(新)緑陰漫筆

ゆらぎの読書日記
 ーリタイアーした熟年ビジネスマンの日々
  旅と読書と、ニコン手に。

時報 中国について(最終回)『米中衝突を避けるために』

2019-06-09 | 時評
時評 中国について(最終回)『米中衝突を避けるために』

 事態が目まぐるしく進展している。米中貿易戦争は、今や覇権争いの様相を呈してきた。一体、どうなるのか? またどのようにして覇権戦争にならないようにするのか? その上で、この問題に日本としてはどのように取り組むべきかを考えねばならない。

 今回取り上げる『米中衝突を避けるためにー戦略的再保障と決意』は、どのようにして米中の軍事衝突を避けるのか、一つの注目すべき考え方を提示している。著者のジェームス・スタインバーグはクリントン政権下で国家安全保障担当補佐官をつとめたあと、オバマ政権の一期目には外交ナンバー2の国務副長官を努めた。もうひとりの著者であるマイケル・E・オハンロンはブルッキングス研究所外交政策研究部長を努めている。

  「トゥキディデスの罠」という言葉がある。( The Thucydides Trap)これは、古代アテナイの歴史家、トゥキディデスにちなむ言葉で、戦争が不可避な状態まで従来の覇権国家と、新興の国家がぶつかり合う現象を指す。( アメリカの政治学者グレアム・アリソンが作った造語)今は、まさにそんな状態である。

しかし、この本の説くところは、悲観的な結末は不可避ではないとしている。だが、両国にそのような結末を阻止しようとする包括的な戦略がないと、強い力が働き、米中衝突は実現してしまう、と警告している。
本書は、米中両国のそれぞれの戦略、戦略文化、軍事力を詳細に検証、軍備拡大、対立を深める要因が存在することを明らかにし、軍事的衝突を避けるための道筋を提示している。その中心的概念が、冷戦期の米ソ間の経験を踏まえた「戦略的再保証」と「決意」というアプローチである。「戦略的再保証」とは、自国の戦略的な意図について相手側が抱いている懸念を和らげることができるように、具体的な道筋を明示することだ。また、双方が「戦いに値する」と信じるようは利益が何であるかを明確にし、許容の限界をはっきりさせることが「決意」である。抑止論のカギとなる要素であり、相手がこちらの意図を読み違えることの危険性をへらすものである。


 (以下の文章は、殆どが本書からの引用であるので、これまでのように、引用箇所をゴシック体にはしていない。ただし、重要なところはゴシック体とした。ゆらぎの文のついては、注)または、ゆらぎ所感と記した。)
 (なお、長文になるので、初めに、「要約すると」に目を通され、その後「ゆらぎ所感」を一読されてから、全文をお読みいただくのがいいかも知れない)


 (戦略的再保証を実現するための取り組み)

「自制」・・・相手の安全を脅かしかねないような選択を手控える。それによって、どちらも(相手に対して敵意は持っていない、というそれぞれの意図をより強く信じてもらえる。こちらが自制していると、相手に最も強く信じてもらえるのは、相手が明白の懸念を示した事に対し、反応したときである。

たとえば、米国は台湾への武器供与にあたっては台湾の防衛目的「パトリオット迎撃ミサイルや機雷対策の掃海艇)に絞ってきた。地対地弾道ミサイルやなど中国本土への攻撃的脅威とも位置づけられる大規模な装備の供与は避け、注意深く調整してきた。中国もまた軍備の近代化においてある程度自制してきた。(まだ、米ソ間の実績と比べると、まだまだである) 自主的な自制は、交渉で物事を取り決めるよりも優れた点がいくつもある。

「強化(リインフォースメメント)」・・・自制という言動に裏打ちされ、強化された自制は再保証につながる。たとえば、米国側であれば、独立国家であることが加盟の条件となっている国際機関に台湾が加わることに反対票を投じることである。そうすることで米国の行為は、台湾やチベットを中国本土と不可分、一体だとみなす「一つの中国」政策に沿ったものだと受け止められる。中国側なら、核弾頭を「中国から米国まで届くような長距離の)戦略ミサイルに搭載しない政策は、核兵器を先制使用しないと宣言していること信頼性を強化しているものと映る。

  注)核の先制不使用という言葉を、最近中国では外したとの情報もある。


「透明性」・・・互いの軍事的な能力についての理解を深めることは、もう一つの重要な取り組みである。冷戦期以降のオープンスカイズ体制(領空を開放し、査察を受け入れる取り決め)のような経験は、透明性がいかに戦略的競争も和らげることができるかを示している。

「強靭性(レジリエンス)」・・・強靭な軍事力を持ち、たとえ攻撃を受けても容易に復元するほどの能力を備えることは戦略的再保証ににとって重要な概念である。強靭性があれば、相手からの再保証が期待されない場合に、臨機応変に対応を修正できる。強靭であれば、対立が拡大したり、先制攻撃を招いたりする危険性が減り、軍事力の配備の誤りが正され、結果的に、危機が起きても事態を抑え込める可能性が高まる。また、外部からの攻撃を受けても核兵器・原子力発電のシステムが存続し、指令・制御の仕組みが稼働しているようにすることが大切である。


「決意」(レゾルブ)・・・「決意」は、これまでのー相手がこちらの行動は敵意に基づくものだと受けとめ、脅威に感じたりすることのないように、こちらには敵対するつもりはないというい合図を送るといった取り組みーとは反対のやりかたである。著者たちは。「決意」を次のような意味で使う。つまり、双方が「戦いに値する」と信じるような利益が何であるかを明確にするということである。決意には、相手の誤った認識を追い払う狙いも含んでいる。この場合は、相手のどんな行動がこちらには受け入れがたいもので、実際にそんな行動をとったら、こちらから強硬な反応を引き出すことになると明らかにすることである。

米国にとっては、戦略的決意それ自体が戦略的再保証一つの表し方である。ただし、、この場合の再保証とは、(日本をふくむ西太平洋で)同盟関係にある国々に対して米国が安保障に関するコミットメントを維持していく能力も意思もあると示すことである。米国が同盟国を支え、安全を約束することは、米国と同盟国がひとまとまりで中国と向き合っているとみなせるので、中国および中国と隣り合う国々の間の戦略的競争を軽減し、この地域の安定に大いに貢献するからである。

これら要素を手がかりに、競争にまつわる米中間の二つの問題への対応策を検討している。軍備拡張競争がもたらす不安定性をどうおさえるか、そして危機が発生しても事態がエスカレートしにようにどうやって安定を取り戻すのかという課題である。

 本書では、以上の戦略的再保証の概念にしたがって、米中双方に20以上の政策を提言している。重要なのは、、双方が戦略的再保証を中心的で系統だった政策とみなし、深くかかわっていくことである。双方とも、この政策の優先順位を、主要な国益を守るために従来から取り組んでいる政策と同じくらいにするだけでも、米中関係の将来にとっては吉兆である。


(紛争の原因)政策の提言にあたり、まず今日の米中関係のおける力学と潜在的な危険性について整理している。

両国の紛争の原因としては、台湾の問題、中国に近い空域および海域での米軍の演習、東シナ海での尖閣諸島の問題、日本の平和憲法を改正する動き、米中両国の戦略文化の違いに由来する問題、「屈辱の世紀」、政治体制の違いなどなどがある。そうしたことを踏まえた上で、どうすれば両国は、安全保障の領域で敵対し合うのを抑え、共通の利益を促進できるか、そのことについて将来の戦略的再保証を左右する要因を一つ一つ深く検討している。

