
人を語る~T.S.エリオットの場合
今もロングランを続けているミュージカル『キャッツ』 その原作が英国の詩人エリオットの詩集『Old Possum's Book of Practical Cats(ポッサムおじさんの猫とつき合う法)』であることは、みなさまご承知のことと思います。この詩に作曲をしたのが、アンドリュー・ロイド・ウェバーです。素晴らしいメロディーが散りばめられていますが、中でも娼婦猫グリザベラの歌う「メモリー」はいつまでも心に残ります。今日は、このT・S・エリオットのことについて少し書いてみます。
エリオットはイギリスの詩人にして劇作家、文藝批評家で1948年にノーベル文学賞を受けています。「4月はこのうえなく残酷な月だ」で始まる長詩「荒地」The Waste Land はとっても有名ですね。映画『地獄の黙示録』でもそのなかの言葉が引用されています。また連詩『四つの四重奏曲』も有名です。
ところで「ポッサムおじさん』ですが、これはアメリカの詩人エズラ・バウンドがエリオットにつけたニックネームとか。ポッサムは、リスのような小動物で木の上に登ります。オーストラリアで仕事をしていたころ、メルボルンのヒルトンホテルの前がフィッツロイ公園で、夜になるとポッサムがそこここに出没しているのをいつも目にしたものです。なんとも愛すべき動物です。真面目な一方、ウイットに富んだ人でもあるエリオットにふさわしいニックネームかもしれません。
たまたま『キャッツ』の原作になる詩集は、子供向けに書かれたものですが本来は連詩『『四つの四重奏曲』にみるように、かなり思想的な内容のものであります。そんなエリオットの姿は、どのようなものでしたでしょう?
実はごく平凡なサラリーマンだったのです。伊藤肇という人物評論を書いたひとが、そのエピソードを次のように描写しています。(『左遷の哲学』)
”T・S・エリオットという人がいる。ノーベル賞をもらった英国の評論家だ 。しかし、彼は評論が専門ではなく、銀行マンだった。
午前九時にバスに乗って銀行へ行き、午後五時まで勤めて家に帰る。そこに はややノイローゼ気味の奥さんがいて、その奥さんを一所懸命、看病し、夕 飯をつくって食べさせ、寝かせる。そのあと、十時から十二時まコツコツ勉 強して書きつづけた、その評論がノーベル賞になったのである。だから「俺 は芸術的才能があるんだ。商社マンなどになってバカバカしい」という人た ちには、「君はT・S・エリオットを知っているかネ」といってやりたい。「 俺は、この仕事に向いていない」などとうそぶくのは、たいそれたことなのである。”
少し補足しますと、エリオットは夕方から雑誌の編集と新聞への起稿(詩、評論など)を毎日書いています。彼は、アメリカにいた時ハーバード大学で哲学を専攻しており、そこらのサラリーマンとは違います。銀行は、ロイズ銀行です。
ちなみに、この本が書かれたのは1978年。ミュージカル『キャッツ』のロンドン初演は、1981年。伊藤肇は、このミュージカルのことを知る前にこの一文を書いている。もし知っていたら、”すごいね!”とつけたしていたかもしれません。
知れば知るほどT・S・エリオットはすごい人です。東芝の社長であった岩田弐夫(かずお)が、言っていたように「平凡に徹せよ。平凡の積み重ねが非凡に通ずるのだ」ということでしょうか。
余談になりますが、エリオットと銀行員というキーワードで検索していたら、「ニ葉亭餓鬼録」という人のブログに辿り着きました。もっと詳しく、かつ自分の言葉で語られたエリオット像があります。興味がある方は、のぞいて見てください。最新の記事では、「散歩の途中で」という肩のこらない、しかも日々をエンジョイしておられる姿が感じ取られます。こういうクオリティの高いブログに巡り会えたことは幸いでした。
今もロングランを続けているミュージカル『キャッツ』 その原作が英国の詩人エリオットの詩集『Old Possum's Book of Practical Cats(ポッサムおじさんの猫とつき合う法)』であることは、みなさまご承知のことと思います。この詩に作曲をしたのが、アンドリュー・ロイド・ウェバーです。素晴らしいメロディーが散りばめられていますが、中でも娼婦猫グリザベラの歌う「メモリー」はいつまでも心に残ります。今日は、このT・S・エリオットのことについて少し書いてみます。
エリオットはイギリスの詩人にして劇作家、文藝批評家で1948年にノーベル文学賞を受けています。「4月はこのうえなく残酷な月だ」で始まる長詩「荒地」The Waste Land はとっても有名ですね。映画『地獄の黙示録』でもそのなかの言葉が引用されています。また連詩『四つの四重奏曲』も有名です。
ところで「ポッサムおじさん』ですが、これはアメリカの詩人エズラ・バウンドがエリオットにつけたニックネームとか。ポッサムは、リスのような小動物で木の上に登ります。オーストラリアで仕事をしていたころ、メルボルンのヒルトンホテルの前がフィッツロイ公園で、夜になるとポッサムがそこここに出没しているのをいつも目にしたものです。なんとも愛すべき動物です。真面目な一方、ウイットに富んだ人でもあるエリオットにふさわしいニックネームかもしれません。
たまたま『キャッツ』の原作になる詩集は、子供向けに書かれたものですが本来は連詩『『四つの四重奏曲』にみるように、かなり思想的な内容のものであります。そんなエリオットの姿は、どのようなものでしたでしょう?
