どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム02 『逃亡インコ』

2012-07-04 18:11:48 | ポエム


      瑠璃金剛インコ

      (ウィキペディア)より

 

 
瑠璃色のドレスをまとった美しいインコよ

この薄汚れた空になぜ迷い出たのだ

飼い主の愛情が足りなかったのか

いや、そんなことはあるまい

口移しに餌を与え

一日中お喋りの相手をしてくれたマダムがいたではないか

むかしタカラジェンヌだった貴婦人が

歌まで教えて呉れたではないか



すみれの花咲く~ころ

見えない微粒子が空を覆った

なにかの異変を察知したおまえは

怯えた様子でマダムの肩から飛び立った

瑠璃色の美しいインコよ

なにを慌てているのだ

電線にとまって地上の人に呼びかけるのには

どんな意図があるのだ

 

飼い主のもとに戻って

もう一度甘えてみたいわけではあるまい

気づいていないかもしれないが

周囲の木の枝や高圧線の碍子の上から

ノスリやカラスがおまえを狙っている

瑠璃色の派手な衣装を着けて

平穏に過ごせると思うな

お前にも原因の一端があると非難されよう

 

マダムの庇護をはなれて

餌ひとつ探すこともできないはずだ

一夜のねぐらにも困窮するはずだ

よしんば公園の隅でミミズを探り当てたとしても

その餌は口にするな

雨水に押された落葉の裏の虫どもを胃袋に入れるな

その餌はもはやご馳走ではない

汚染された危険な毒物だ

 

おまえの耳にも届いていると思うが

人間の命より重い価値を信奉するエリートたちが

言い訳と共にまき散らした物質だ 

電線を伝わってくる人々の悲鳴が聴こえるか

瑠璃色のインコよ

おまえの逃亡に意味があるとすれば

心地よいおしゃべりでは知りえない怨嗟の声を

電線につかまって聴いたことだ



ムラを動かして作り上げた収奪システムを

エリートたちは決して手放そうとしない

自分たちの住みかを失うまでは執着するだろう

ムラは自己増殖する怪物と化し

エリートの逡巡すら食いつくす

愛すべき同胞にも万人を癒す自然にも

もはや価値を見出そうとしないのだ

 

瑠璃色の美しいインコよ

空間放射線と蓄積セシウムから目を放すな

おまえが自由の楽園と思った空は

敵意に満ちた危険領域だ

ノスリやカラスや不可視物質に襲われる前に

さっさと家に戻り

おまえに下された天啓を語れ

  

  


  


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2 コメント

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こんな詩があっても・・・・ (窪庭忠男)
2012-07-07 16:37:06
ともかく、ご批評ありがとうございました。

七夕というのに、ままならぬお天気です。
返信する
流れるような詩文 (くりたえいじ)
2012-07-06 12:36:19
極彩色のインコが目に浮かぶようです。
その飼い主で、タカラジェナヌだった貴婦人の姿も。

だけど、どんな意志からか、元の環境から脱し、何を求めているのでしょうか。
危険がいっぱいのこの世の中で。

この一文をポエムとした作者の意図が分かるようです。
静かに流れるような詩文に痛切な指摘も。
返信する

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