(中国と米国の戦略を決める要因)

 公の場での発言に限れば、中国の文民の指導者は多くの場合、楽観的な意見にくみしている。たとえば、元外務次官で現在中米大使の崔天凱はフォーリン・アフェアーズのインタビュウで次のように答えている。

 ”わが国は自らをグローバルなシステムに統合する用意があり、国際ルールにしたがう準備はできている。もちろん、これらのルールは中国がほとんど参加せず出来上がった。世界は変化しているし、半世紀前に決まったルールが一切の変更なしに適用できるとは誰もいえない。ただし、わが国が欲するのは革命ではない。わが国は国際システムの必要な改革に賛成しているのであり、それを転覆させることも、まったく新しいものを打ち立てることも意図していなし”

 注)中国はWTO加盟にあたって、国際ルールを守るといったが、実際にはそのいくつかは無視されてきた。

 中国の意思決定者たちは、複雑に絡み合う力によって、より自己主張の強い政策、より調和的な政策の両方に引っ張られていることがわかった。重要なのは、これらの要因をどう活用すれば、中国がより協力的な対応に出るのかを考えることである。たとえば、米国の政策立案者の工夫次第では、中国国内にいる建設的な戦略を支持するとみられる政治勢力を後押しすることは可能だ。

また米国の政策立案者は、中国特有の安全保障語り方や、中国ではどんな要因が米国の戦略に対する評価に影響を与えているのかについて理解を深めなければならない。その理解が深まれば深まるほど、中国側から互恵的で肯定的な行動を引き出すようなやり方で、対中政策をまとめ上げられる公算が大きくなる。

 米国では、中国の国力が増すにつれて、中国の台頭は米国の安全保障の直接的な脅威であり、米国は中国の軍事力を牽制しなければばらないという主張する学派もある。また中国意思決定で軍が重要な役割を果たしていることを指摘し、軍に対する完全なシビリアン・コントロールが敷かれているのか懸念する声もある。

そのような見方に沿って、中国における民主的な変化と人権の擁護を積極的に支持することは、中国の政治システムに「平和的な変化」をもたらすことになり、中国の台頭はより脅威ではなくなる。・・・それでも状況はそれほど単純ではない。米国民は多くの階層にわたって、中国の台頭を軍事的な脅威だとみている。米国民の中国への好感度も2013年には37%に低下した。

米国では、戦略文化や国内政治に根ざした強い力が働いていて、米中の対立した感情を和らげるどころか、悪化させ、さらには緊張を高め、軍備増強の競争に駆り立てるような政策を選ばせる傾向にある。米国の今後の戦略は、北京側の選択ー国内政治、経済政策そして安全保障政策のおける選択に大きな影響を受ける。中国が平和的な意図を持つ場合は、米国での議論の助けになるが、中国が高まった自分の力を使って、相手の弱みにつけこむような国、中国に対する懐疑主義者の説明を正当化してしまう国ならば、米国のより対決的なアプローチを呼び込むことになる。これは中国側の動きと鏡に写したようににている。

このような米中関係構図は、互いに再保証しあうというアイデアが両国の関係を前進させるうえで、カギとなることを示している。米中関係から肯定的な結果がもたらされるかどうかは、それぞれが互い関心事に積極的に対応し、対立へと傾きがちになるのを抑えて、前向きな勢いを生み出せるかどうかにかかっている。



(戦略的再保証の実際)ここでは、軍事支出と軍の近代化、有事のシナリオ、そして核・宇宙・サイバーといった戦略的領域ならびに海外基地と戦力配備について検討を行っている。

アメリカのラムズフェルド国防長官が2005年にアジア訪問に際して、”中国の国防予算は世界で三番目に大きい、アジアでは明らかに最大だ。中国を脅かす国などないのだから、疑問が湧いてくる。この投資の伸びは何のためか、巨額の武器購入が継続して拡大しているのは何が目的か・・・”、と。この発言は中国が世界第二の軍事大国になったことがはっきりする前にされたものである。

今後の経済成長により、中国の軍事支出が増え、軍事力が高まることは間違いがない。
ただ、軍備に回せる経済資源の規模は現在の経済トレンドを単純に延長して作った予測が示すよりも不確実性が高い。おそらく国が生み出す富を国防費にこれ以上割くようなことは避けたいと中国の指導者が考えるようないくつかの事情がある。

この後、軍事支出と軍の近代化に大きくページを割いて、その詳細を検討している。そのうえで、総括として、「中国の国防予算は急激に増加しているが、対GDP比でみると依然として控えめな数字だ。同じくらい重要なのは、国防予算の増加が最近のことなので、中国はまだまだ最新鋭の軍事兵器を十分に保有できていないということだ。(注、いささかの疑問も)さらに「同国の軍も複雑な戦闘作戦の経験に乏しい、というより、中国は国外での戦争を経験してこなかったのだから、そうした経験は事実上皆無といったほうがよい」、と。

 有事のシナリオについても突っ込んで検討している。そして次のような見方をしている。まる一世紀の間、戦争をしたことのない中国の軍隊は、戦闘の危険性を無視したり、過小評価している可能性がある。中国の軍事戦略に関する研究家アンドリュー・エリクソンが述べたように、現代の中国軍は中国版の「キューバ・ミサイル危機」をまだ経験していない。

つまり、中国の軍事作戦に対する考え方は激しい不安を抱かせる恐ろしい経験によってまだ鍛えられていないのである。その結果、自信過剰が生まれる。戦争の危険性を十分に理解できず、新しい軍事テクノロジーが以前よりも短期間で決定的な勝利をもたらすという期待を抱くことにもなる。

尖閣諸島問題について。当事国の米国、日本、中国は決意と慎重さをうまく組み合わせて危機を管理し、事態が悪化する方策を検討する必要がある。決意を示すために、米国と日本は尖閣諸島の現状を力で変更することは受け入れられず、適切な反撃を受けることになると中国にはっきりと伝えなければならない。

どの有事のシナリオが起きても深刻な米中戦争が発生するリスクは多くの人が考えているよりも遥かに大きい。米中両軍を近接遭遇させるような軍事行動がもし始まった場合、その後のあらゆる局面で当事者が意図するか否かにかかわらず事態がエスカレートしていく危険があることを理解し、この点を米国の危機対応策にお織り込んでおく必要がある。

米国は止むを得ない場合を除いては、全面戦争に至るリスクを避けつつ、強い決意を示す手段を見つけ出す必要がある。・・・中国もまた米国には真のレッドライン(越えてはならない一線)が存在し、それに触れた場合は対抗措置が発動されるということを理解すべきである。

とりわけ中国は、領土問題解決のための武力行使はしないと表明することに前向きではないが、そのことがどんな帰結をもたらすのか理解すべきだ。一方で、米国とその同盟国も可能な限り軍事行動に及ばない形で中国に重いコストを強いる有意かつ効果的な対抗策の選択肢を独自に準備しておく必要がある。そうした選択肢は、事態を激化させるよりも、対立を撤回したいと中国が考えた時にそれが実行できるものでなければならない。軍事行動を用いずに中国に譲歩を迫る政策手段を揃えておくことが決定的に重要になるのである。

 
 戦略的領域、すなはち核戦力、宇宙、サイバー空間での軍事力での戦力比較、戦略的攻撃力についても詳細に検討している。その詳細は省略するが、ここでも戦略的再保証を深めるための取り組みは多くある。海外基地のことも割愛する。



(要約すると)