実はごく平凡なサラリーマンだったのです。伊藤肇という人物評論を書いたひとが、そのエピソードを次のように描写しています。(『左遷の哲学』)
”T・S・エリオットという人がいる。ノーベル賞をもらった英国の評論家だ 。しかし、彼は評論が専門ではなく、銀行マンだった。
午前九時にバスに乗って銀行へ行き、午後五時まで勤めて家に帰る。そこに はややノイローゼ気味の奥さんがいて、その奥さんを一所懸命、看病し、夕 飯をつくって食べさせ、寝かせる。そのあと、十時から十二時まコツコツ勉 強して書きつづけた、その評論がノーベル賞になったのである。だから「俺 は芸術的才能があるんだ。商社マンなどになってバカバカしい」という人た ちには、「君はT・S・エリオットを知っているかネ」といってやりたい。「 俺は、この仕事に向いていない」などとうそぶくのは、たいそれたことなのである。”
少し補足しますと、エリオットは夕方から雑誌の編集と新聞への起稿(詩、評論など)を毎日書いています。彼は、アメリカにいた時ハーバード大学で哲学を専攻しており、そこらのサラリーマンとは違います。銀行は、ロイズ銀行です。
ちなみに、この本が書かれたのは1978年。ミュージカル『キャッツ』のロンドン初演は、1981年。伊藤肇は、このミュージカルのことを知る前にこの一文を書いている。もし知っていたら、”すごいね!”とつけたしていたかもしれません。
知れば知るほどT・S・エリオットはすごい人です。東芝の社長であった岩田弐夫(かずお)が、言っていたように「平凡に徹せよ。平凡の積み重ねが非凡に通ずるのだ」ということでしょうか。
余談になりますが、エリオットと銀行員というキーワードで検索していたら、「ニ葉亭餓鬼録」という人のブログに辿り着きました。もっと詳しく、かつ自分の言葉で語られたエリオット像があります。興味がある方は、のぞいて見てください。最新の記事では、「散歩の途中で」という肩のこらない、しかも日々をエンジョイしておられる姿が感じ取られます。こういうクオリティの高いブログに巡り会えたことは幸いでした。
早々のお立ち寄りありがとうございました。含蓄のあるコメント興味深く拝見しました。
ヴァージニア・ウルフはまだ読んだことがないのですが、生きるよすがが思い出というのは、すこしさびしいですね。「メモリー」でも、過去を愛しむ一方で、”I must think of a new life”と言っています。ぼくはこちらの方に共感を覚えます。三島由紀夫のことばに、すこし付け足すと味のある俳句になりました。
”この世とは思い出ならずや椿散る”
追悼句みたいですが・・・。(笑)勉強になり、また遊ばせていただき、ありがとうございました。
今から20数年前、子供が学生の頃、4人で海外へ行くのは最後だろうと夏休みにアメリカへ出かけた。ナイヤガラの滝を見て、フロリダに行き、レンタカーを借りてキーウエストの突端まで行き、2泊してニュウヨークに戻った。そして、夜ブロードウェイで見たのがキャッツであった。ホテルで頼んだチケットは劇場の最前席。飛び跳ねる猫の息遣いや中には客席に飛んでくるのではないかと思われる猫がいて、思わずこちらがのけぞった。そして今でも忘れられないのが、舞台の終わりごろで娼婦猫が落ちぶれた格好で歌った「メモリ」である。実に哀感のある歌だった。その後国内やあちこちでキャッツの看板を見るとブロードウエイの舞台を思い出し、メモリの詩を聞くとあの娼婦猫を思い出す。
その原作者について今回ゆらぎさんのご紹介で詳細を知りました。自分の人生にとって忘れられない感動のミュージカルです。有難うございました。
嬉しいコメントをありがとうございました。「キャッツ」をブロードウエイで、しかもかぶりつきで見ておられるのですか。凄いです。それならば、「メモリー」の旋律も脳裏に焼き付いていることでしょうね。
それから、あの長い橋を渡ってキーウエストまでドライブですか。これまた凄い! 長距離ドライブでしたでしょうね。たしかキーウエストにはヘミングウエイの住家があったのでは。いつか機会があれば、旅行談を伺いたいもの
です。
楽しいコメントをありがとうございました。読んでいて、思わず吹き出してしまいました。すごいとところに席を確保されましたね。猫とのからみあいのシーン、見てみたかったですねえ!