ヒトリシズカ
(城跡ほっつき歩記)より
陽のあるうちに壺阪山の宿に入ると
川を見下ろす座敷に煎茶と葛菓子が待っていた
せせらぎを聴きながら一服していると
八十歳目前で逝ったSさんとの思い出が甦ってきた
Sさんは小さな出版社の社長だった
ぼくがその零 . . . 本文を読む
セイヨウルリトラノオ
(城跡ほっつき歩記)より
なんて綺麗なんだ
瑠璃色の虎の尾よ
はるかな時を超えて
ルソーの絵から抜け出してきたのか
奇才の森は濃いグリーンだが
淡いみどりの野にもケモノの気配
チラチラと虎の尾が見え隠れする
異様に涼しい梅雨明けの . . . 本文を読む
ジャノメギク
(城跡ほっつき歩記)より
赤線廃止に興味を持って
ぼくはその街に足を運んだ
手入れの行き届かない舗装道路の裂け目を
濃緑の雑草がさらに押し広げていた
昼間だというのに
格子戸の奥には闇が澱んでいた
人の姿が途絶えて二年と聞いたが . . . 本文を読む
シャガ
〈城跡ほっつき歩記)より
最晩年の男を迎えてくれたのは
日陰の崖に自生するシャガだった
鎌倉の道は平坦に見えてもどこか坂
真っ直ぐに立ってもなぜか傾く
しっかり歩けよというのだろうか
ちゃんと背筋を伸ばせというのだろうか
何百年を生き . . . 本文を読む