 米中関係は岐路にたっているとの認識が政策立案者と識者のあいだで広がっている。ニクソン大統領の歴史に残る訪中以降の40年はほぼ友好的な関係が互いの行動にあらわれて来たが、もはや過去のものとなり、最良の時は終わったのだろうちう受け止めが太平洋の両側で増えている。両国の間には競争的でダイナミックな関係がもともとあり、それがもたらす危険を認識し、熟慮に裏打ちされた戦略と政策でリスクに対処しない限り、これまで述べてきたような理由によって、懸念は現実のものとなってしまうだろう。

戦略的再保証という考え方は、十分ではないが不可欠の要素である。米中はそれぞれ、自国がもう一方に対し協力する意思があるということ(戦略的再保証)をわかってもらえるように手を尽くさなければならない。しかし、同時に、必要とあれば自国にとっては死活的に重要な利益を守る意思と能力を備えていること(戦略的決意)を示さなければならない。

 この戦略が成功するためには米中が、それぞれの役割を遂行しなければならない。ただし、強国として台頭する中国には特別な責任がある。近隣諸国と米国、そしてより広く国際社会に対して、自らの安全保障の追求が他国の犠牲の上に成り立つものではないと示す責任である。米国は過去40年間、経済的にも政治的にも影響力を有する国として興隆するのを喜んで支持してきた。

戦略的再保証を求めて行く上で、いくつかのカギとなる要素がある。第一に、双方とも相手の自己イメージと安全保障についての語り方を理解しなければならない。多くのハイレベルの政策立案者たちは。これまで実に効果的に対処してきた。しかし、両国とも世代交代が徐々に進んでいる。後続の世代にも理解してもらうことが必要である。第二に、たとえ戦略的決意を発動し、国益を守る場合であっても、運を天に任せるよな瀬戸際作戦は避け、平和的な解決や緊張緩和のためのドアを開ける方策をとるべきである。

軍備競争や紛争のリスクを減らすために、今後米国と中国がとることのできる具体的なステップを「政策提言の要旨」として、下段にに示した。(煩雑になるので、各項について二、三の例を上げるに留める。全部で24か条ある)

 「国防予算、兵器近代化および軍事ドクトリン」
   ・中国は国防予算が増加し、米国の50%に達した時点で頭打ちとすること。
   ・米国はエアー・シー・バトルをエアー・シー・オペレーションズに変更。中国は先制攻撃と危機の急なエスカレーションを減らすため、対艦弾道ミサイルおよび同様に迅速な攻撃能力を持つ兵器の開発・配備を制限すること。

 「有事対策」
   ・米中両国は北朝鮮での動乱発生、不安定化に備え、核やインフラの安全確保をふくむ非常事態対策について対話し、実践すること。
   ・米国は台湾有事の場合、危機がスカレーとするのを抑える作戦運用の枠組みを用意すること。中国が台湾を封鎖しても、米軍は本土や港湾を早期に攻撃せず、海底の通信ケーブルには圧力を加えないこと) 一方で、台湾が中国からの    威圧に屈しないよう支援する能力を維持すること。

 「核、宇宙、サイバー」
   ・米ロが次の核軍縮交渉で核弾頭を半減するのにあわせて、中国は自らの核弾頭の配備に上限を設けることで合意すること。

   ・米中両国は明らかにどちらかの領土から発したと疑われる、民間を狙ったサイバー攻撃が起きた場合には共同で調査にあたると合意すること。中国はサイバー犯罪に関する国際的な取り決めを定めた条約に加盟すること。両国は民生の    インフラを攻撃しないと合意すること。

 「通信・偵察」
   ・米中両国は監視のために相手国の領空に入るのを認めるオープン・スカイズ及び、軍事演習の相互監視で取り決めを結ぶこと。



 これまでのことを通じて、著者たちは、戦略的再保証が四つの中核的な要素、すなわち自制、強化、透明性、そして強靭性を創造的に活用することから立ち上がって来ることを見てきた。賢明なる自制(レストレイント)ー脅しと誤認される行動に出るのを見送ることーは、こちらの意図を相手に発信する強力な道具である。このような理由で著者たちは兵器の開発(たとえば核兵器、ミサイル防衛、人工衛星を破壊する能力など)から運用(基地や軍事演習)なで多くの自制を示すべき分野を提案してきた。

一方で、著者たちは、自制することは(相手国だけでなく、国内からも同様に)こちらの弱さの表れだと間違って受け取られるリスクがあることを認める。だからこそ、自制の効果を高める強化(リインフォースメント)という要素を加えることが不可欠となる。相手国の自制に報いる互恵的な対応をとることで好循環が生まれ、信頼が醸成される。透明性(トランスペアレンシー)とは軍事力をめぐる不透明さを拭い去ることだけではない。こちらの意図に変化があるのかどうか、相手がわかるように十分な信号を送ることにも役に立つ。

その結果、、突発的な事態の変化に直面するリスクや、自生していること自体が抱える危険性も抑えられる。強靭性(レジリエンス)も自制を実践している際のリスクを小さくするが、最も重要なことは、こちらの耐性が強いことを示しすことで、相手方が先制攻撃や、事態をエスカレートさせる手段に訴える必要性を減らすことである。したがって危機の際に過剰な反応が起きるのを抑え、事態が安定する可能性を高め、不注意によって紛争に至るようなことを避けられる。

このことを明確に例証する領域はサイバー空間である。戦略的な決意(レゾルブ)もまた重要である。双方ともそれぞれに、自国の根幹的な利益が何であるかを明示し、相手に伝えなければならない。何が国益であり、それを守る決意をどれほど強く持っているかについて、明確さに欠けると抑止は失敗しかねない。

米中両国の間には、後ろ向きで危険な相互作用が働く可能性がある。それを認めあうことは、滑りやすい坂を進むのを回避する強力な誘因になる。これまで提案してきた基本的な概念、具体的な取り組みは、米中両国が認識を共有し、紛争を避けることに役立つだろう。

もう一つの全体にかかわる論点は、深い、そして率直な対話である。「囚人のジレンマ」とは二人の囚人が互いに連絡を取り合い、立場を調整することが許されていない場合のジレンマである。連絡が取り合えるなら、最適な目標にもっと容易に到達できる。

対話は戦略的かつ戦術的であることが求められる。戦略のレベルでは、北京もワシントンも相手側にとって死活的に重要な安全保障の利益を考慮にいれ、少なくとも、それぞれの同盟国や友好国が許容するような形で、将来の見通しを明確に示さなければならない。また、米中はそれぞれ相手側が、こちらの同盟国や友好国の犠牲の上に安全保障を実現しようと試みるならば、抵抗するという強い意思を能力に裏打ちされた形で伝えなければならない。

今日まで、中国は平和的に台頭すると表明し、米国は強くて繁栄する中国を支持してきたが、互いの疑念を拭い去ることにはなんら役立っていない。したがって、米中の対話では紛争をもたらしかねない要素を取り上げねばならない。・・・2011年に創設された米中戦略安全保障対話は、こうした議論の重要な枠組の一つであり、率直な議論と同様に、いずれ具体的な成果を上げなければならない。

 楽観的な結末に到達可能だと語ることは、結末そのものまで保証している訳ではない。それでも、楽観的な結末への道筋を探ることは、悲観主義が生まれる構造を解体する上で重要であり、両国の政策立案者に対する刺激となって、彼らが実現のための努力を強化すると期待している。

     ~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「戦略的再保証と決意」という言葉は、一般にはなじみはなく、分かりにくかったかも知れない。それは、私の表現能力の不足でもあったかとも思う。なにとぞご容赦頂きたい。四回にわたって書いてきて、感じたことを記しておく。


