アカバナユウゲショウ
(城跡ほっつき歩記)より
松井須磨子の墓に連れて行ってあげますよ
ぼくを松代に呼んだ友人が言った
東京の職場が意に沿わなくて
故郷の家に帰った男だ
ぼくとは妙に気が合って
年に一度は泊りがけの旅行をしたものだ
奔放に生きた松井須磨子は
日本で初めての歌う女優だったと知ってますか
職もなく実家でゴロゴロする男が言った
「カチューシャの唄」が大ヒットしたものの
島村抱月との愛がスペイン風邪による死で潰え
芸術倶楽部の楽屋で縊死したんです
<カチューシャかわいや わかれのつらさ
<つらいわかれの 涙のひまに
<風は野を吹く(ララ)日はくれる
5番の歌詞が そこはかとなく哀れを誘う
後追いを決意した須磨子は男の写真を懐に
薄化粧をしてその時を迎えたのでしょうか
川中島の古戦場跡や
佐久間象山が蟄居していた小さな屋敷や
本土決戦時の大本営予定地の洞窟も見たが
ぼくが心を動かされたのは
須磨子の墓所につづく田舎道に咲いていた
赤花夕化粧の紫がかったピンクの花でした
新劇女優と呼ぶには田舎っぽくて
そのくせ四裂の花弁に似た意志の強さを秘める
カルテット(四重奏)のような女
「私はただ私として、生きていきたいと思うのです」
慎ましやかに見えて
これ以上きっぱりした意思表示はほかにない
あめりか渡来の洋風かぶれには
フトモモ目アカバナ科マツヨイ属はお似合いだとか
女だてらに演劇などやって
家庭をないがしろにするふしだら女だとか
不倫の果ての自死は自業自得だとか
毀誉褒貶は数知れない
古い音源で「カチューシャの唄」を聴いたぼくは
新劇に引き込まれた女性の好奇心と
生きることへの切実な衝動に心打たれる
松代の友人も意気地なく見えて実は硬骨漢なのだ
だから一番だらしないのはぼくではないかと
川を渡る五月の風に羞恥の心が裏返るのだ
松井須磨子は
スキャンダラスな女優で
イメージ的には
毒々しい花のように思っていました
不倫の果ての後追い自殺
そこまで読めば
確かに自業自得だと思えますが
島村抱月と一緒の墓には入れてもらえず
一人寂しく眠っているのでしょうね
紫がかったピンクの花と
田舎道の情景は
よりいっそう寂しさを誘い
ジーンとこられたのじゃないでしょうか?
いつもありがとうございます
丁寧なコメントありがとうございます。
松井須磨子は最初の結婚で舅との折り合いがうまくいかなかったことが、その後の人生を左右したようですね。
島村抱月との出会いは、必死に生きようとしていた彼女にとって救いだったのではないでしょうか。
ご指摘のとおり、一緒の墓に・・・・という願いは叶えられず、生家の裏山に葬られています。
東京の寺に分骨されているとはいえ、果たして安住の場所になっているかどうか。
自分は自分として生きるとの覚悟が痛々しく、ただただ寂寥を感じた次第です。
連続して出かけておりましたので、失礼を申しあげました。
「カチューシャの歌」は、小生の年代でも馴染みがあります。
平成の歌には、いまひとつ馴染めないのですが、大正・昭和の頃の歌ですと、その後のテレビやラジオの影響などで、深く記憶に刻み込まれております。
この画像は、自宅近くの某セレモニーホールの臨時駐車場の道端に自生していたものです。
草丈の割には花茎が細いので、ほんの少しの風でもゆらゆらとその身を任せていました。
さわやかな初夏、5月の野花なのですが、どことなくけだるさを感じさせてくれる存在です。
いつもご利用いただき御礼を申しあげます。
今回もまた画像を拝借しまして、若い頃の記憶を呼びさまされました。
日本各地の道端などに適応し、群生する帰化植物だそうですが、花の風情はなかなか美しいのではないでしょうか。
少しの風にもゆらゆらと揺れるさまを、身を任せるとは言いえて妙と感心いたしました。
勝手ながら、須磨子の一面に思いをいたしました。