ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

りんごの香り

2010-01-05 18:33:04 | Weblog
今日は比較的穏やかな天候だったので、
ふわふわした気持ちで、銀行に向かって歩いていたら、
いきなり目の前で、おばあさんが頭から前に倒れた。

目の錯覚というよりも、あまりにも現実感がない光景で、
反射的に駆け寄って声をかけたんだけど、
自分の行動も含めて、なんだか違うところから眺めているような気分だった。

おばあさんはすぐに顔を上げて、会話ができるようになった。
さいわい、倒れた衝撃は、すべて眼鏡が吸収してくれていて、
眼鏡は壊れたけど、怪我ひとつしていなくて、立ち上がることもできた。

聞くと100メートルくらい先の団地に住んでいるということだったので、
家まで送って行くことにした。
うるさいだろうけど、変化がわかるから、道中はずっと話しかけていた。

どうやら一人暮らしのようだった。
でも、指には結婚指輪をしていたから、きっとご主人に先立たれたのだろう。
結婚指輪は、いまでもキラキラ輝いていて、
すごく大切にしているようだった。

玄関先まで行くと、ちょっと待っててと言われた。
少しだけ見えた部屋の中は、きちんと片付けられていて、
掃除も行き届いているようだった。
物は少ないけれど、丁寧に使われている清潔な家、という雰囲気。
きっと、なでるようにやさしく掃除をしているのだろう。

そして、ありがとう、と、りんごをひとついただいた。
ひとつしかないけどね、と。

今日は一日中、カバンを開けるとりんごの香りがして、
とてもやさしい気持ちになった。

私が70歳くらいになったとき、
あんな生活ができていたらいいな、と思った。
普段はひとりぼっちなのだろうし、
物は少ないし、とても裕福という雰囲気ではなかったけれど、
家の中に、感謝というか、あたたかさというか、
なんともいえない、ゆたかな空気が流れていた。

時代からは忘れられた存在かもしれないけど、
あんな年齢の重ね方は、とてもいいと思う。