(ゆらぎ所感)

まずこの本のことである。出版されたのは2015年の初頭、それから4年あまりが経過し、米中関係は大きく変化してきている。しかし、本書の説くところは今でも読むに値し、また活用すべきものである。このような考察と研究成果をまとめて公表し、世に問うたことにはアメリカの懐の広さを感じる。現在のアメリカ政府では、本書の指摘に対し、どのように考えているのであろうか。

米中衝突の可能性については、予測は不可能である。しかし、中国が貿易戦争とはいいつつも軍事的対決にまでは踏み切れないのではないか。もちろん、偶発的かつ局地的な小競り合いはあっても。なぜならば、戦争という事態になれば、各国との貿易はほとんど途絶えるであろう。そうなると中国の経済は悪化の道をたどることになる。

現在の中国の若者たちは、経済的に豊かであればこそ、海外旅行も行けるし欲しいものを手にする事ができる。それが難しい状況になると、政府に対し大きな不満を持つ。それは、今の中国政府のもっとも恐れていることである。習近平は「長征」と言って持久戦を言っているようであるが、指導力の低下も囁かれている。どこかで、この本の著者のいうような「戦略的再保証と決意」の力が低下し、覇権戦争も終息をみるような気がする。

中国の経済力を削ぐためには、関税をかけることによる効果も狙うであろうが、その他にも経済力を削ぐやりかたはある。たとえば、サプライチェーンの再構築である。商品を中国で生産していたものを東南アジアなど他の地域で生産する。

一方で国際政治の観点で考えると、冷戦時代、中国が「遠交近攻」と称して、ソ連と対抗するためにアメリカと結んだ。同様な観点からすると、アメリカは日本、東南アジア諸国だけでなく、欧州とも緊密な関係を結びたい。この欧州には、ドイツの問題がある。以前「ドイツリスク」と記事を書いた事がある。(2017年3月12日)

この中で、「中国に共鳴するドイツの歴史観」を紹介した。とくにメルケル政権は、中国のお金を欲しさに中国に擦り寄り、あれへもこれへもと投資した。現地法人、合弁会社からは、少なからぬ技術が流出したものと見られる。メルケルも、ようやく中国の問題に気がついたようではある。アメリカ政府も、欧州の防衛努力が不足していると非難するばかりでなく、対中国共同戦線を張るためにも手を結ぶべきである。欧州からの中国への投資も抑えて、要は中国を兵糧攻めにするのである。

一方中国も同様な「遠交近攻」策を考えているようである。5月31日のWSJに、「中露イラン」という枢軸の脅威」と題する記事が掲載された。詳しいことは省くが、”3カ国はいずれも、米国が自分たちの成功にとって大きな障害であると認識している。彼らは直接的には協調した行動を取らないかもしれないが、1カ国が米国の邪魔をすることで、残りの2カ国が勢いを得るチャンスを作っている。”との内容であった。

アメリカ政府にとっては、欧州に加えて、イランも取り込みたい。少なくとも敵に回したくない。人口8000万人という国は、大国ではないかもしれない。しかし、かつてのペルシャ帝国であり、ホルムズ海峡を望む要衝の地にある準大国である。幸い、日本は以前から友好国として付き合ってきた。安倍首相の訪問も含め、中東版の『戦略的再保証と決意』を説くことによって、アメリカとも緊密とまではいかなくても友好関係を築くよう説得して欲しい。もちろん、アメリカもそれを考え、願っているであろう。


 最後に、日本はどう対応するのかということに関して、訳者の言葉と、さらに著者のひとりマイケル・E・オハンロン氏の言葉を引用しておく。これには、まったく同感するので、そのまま引用させていただく。

  ”ともすると、われわれの思考法は激しい環境の変化に追いついてゆくのに精一杯で、受け身に回ってしまいがちだ。だが、「戦略的再保証と決意」という枠組みを使って考えてみれば、自ずとなすべきことが見えてくる。日本が中国に対して再保証を与えるような行動をとらず、決意も持たずに米国をあてにして事態を静観しているだけ、という選択はありえないはずだ。

(オハンロン氏 いわく)”われわれは基本的なアイデアを示した。次には日本版の『戦略的再保証と決意』、ASEAN版の『戦略的再保証と決意』が書かれなければならない”



 長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。諸兄姉のご意見をお待ちしています。





補遺)

①中国による外国での世論工作
 
 アメリカでは、フーバー研究所(スタンフォード大学構内にある。公共政策シンクタンクが2018年11月に「China's Influence & American Interests」という論文を発表している。それによればアメリカにおける中国コミュニティが孔子学院も含めてアメリカの世論工作に働きかけている。その手口には重大な疑問がのこる。ちなみに、2018年2月20日のニューズウィーク誌の報ずるところによれば、スパイ活動容疑で孔子学院がFBIの捜査対象になった。

全文は、こちらを参照されたい。


まだ、論文の全てに目を通したわけではないが、調査の対象にはアメリカのみならず、オーストラリア/英国/ドイツ/日本/ニュージーランド/シンガポールなども含まれる。


          

また豪州からは、Clive Hamilton (the Founder and former Executive Director of The Australia Institute)、という人が、”Silent Invasion ”というレポートを出している。オーストラリアの中国コミュニティが国会議員などへの寄付や資金提供などぉ通じて、中国に有利な発言をさせようとしている、その実体を報告している。狙いのひとつには、豪州をアメリカなど太平洋諸国との連携を引き離し、中国寄りに取り込もうとしている。オーストラリの前政権は、親中派であったが、そのような動きへの警戒もあって、今年5月の連邦議会選挙では、労働党政権が敗れ、保守連合が政権の座についた。

 Clive Hamilton自身が語った動画があるので、関心の向きはご覧頂きたい。


②ファーウエイの真実

 ファーウエイの実体については数多くの情報が寄せられているが、断片的でどのくらい信頼できるニュースソースなのか、分からない。東洋経済新報社は、昨年末から今年初めにかけて6回にわたり「ファーウエイの真実」と題するレポートを有料配信した。極めて優れた調査報道である。その第三回には、ファーウェイ社と共産党の関係についての記述がある。

 ”中国政府は、中国共産党の細胞組織である党委員会を企業内に設置することを義務づけている。当然ながらファーウェイにも党委員会が設置されている。だがファーウェイは党委員会の存在を一般に明らかにすることはこれまでなかったし、経営の意思決定に党委員会が影響するのかどうかも説明してこなかった。”



追加の補遺)
 補遺②
 米中の軍事衝突はないにしても、貿易戦争はどうなるのだろう。両国間の合意文書を中国側が大幅に削除修正したことで事態は急変した。その結果、、安全保障リスクとファーウエイなど中国企業のボイコットする政策をエスカレートさせた。しかし、事態の急変は、中国の政治の重心が保守強硬派(”左”)に傾いたこともある。6月末のG20で習近平とトランプとの会談が行われるとしても合意はむずかしい。いずれ、左側傾斜が進めば経済が劣化し、”右”に戻ることになる。何年かかかるかも知れないが。(ある中国問題研究家の言だが、中国株投資家も、そのように考えている。)













