どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

思い出の短編小説『ヘラ鮒釣具店の犬』(4)全10回

2023-06-30 09:43:00 | 短編小説
 先週の興奮は、体の隅々に痕跡を残していた。 四日ぶりに散歩に出ようとして、内耳のあたりでカサカサと音を立てるものがある。風を受けて左右に揺れる笹の葉が、花大根の風景に重なって視えた。それは、現実感に乏しい、もどかしいような眺めであった。 同じように、あのとき暗い家の奥から桂木を見ていた黒い犬の記憶も、なぜか希薄になっていた。ただ、それぞれの気配だけは残っている。紫の花と笹の葉ずれの音は同調してい . . . 本文を読む
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紙上『大喜利』(27)

2023-06-29 00:21:37 | 大喜利
〇 「ご隠居、あれほどワグネルやプリゴジンのことを話題にしてきたのに、どうして沈黙していたんですか」「おっと、逆に質問してきたな。それはな、ワグネルもブリゴジンももうすぐ消滅するからだ」   〇 「プーチンはやっぱり策士ですね」「プリゴジンの責任を不問にすると言って兵を引き揚げさせたのに、その日のうちに掌返して反逆罪で捜査継続だからな」   〇 「ベラルーシのルカシェン . . . 本文を読む
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思い出の短編小説『ヘラ鮒蔓具店の犬』(3)全10回

2023-06-28 00:08:25 | 短編小説
 風の通っていった道は、クルマがやっと一台通り抜けられるほどの小道だ。公園側の木々が差し延べる影が、道はおろか向かいのトタン屋根の家まで被さっている。 目が慣れると、薄暗い土間が奥の框に達していて、その手前のやや傾いたパイプ椅子の横に、首だけもたげた中型犬が、身じろぎもせずに桂木の方を見ていた。 視られていたという思いが、桂木を動揺させた。たかが犬じゃないかと思い直したが、相手が誰かはたいした . . . 本文を読む
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思い出の短編小説『ヘラ鮒釣具店の犬』(2)全10回

2023-06-27 00:15:29 | 短編小説
 毎週水曜日の午後三時からと定まっているシナリオ講座を除いて、他の時間は基本的に自由であった。 朝、ゆっくりと起きて、ホットミルクとトーストの朝食を摂る。副菜は、ボイルドエッグにロースハム、トマトにレタスといったサラダになることが多かった。 妻がマンションを出て行ってそのままの独身生活だから、食事のメニューは単調になりがちだ。ミルク紅茶やスクランブルエッグ、ツナやグレープフルーツに変わるぐらいで、 . . . 本文を読む
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思い出の短編小説『ヘラ鮒釣具店の犬』(1)全10回

2023-06-26 02:22:29 | 短編小説
 『ヘラ鮒釣具』と書かれた木製の看板と、暗い土間の奥に坐っていた黒い犬のことを、桂木はときどき思い出す。 その仕事場とおぼしき空間を持つ貧相な家は、東京の区部に隣接する市政地域の公園近くにあって、一年前に都心のマンションから引っ越してきた桂木が、好んで通う散歩道に面していた。 週一回、数駅離れた駅ビル内のカルチャーセンターで開く<シナリオ講座>の講師として、二十数名の受講生を指導することが、 . . . 本文を読む
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紙上『大喜利』(26)

2023-06-24 00:07:50 | 大喜利
〇 「おい、タイタニックを見に行った潜水艇が遭難したらしいな」「ハイご隠居、大パニック(タイタニック)だったでしょうね」   〇 「大谷がファン投票ダントツ一位でオールスター出場が決まったぞ」「もちろん二刀流でね、投げる方は先発ですか救援(球宴)ですか」   〇 「男子バレーボールがブラジルに勝って大騒ぎしてるな」「そうですね。次の対戦がアルゼンチンらしいのでサッカーと . . . 本文を読む
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ポエム367『白いタチアオイ』

2023-06-22 00:35:45 | ポエム
  道端の白いタチアオイが花開き 下から順に花開き すでに八個も花開き 残る蕾がもうすぐ自分の番かと待っている   咲き終えた白いタチアオイの花は しだいに茶色く萎れていき 下から順に萎れていき 咲き残ったツボミは誇らしげに輝いている   ハクモクレンほど短命ではないが 白い花はいずれ哀れな姿になる運命なのか いやいやそんなことはない . . . 本文を読む
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思い出の短編小説『すきま風』

