寄ったかと思うといきなり令状を示したのだ。
自分の名前を呼ばれると、男は一瞬たじろぎ、「な、なんですか」と刑事の一 . . . 本文を読む
(企みの交差点)
思い出したくもないことだが、福島第一原子力発電所の過酷事故は、何年たっても伊能正孝の心を打ち震わす。
安全をうたいながらメルトダウンにまで至った責任は本来誰かが負うべきものだが、実際には想定を超える大地震と津波を理由に言い逃れを繰り返してきた。
原発を推進した政党と監督官庁は、政権を奪還するや当該電力会社を矢面に立 . . . 本文を読む
(巨魁の影)
ホテルでの目覚めは快適だった。
病院や役所をめぐった柏崎での一日は、気疲れの連続であった。
一夜過ぎて、その時の疲れはほぼ解消していた。
さすがに金沢は癒しの街だった。
それもそのはず、伊能正孝の投宿したホテルは、緑の多い金沢城に近い場所にあって、空気の匂いも聴こえてくる物音も違っていた。
彼がこれから訪ねようとする村 . . . 本文を読む
(善悪の彼岸)
伊能正孝は柏崎市役所の市民課におもむき、村上紀久子の転居先を調べるべく住民票の交付を申請した。
窓口職員は、申請者である正孝の住所を一瞥して、東京の法人が何かの調査のために来たのかと勘違いしたようだ。
「お身内の方ではないですよね?」
型どおりに質問しておいて、「・・・・弁護士さんか業者さんでしょうか」と質問を切り替えてきた . . . 本文を読む