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10 コメント

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今世紀前半の最大の山場 (龍峰)
2019-06-25 10:27:05
ゆらぎ 様
一大大作を再三読ませて頂きました。改めて、ゆらぎさんの透徹した見識と情熱に賞賛の拍手を送ります。
現在目の前に生じている米中覇権戦争は今世紀前半の最大の事件だと思う。このいわば文明の衝突は、人類の長い歴史の一コマかも知れないが、今後の文明の行方を左右する意味合いを秘めており、岐路に差し掛かっているように思う。この争いはいつどのように決着するのか、或いは決着しないで何十年も尾を引くのか予断を許さない。
日本の立ち位置は複雑である。しかし国家の基本方針は揺らいではならない。日米同盟を基軸に中国とは是々非々の姿勢で付き合っていく。そして「自分の国は自分で守る」との方針の下に安全保障体制をより整え経済力を高め、強靭な日本を築いていくことに尽きると思う。そのためには憲法を改正して自衛隊を名実ともに国軍として位置づけること。大国から無視できない、世界の中に合って一目置かれる国を創り上げることである。
今回考えを纏めるにあたって、関連本を読み進むうちに本命題から少し焦点がずれてしまったようです。ご容赦お願いします。また若干感想が長くなってしまいましたので分割して投稿します。
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今世紀前半の最大の山場-2 (龍峰)
2019-06-25 10:30:19
米中の覇権戦争と日本の立ち位置
1米中覇権戦争
2018年10月4日アメリカ副大統領マイク・ペンスはハドソン研究所で演説。米中は衝突の時代に入った
ことを宣言。中国の習近平政権はアメリカからハイテク技術を絡めとる「メイド・イン・チャイナ2025」政策を推し進め、「一帯一路」を通じて近隣諸国を債務で絡めとる外交戦略を繰り広げていると批判。
さらに内にあってはウイグル人やチベット人などの少数民族を抑圧し、外にあっては南シナ海に人口島を造って海洋の支配権を確立しつつあると非難。米中の対立は高関税を互いに切り出す貿易戦争にとどまらず、海洋を舞台にした軍事力の対決の様相を濃くしている。

これは「アメリカが第二次大戦後、確立した自由で開かれた国際秩序を中国は力で破壊しようとしている」との認識にアメリカは立ち、敢然とこれに立ち向かう宣言であった。この姿には本来のアメリカの本来の
伝統的・良心的な精神が感じられる。
そしてさらに、最近のニュースでは、ペンス副大統領は近々中国の人権問題について演説すると報じられている。
両国の紛争の原因となっている主な項目を列挙すれば以下の通りである。
① 中国による知的財産権侵害
② サイバー攻撃によるAI、核、宇宙を含む軍事、産業等の技術の略奪
③ 中国へ進出のアメリカおよび他国の企業の技術の強制開示を求めること
④ 中国はWTOの国際ルールを順守すること
⑤ 貿易不均衡
⑥ 南シナ海問題
⑦ 東シナ海の尖閣諸島の問題
⑧ 台湾問題
⑨ 政治体制
⑩ 宗教対応
⑪ 米国への内政干渉(選挙への介入など)
米国の対抗策として
① 貿易の高関税実施
② 対米投資の規制強化
③ 軍事力強化
④ インド太平洋構想で関係諸国と連携
⑤ 安全保障と絡めてファーウエイ等の中国企業のボイコット。西側諸国に同調するよう求めている。等
中国との全面対決の姿勢を明確に打ち出した。いずれにしろ両国は新Great Game に突入したのである。
   
2米国の主義主張
1) 建国の精神
 1620年イギリスの清教徒が信仰の自由を求めてプリマス、ボストンへ移住してプリマス植民地を築いた。
1783年イギリスとの独立戦争で、ヨーロッパの国際政治を利用したアメリカの外交の勝利でもあった。
健国の精神は「すべての人間は平等に造られている」、不可侵・不可譲の自然権として「生命、自由、
幸福の追求」の権利を掲げている。
そして上記のペンス副大統領の宣言には脈々とその精神は流れているのである。

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今世紀前半の最大の山場-3 (龍峰)
2019-06-25 10:32:53
2) グローバリズムとの決別
 この10年来、世界中はグローリズム一色となり、この船に乗り遅れれば企業も国も時代に取り残され、脱落してしまうかもしれないと、いわば恐怖観念に取りつかれてグローバリズムを推進して来た。その
結果社会のあらゆるところに格差という副作用が発生した。そして世界各国にはグローバリズムの反動として一国主義、ポピュリズムがはびこりだした。アメリカの場合、この格差に移民問題等が重なり、特に白人の低所得層に大いなる反動、不満の声が高まった。そこに、アメリカ社会のこの底流にある声をうまく救い上げて、トランプという「異形の大統領」が登場した。いろいろと過去の流れに捕らわれない、
むしろ反抗してアメリカ第一主義の観点からあらゆることを見直し、世界に向けて見直し・修正・廃棄を迫っている。良いことも言っている。「自分の事は自分で守れ」との正論である。日本は肝に銘ずるべきところである。

3) ツキジデスの罠
 この度の米中の争いは単純にこの「ツキジデスの罠」とは言い切れないものがあるように思う。アメリカには、なるほど昔から外交政策に60%ルールが存在していると言われている。昭和の日本とのロンドン条約やワシントン条約が思い起こされる。この前のプラザ合意も然りである。
但し、今回の場合、アメリカが特に問題にするのは、単に国力が60%を超えそうだからというのでは
なく、まず第一に不正、正義に反するやり方でのし上がってくる者は決して許さない、いわば建国以来のアメリカ精神がみなぎったところからの正義の争いであるように思われる。

3 中国共産党政権
1) 共産党政権誕生と現状
中国共産党政権は1949年に誕生した。設立時は政権と言っても、実態は解放軍がその全てであった。1950年の半ばまでは、特に地方行政・統治機構は解放軍の五つの野戦軍(華北、第一、第二、第三、
第四)が担っていた。毛沢東も軍に所属し、後に共産党幹部となり、解放軍を指揮していた。鄧小平は第二野戦軍の副主席であった。尚、第一野戦軍の副主席・習仲勲は習近平の父親である。
「銃口から政権は生える」は毛沢東の言葉であるが、この言葉通り共産党政権は解放軍から生み出されたのである。日本の明治維新を彷彿させるものがある。現在に至るまで中国の究極の権力の源泉は、
国家主席でも総書記でもなく共産党中央軍事委員会の主席である。毛沢東、鄧小平は歴戦を戦い抜いた軍人であったが、江沢民以降はいわゆる文民が主席の座についている。それだけにこれら文民の主席は軍を掌握する為に解放軍からの各種要求、即ち、軍人の処遇改善、兵器の開発、装備の拡充、外国への覇権行動の容認等などに妥協して受け入れ、飲まざる得ず、今日に至っているようである。気が付けば、軍が主席の上に行っているような、かつての某国のようにならないとも限らない。また、解放軍は国軍ではなく共産党の軍である。いわば私党を守るための軍である。今日正規軍から警察、民兵迄入れると約1000万人いると言われる。これらの軍つまり武器によって共産党は守られているのである。従って軍事委員会の主席といえどもヘマコをやれば軍によってその席を追われる可能性は無いとは言えない。ましてや共産党員の不正汚職などで人民から不平不満や軍の要求を満足させられない場合は、解放軍の原点に戻って軍が実権を握ることだってあながち否定はできないところである。即ち、共産党政権設立時の解放軍の亡霊が鎌首をもたげることもありうるわけである。
中国は2010年頃から海洋進出や他国への覇権が顕著になってきた。これは、共産党政権内での軍部の発言権が増してきている証拠ではないだろうか。それにしても中国の最近の覇権ぶりは突出している。
中国は実質軍事国家に他ならないのである。

