アマギベニウツギ(画像は「季節のスケッチ・樹木の花」)より
湯ヶ島の温泉宿に泊まり
しし鍋をつついたのはいつだったろう
川端康成にあこがれて
踊り子の舞台に立ってみたかったのだ
天城ベニウツギよ
いまもそこにいますか
踊り子の少女のように
伏し目がちに俯いていますか
旧制一高の学生さんは
なぜ踊り子の後を追ったのだろう
女になる途中のおんな
謎を持て余す少女への憧れだったのだろうか
天城紅空木の好む天城の土地は
澄んだ水と湿った空気とともに
踊り子一座の姦しい峠越えを見送ったのだろう
女たちの下卑た笑いが一高生の鼻孔を擽ったとしても
天城ベニウツギよ男を上目遣いに見るな
自分を追うらしい学生を意識するな
姐さんたちの意味ありげな目交ぜに同調するな
男の揺れるこころの正体を自由に泳がせろ
川端康成が逗留した宿に旅装を解き
伊豆の踊子を執筆した部屋をのぞいたあの日
よく糊のきいたシーツに身を横たえ
地酒の酔いに誘われて一夜の夢を見た
そうか天城は青春の香りそのものだったのか
岩から染み出る滴りのかすかな匂いのように
天城紅空木の好む固陋な土地をめぐり
貧しさと因習を生きぬく集落の表情に出会いもした
姐さんかぶりに横顔をのぞかせ
踊り子一座は次の宿をめざすだろうが
限られたお座敷を経めぐる当て所なさに
ふと眉根を寄せるしぐさを男は見たのだろうか
(2019/03/09より再掲)
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