2023-06-20 00:00:00 | 短編小説
 周平が商店街の歩道を歩いていると、車道を挟んだ向かい側のパチンコ店の前から軽快なテンポの音楽が流れてきた。 (おっ、チンドン屋だ) 思わず足を止めた。 物珍しさというより、懐かしさが鼻の奥を刺激した。 ここ数年、チンドンが練り歩く姿を見かけることがなかった。 全国のチンドンマンが富山市に集まってコンテストをやったというニュースを、テレビの画面で見たのは五年も前のことだ。 それ以降、チンドン屋の存 . . . 本文を読む
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新企画『ととのいました』(21)

2023-06-18 00:41:16 | 謎かけ問答
〇 「ホームラン数トップに立った大谷翔平のファン」とかけて 「ネズミ捕りの警察官」とときます   そのこころは 「まだ加速するの?、ジャッジ(計測)できないほど飛ばさないでよ」と嬉しい悲鳴をあげるでしょう。   〇 「生成AIへの危惧」とかけて 「原子爆弾を完成させたオッペンハイマー博士の後悔」とときます   そのこころは 「歯止めの効かない知識欲(禁断の木の実〉はやがて人類を滅 . . . 本文を読む
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思い出の短編小説『よたれそつね』

2023-06-16 00:50:00 | 短編小説
 三が日が明けた仕事始めの日、出勤しようとしていた雅夫は賃貸マンションを経営する大家と珍しく顔を合わせた。「おはようございます」 背後から声をかけられて振り向くと、膝上まである防寒コートを羽織り、そのくせ帽子もかぶらずにニコニコと立っていた。 一度か二度すれ違ったことがあるが、その時は目を合わせることもなく、雅夫は内心愛想のないオヤジだなとこちらも無視する気持ちになっていた。 だが、年が変わって心 . . . 本文を読む
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紙上『大喜利』(25)

2023-06-14 00:15:00 | 大喜利
〇 「台風は通り過ぎたけど、別の風が吹き始めたな」「解散風でしょう? 内閣信任案が出たら刀を抜くらしいですよ」   〇 「立憲民主は不信任案を出す勇気があるかな?」「さあ、どうでしょう。今選挙をしたら遺骨も拾えないと言われていますが」   〇 「総理の息子が官邸でヘマをやっても秘書官を辞めさせただけで大丈夫か」「株も上がってるし、防衛予算は先送りして、選挙に勝ったら信任 . . . 本文を読む
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ポエム366 『ガリラヤ湖から』

2023-06-12 00:40:40 | ポエム
ガリラヤ湖はヨルダンの大地溝帯の端にある 死海につぎ2番目に標高の低い湖だ 魚がよく獲れるので30隻もの舟が操業していたという イエスはこの湖を見おろす丘の上に立って布教した   漁師ペテロはそれを聞いてイエスの一番弟子になった たちまちガリラヤ湖周辺の人びとはイエスに帰依した ガリラヤ湖西岸とイスラエルを結ぶ街道を通って キリスト教は世界に広まっていった   . . . 本文を読む
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新企画『ととのいました』(20)

2023-06-10 00:07:50 | 謎かけ問答
〇 「高齢者の自動車事故」とかけて 「完全試合を達成した時の佐々木朗希」とときます  そのこころは 「全力でアクセルを踏み続けた」結果でしょう   〇 「梅雨前線」とかけて 「能無し大臣の国会答弁」とときます  そのころろは 「どちらも湿舌(失舌)を伴なう」でしょう   〇 「立憲民主党」とかけて 「弱虫の番犬」とときます  そのこころは 「吠えるだけで他に何もで . . . 本文を読む
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思い出の短編小説『さくら貝の歌-異聞』

2023-06-08 00:40:33 | 短編小説
  <さくら貝の歌>       美わしきさくら貝一つ    去りゆけるきみに捧げん    この貝は去年の浜辺に    われ一人ひろいし貝よ  その子の名は、キララといった。 入学式の日に、小学四年生として編入してきた。 担任の先生は、キララが福島からの転入者であることを告げた。 この町へ避難してきたのは、キララとお祖母ちゃんの二人だけだった。 福島で海産物店をやってい . . . 本文を読む
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ポエム355『新緑の風』

2023-06-06 00:23:13 | ポエム
六合村の応徳温泉に行きたいな 2年ほどご無沙汰だけど変わりないかな 伝統的建造物群保存地区の清潔さも保っているかな おいしい蕎麦屋さんもまだやっているかな   もう何十年も前に一年間湯治して 糖尿病で瘦せ衰えた体を治してもらった ぬるめだけど内臓の芯まで温めてくれる 効能あらたかなあの温泉だ   村の入り口に咲いていた黄花コスモスよ いつもぼくを快く迎えて . . . 本文を読む
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