2) 共産党政権100周年
2049年は中国共産党政権設立100周年である。それまでに世界の覇権国アメリカを抜いて世界一の
覇権国に躍り出るというのが現在の国家目標である。そのために、表裏構わず、略奪をいとわず、国を挙げて世界中を走り回っているのである。「一帯一路」「AIIB設立」の政策推進は具体的な彼らのアクションである。札束で弱小国の頬をはたき、陥落させている。典型的な例は、スリランカのハンバントタ港を債務のかたに99年間譲渡させたことである。まるで180年前アヘン戦争で負けてイギリスに
香港を99年間租借されたと同じで、長崎の仇を取っているような感がする。一方でフイリピンの
ドウテルテ大統領や最近マレーシアのマハテール首相も、確信犯として、頬をたたかれても中国マネーに吸い寄せられてゆく。事情は複雑である。
かつての日中の国交回復の条約でお互い、外国に向かって覇権国にならないと高らかにうたった。しかし、この文言は一体どうなったのであろうか。
「5000年の栄光と100年の屈辱」を2049年にははらし、晴れて再び世界の覇権国として他国を睥睨することを真剣に考えているのである。
しかしながら、中国にもアキレス腱がある。今回の貿易戦争でなにがしかの経済的な影響を中国は受けることは避けられない。今後中国の成長が滞り、ある程度経済的にダウンすることは間違いない。その影響の一例として、都会に出ていた農家出身の労働者の失業が増えることになる。このことは新しい
社会問題となるだろう。つまり第3の天安門事件のマグマが溜まることになる。そもそも鄧小平が開放政策をとった理由の一つは、増加する農村の余情労働者や失業者の救済対策だったのである。
中国内ではアメリカに対する貿易戦争の対応でタカ派とハト派で見解が分かれている。経済の成長に
自信を持つ層や軍関係者は当然タカ派となっている。一例は、先般の米中の高関税交渉で9割り方交渉は纏まっていたのに土壇場で中国はちゃぶ台返しをやったことであろう。
アメリカとの戦いも中国は春秋戦国時代の教訓にならい、短期決戦型のアメリカ相手に不利とみれば
引き、相手の潮の目の変わり目をうかがって、勝どき到来とみれば攻めてくるのであろう。
勝負は「Nobody knows」ある。しかし、ここは自由圏の為にアメリカに是非勝ってもらいたいものである。

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今世紀前半の最大の山場-4 (龍峰)
2019-06-25 10:35:28
4日本の立ち位置
1) 激変する環境
 今日の激変する日本の周辺のうちでも、やはり米朝交渉の行方である。
少子は思う。朝鮮半島は色々と紆余曲折はあっても北と南は連合でまとまるか、何か分からないが、
いずれ統一国家になるだろう。当然米軍は半島から引き揚げることになる。その暁には韓国はこれまで38度線で行き止まりであったが、その壁が取り除かれ、半島は溶解してしまう。いわば南はこれまで
島国だったのが、半島国家つまり大陸国家となる。即ち、必然的に中国、ロシアとの結びつきが経済的にも、地政学的にも強まっていく。実質中国の支配下に入ることになるだろう。李王朝の柵封体制に
再び戻ることになる。
日本の安全保障はこれまでの戦略ラインが38度線から朝鮮海峡に南下してくる。韓国というバッファが無くなるわけであり、もろに大陸と向き合うことになる。明治政府が国家の外交安全保障の最大の要とした半島の友好・中立化が、150年目にして、崩れてしまうことになる。日本の安全保障を考えた時、幕末の開国以来の最大のピンチに日本は間もなく直面しようとしているのである。
今こそ国民的な議論を尽くして、国の守り方を検討し、その上で新たな戦略と防衛体制を確立することが求められているのである。その事を、国民一人一人が強く認識すべきである。それにしても、国も
マスコミも危機感を説き、国民的な議論を呼び起こす風を、起こさないのは国家的な怠慢であり、一億総白痴化したのであろうかと疑いたくなる。そのような時代の変化に気づかぬ、ぬるま湯に浸かっている日本を見て、今頃、北の王様は嘲り笑っているのではなかろうか。

2) 日本のあるべき姿
米中の覇権戦争がこの先どのように展開されていくかはわからない。だが、アメリカとしては振り上げた拳は空振りすることはない。アメリカは世界の覇権国として建国以来の自由平等で開かれた法の秩序をあらゆる手段を駆使して死守するであろう。
日本は日米同盟を基軸に「自分の国は自分で守る」方針のもとに自衛隊の国軍としての地位を確立する。そして、米国と連携を取りつつ、中国とも付き合っていくことである。特に中国に対しては、差し迫っている問題として、尖閣諸島のRed Lineを中国に示して、これを超える場合に適切な反撃を受けることになると中国にはっきり伝えねばならない。
最も大事なことは双方の国から日本は無視できない、コケにできない、今以上に名実ともに整備された国になっていることである。それは開かれた民主国家として国の規模に合った最新の防衛能力を保持することである。そして国際的地位を確保することである。当然、一刻も早く憲法を改正して普通の国としての軍隊を保有すべく備えねばならない。
いずれにしろ日本はこれから人口減少、高齢化が進む夕暮れを迎えていく国である。一方では開国以来の内外に難関を迎える。国民一人一人に英知が求められるのである。ゆめゆめ空想的平和主義を唱えるマスコミの一部などに、あるべき国の基本的な方針を歪められてはならない。

参考書籍
  中国は、今    国分良成編        岩波新書
  日本の敵     宮家邦彦         文春新書
  米中衝突  危機の日米同盟と朝鮮半島
           手島龍一  佐藤 優   中公新書
  中国はなぜ軍拡を続けるのか    
           阿南友亮         新潮新書 
  中国人の歴史観  劉 傑          文春新書
  諸子百家     湯浅邦弘         中公新書  
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とりあえずのお礼 (ゆらぎ)
2019-06-25 13:06:05
龍峰様
 大変な労作のご意見を拝読しました。渾身の力作に恐れ入りました。おりしも、トランプ大統領が、日米安全保障条約がアメリカにとってフェアではない、との見方を示しました。おっしゃるように日本として、どうするか自ら考え方を示さねばなりません。詳細なコメントバックは、後程として、とりあえずの御礼申し上げます。
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米中貿易戦争ーその1 (九分九厘)
2019-07-06 14:24:26
 G20 では米中貿易戦争は延長戦に持ち越された。圧倒的な軍事力を持つ米国は、戦争の脅威をちらつかせながら、本物の武器を使う代わりに経済制裁という武器を使って、中国に仕掛けた覇権争いへの譲歩と後退を求めている。20世紀は植民地主義・資本主義と帝国主義体制の精算の時代であったが、この時期に世界の金融市場を制覇した米国は、以降常に自国の世界覇権を脅かす国を叩いてきた。1980年代の日本叩きは徹底したもので、米国国内法で外国を責める「スーパー301条」は日本を叩くために1988年に成立したものである。
 中国では、今世紀に入り国際市場経済への参入を本格化させ、外国資本と技術の導入が始まる。かつての日本の1960年代と同じである。国有から民間事業への転換も図られるが、国家資本主義による体制は変わらず、共産党一党独裁の力は保持され続けている。安い労働力をベースに「世界の工場」の役目を果たしながら成長を続けていく。リーマンショックを境にして、中国は溜め込んだ貿易収支の黒字を使って、一帯一路の線上にある東南アジアやアフリカ及びアメリカのデジタル技術を狙って巨大な外国投資を行う。余った黒字は米国国債の購入に当てた。同時に中国はかつての植民地主義的帝国時代を思わせる覇権主義を軍事力で示威する。軍隊は陸軍主力から海軍・空軍の最新装備への転換を図り、米国との軍事力バランスを取るべく急速に三軍統合化を進めた。現在、第1列島線における有事の場合は、一時的にはアメリカと互角に戦える軍事力を持っているのであろう。ゆらぎさんブログの「戦略的再保証と決意」が重要となる所以である。
 デジタル技術で、米国が中国に先を越される悪夢に気づいたのはそれほど昔ではないと思うが、公に対中宣言をしたのは 2018年10月 のペンス副大統領の演説によるものである(詳しい内容は龍峰さんのブログ投稿にある通り)。2017年8月にトランプ政権は「スーパー301条」の適用について調査に入る。11月のトランプ訪中を経て、翌年2018年には早々に太陽光パネルや鉄鋼・アルミに関税を上乗せする措置にでる。同年6月までに600億ドルに対する関税をかけて以来両国の応酬が続き、現在では、米国は2000億ドル相当品に25%、中国は600億ドル相当品に最大25%の関税をかける状態になっている。米国は残る輸入額3250億ドルにも25%の関税をかけることも示唆している。交渉不成立のネックは「中国の法改正による外国技術移転の禁止」「国内企業への補助金禁止」の二つと報道されている。内政干渉とみられるこの条項を容認すると、共産党1党独裁の原理主義が揺らぐことになり妥協点は見出せないと考える。アメリカは政教不分離のイラン、キムファミリー独裁国の北朝鮮、いずれも原理主義国に対し経済制裁を課して体制変革を狙っているが、戦いに勝つためには、戦争で潰してしまう以外に方法はないと思われる。、

 さて現状分析の前段は以上にして、次にゆらぎさんブログに対応する論議に移りたい。
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米中貿易戦争ーその2 (九分九厘)
2019-07-06 14:26:21
ゆらぎ・龍峰 両氏の論議は、米中の貿易戦争すなわち米中国覇権主義の争いが、軍事力行使に至るか否かの要因分析とその危機防止戦略を主に論議されたものである。しかし、私は切り口を変えて米中摩擦(或いは戦争)の別の一面を考察してみたい。その要旨は次の通りである。
 
 現在起きている米中摩擦は、とどの詰まりデジタルテクノロジーの世界覇権争いである。データ集積とAIテクノロジーの急速な発展により、想像を超えるスピードで社会の構造が変化している。金融資本主義は、早晩にデータ資本主義に変わり、貨幣の価値がデータに取って代わられる時代に突入すると言われ、2020年代の終わりには、貨幣の役割が終わり銀行の殆どが消滅するだろうと言う。今この戦争は米中の二国がトップ争いをしていて、この戦争に米国はいずれ負けるかもしれない可能性を自らが認めている。そのために、トランプの理解度がどうあれ、共和・民主の両方が真剣に対中国強硬路線を推進する道を選んでいる。この戦争を制するには、大量のデータを高度に集積し、その適用においてAI / マッチング・アルゴリズム開発の優勢を勝ち取る必要がある。そしてそのシステムで世界のサイバー空間を占拠できれば世界制覇が可能となる。米国発祥のグローバリスムは今では中国を利する事になっている。米国は技術の流出を防ぎ可能な限り中国の開発テンポを抑える、或いは中止させてしまうことすら考えているのであろう。軍事力の直接攻撃は出来ないので、代わりの武器である301条経済制裁で中国を攻撃中である。中国は一党独裁の国家主義であるから、11億人を超える巨大な人口のデータ集積は、人権問題などのコストはかからないし、開発も人材を集中して投入できる。それに比べ米国は対中国制裁によって損失が出る国内企業の反発により、強硬手段を何処までエスカレートさせるかのジレンマに陥ってしまう。米国のWTOを無視した経済制裁は、世界の金融網の殆どがドルを基軸として運用を行っているからである。関税上乗せのみでなく、企業や個人のドル資本や口座を凍結することができる。ジレンマ解消のために、トランプ大統領はまだまだ新たな手を繰り出して来るに違いない。しかし、その過程でなにかのハプニングが起きて、大義をつかめば軍事行動に出てくるのが怖い。出口論を考えないトランプ政権の行動が今後の世界を不幸に陥れる可能性がある。
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米中貿易戦争ーその3 (九分九厘)
2019-07-06 14:28:08
もし、戦争勃発が起こらずこのままドル基軸の優位性を利用した経済制裁が続くとすると、10年後には襲ってくる「データ資本主義」によるドル基軸金融資本主義の異常が発生するために、米国の経済制裁そのものが有効ではなくなる可能性が出てくる。さて、この論議のネタは『データ資本主義』(オックスフォード大学教授: ビクター・マイヤー・ショーンベルガ / NTT出版 / 2019・3月)による。データ技術発展そのものが、戦争のあり方を変えるかもしれない。とまではこの本には書いていないが、この著作からの引用と私の推論を述べることになる。(引用はゴシック体)
 
 市場における「価格」は様々な情報を圧縮した一つの尺度であって、市場参加者が理解可能な共通言語である。そして貨幣がその流通機能を担っている。市場の効率の良さは情報の伝達役である「価格」のシンプルさにある。ところが、昨今デジタル技術の発達によって市場は大きく変化して、リッチデータが広い市場に迅速かつ低廉に世界を駆け巡り、機械学習や最先端のマッチング・アルゴリズムを組み合わせ、状況の変化に対応しして自動的に適応するシステムが構築される時代になろうとしている。数え切れないほどの条件を「価格」というたった一つの数字に凝縮する方法は、今の時代にふさわしくない状況になってきた。今、市場は技術革新を背景に、貨幣と価格という足枷を外し、情報の流れの悪さや意思決定のまずさから自由になり新たな進化を遂げようどしている。金融資本は情報収集伝達機能により貨幣価値を金融市場で決めるが、データーリッチ市場では、参加者は主要な情報伝達手段として「価格」を利用しなくなる。勿論、貨幣は依然として価値の蓄積手段で生き残り、参加者は貨幣を使って支払いをすることになる。しかし、情報伝達手段として貨幣が不要になるのなら、その価値の重要な一つが消滅する。貨幣の消滅した一部の価値に対して支払いを渋ることになる。一方では詳細且つ大量の情報を運ぶインフラが整備され、情報の提供と決済という行為が切り離され、銀行の機能は従来と異なり価値の移動や蓄積を通じての取り引きだけになるであろう。データが豊富になれば、市場が強化される一方で金融資本の重要性が低下するのである。貨幣の役割が終われば、資本の役割の地盤降下が進む。本来金融資本は生産の代替え要素であり、必要な経営資源と交換が可能である。しかし、価値ある情報の移転が貨幣や資本と別のもので交換されるのであれば、資本主義の根幹に関わるものとなる。資本が豊富にあっても、資本を求めない企業の数が増えるなら資本市場は供給過剰で、投資利益は激減するため金融資本が終焉となる。データーリッチ市場では貨幣を使ってシグナルを送る必要がなくなる。経済は繁栄しても金融資本とは一緒に繁栄出来ない。貨幣に代わって「データ」で支払いすることになる。金融資本主義からデータ資本主義になると、情報仲介機関が金融仲介機関を圧倒するようになる。世界の金融の中心地位を占める銀行は2020年代末にはその多くが消え去り、新たにデーター資本主義から生まれた新顔がデータリッチ市場に台頭する。
 近年、世界的に労働分配率(企業が生み出した付加価値の内、従業員に分配された割合)低下傾向が著しい。近年のイノベーションはこれまで以上に労働力を代替えする技術に偏る傾向が強いためである。それに比例して資本分配率が上昇するの通常であるが、最近の研究では労働分配率以上に資本分配率の低下が著しいことが分かった。その背景には情報仲介新興企業が急成長し、それを担うスーパースターに、労働者や資本家にも分配されない巨額の超過利益が発生しているのである。経済用語で言えば、財・サービスの不当なマークアップである。これは市場の大きな非効率性と競争欠如につながることになる。スーパースターと言われる GAFA の生み出す利益は、創業者への巨額報酬もあるが、正当な損益計算書に反映されていないのである。抜け目のない節税対策もあるが、膨大な研究開発費を経費で処理している。そして、利益を生み出せる無形固定資産を多く抱えている。人件費や在庫を抱えていなくても利益を生み出せる。GAFAは個人にデータの代金を支払っていたのなら、今日のような隆盛はなかった。株式市場はこの乖離をある程度理解して株価の動きに反映する。特定企業に青天井に蓄積される利益には、データ関税という手段があるが米国ではまだ実施されていない。
 市場と企業は対概念でとらえられる。個人個人が参加する市場は出入り自由で、取り引きは個人の意思決定で行われる。すなわちネット上の分散型の典型である。個人的にメリットのある取引だけを受け入れて自分自身の関心を掘り下げる。このプロセスが人間の協力という仕掛けの潤滑剤となり当事者全員のメリットのつながる。一方で、世界の人間の約三分の二は企業によって雇用されている。企業は集中管理型の調整の典型であり、意思決定はその調整プロセスの頂点にある決定権者にある。企業と市場は人間の活動を効率的に調整する意味においては、相互補完関係にありライバル関係でもある。今後は、企業間の戦いよりもデータの流通開放により市場間同士の戦いに変わり、データーリッチ市場の挑戦を企業が受ける立場になる。情報の進歩拡大とスピードにより、増幅するデーターリッチ市場の特性に見合う企業体制を構築せねば生き残れない。
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米中貿易戦争ーその4 (九分九厘)
2019-07-06 14:37:02
<そのー3コメント投稿では、引用がゴシック体でゴシック体で表現できないようです。そのー3の9行目(市場における「価格」は様々な・・・・から、末文:企業体制を構築せねば生き残れない。)
までが引用です。以下は私の論議です。
 
 前述の著作『データ資本主義』では近未来の具体的なアメリカの姿は述べていない。現在の世界的な金融緩和と低金利の状況下で且つ米中摩擦の最中において、米国のダウ平均株価は史上最高の活況を呈している。低労働分配率・低資本分配率の同時発生が示しているように、だぶついた巨大なマネーの殆どは、GAFAやスタートアップの情報仲介業者と、AI/DT化で飛躍的な生産性向上・収益を伸ばしている企業に集中して株式投資がなされている。情報は、そのもの自体に価値があり金貨みたいなものだが、ライフサイクルが早くその価値の伸長消滅は予測し難い。生産財ではない無形の「情報」に巨大なドルが投資され取引されているのである。そのドルは為替自由変動制の世界にあっても基軸通貨であり現在でも世界を支配している。こうした異常とも思われる金融資本市場の動きに、上記「データ資本主義」への変換が上乗せされると、どの様な事態が起きるのであろう。浅薄な経済知識では想像もつかないのである。一つ言えることは、10年もしない内に価値ある情報保有国の通貨が強くなり、各国間の為替レートに大きな変動が起きるのだろう。そしてドルが基軸通貨の王座から降ろされると考える。それにもまして、そもそも自国第一と称する「国家」とは近未来において何を意味するのだろうかの疑念が湧いてくる。現在の国家は18世紀以来の「国民国家」の変容された姿が続いている。同じ言語と文化を共用する人間同士が国境を定め、共同体の民意を代弁する機能として「国民国家」が西欧で生まれ発展してきた。本来、中世の長い戦争を終結させるために互いに国境を定めて、互いの不可侵を定めたものだった。この体制はナポレオンにより早々に崩され、以降「国民国家」は国民の主権をも無視する国家主義に変容する。20世紀は帝国的国家主義の精算時代であった筈が、21世紀になり再び「国家資本主義」の国が巨大な人口とデータリッチ市場を抱えて登場してきた。当然に領有権・国境についての戦争も発生するが、21世紀の新たな問題はサイバー空間に国境がないことである。現在各国家間において壮絶なサイバー攻撃のやり取りが行われている。オバマ時代に北朝鮮のミサイル発射システムにサイバー攻撃して、その殆どのミサイル発射を失敗させたとの話もある。これに加え、宇宙戦争に備えての米国の宇宙軍創設の発表があった。停止宇宙衛星に核弾頭を搭載し中国の上空に浮かばせれば、長距離ミサイルはいずれ不要となる。中国はこれに対し宇宙衛星を打ち落とす技術をほぼ完成させたという。丸い地球のネットク空間を支えるインフラは海底光ケーブルである。人工衛星の仕様もあるが99%が海底ケーブルである。このケーブルを切断すればサイバー空間を遮断することができるが、最近では各国もその陸揚げ地域を秘密にするようになった。中国は僅か5箇所ほどの陸揚げ地域であって、他国とのネット情報の遮断をしやすいと言われる。それに比べ、西欧自由主義国でのこの種のインフラは無数とも言われコントロールが難しとされている。
 従来の国境をなくする技術で注目される例が、FBのデジタル通貨「リブラ」である。主要通貨と兌換できることを標榜しているので、一見「国際的プリペード決済」とも見えるが、とてつもない潜在能力を秘めている。FBの利用者は世界で月間約24億人、デイリー約16億人と言われる。インドの総人口が来世紀早々に約16億人と予想されているが、これに匹敵する規模である。決済機能だけで運用開始しても、残金を1人1ドルだけ口座に残すだけで月間24億ドルとなる。更に大きく与信能力を高めて金融ファイナンスを行い、貯蓄性を高めるといずれかの時期には「リビラ」だけでの決済で国境なしの生活が行われる可能性がある。国境なしの巨大経済圏の出現である。現在主要国の中央銀行や政府機関が大きな警鐘を鳴らしていることが頷ける。
 地球の人口は全体として今世紀は増大しかつ長寿化により、食料需要の急激な増大や人間の欲求や期待・夢に応えるために、とてつもない効率調整能力を必要とされる。情報流通過程の制約により、市場そのものの本来果たすべき「最適な取り引き」が実現出来なかった時期には、何世紀もわたって貨幣中心の市場に大不況や戦争の悲劇が襲った。今の米中戦争もそのきっかけとなると見たほうが正解だと思う。「リブラ」による世界金融革命のほうが戦争のない世界平和実現のための近道かもしれない。G20において、安倍首相は国際社会におけるデジタル情報の開放・公平性とそのルール作りのセッションを主催したが、その道は苦難な道程を歩むことになろう。
                                以上
返信する
お礼 (ゆらぎ)
2019-07-10 13:48:44
九分九厘様
 長編をお読みいただいた上で、大論文を投稿いただきありがとうございました。
米中摩擦のついてのご考察、興味深く拝見しました。とくにフェイスブックの仮想通貨
リブラにまで目を配られたのには恐れ入った次第です。別途、飲みながらの喧々諤々の会が予定されていますので、詳しいことはその時に。ありがとうございました。の
返信する

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