Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

2016年度刑法Ⅰ(第15週)罪数と量刑(基本レジュメ)

2016-07-16 | 日記
 第15週 罪数と量刑
(1)罪数論
1犯罪の個数
 1個の犯罪
 数個の犯罪

2量刑判断の対象
・犯罪の個数の意義――犯罪には刑罰が科される
 1個の犯罪には1個の刑罰が科される
 数個の犯罪には数個の刑罰が科される
  →初回の人には初めて刑罰が科され、2回目の人には2度目の刑罰が科され、3回目の人には3度目の……

・刑罰の意義――犯罪に科される刑罰とはどのようなものか。それを科す目的とは何か。
 応報刑論の立場から考えると、
 行為者は、犯罪を行なって他者や社会に被害を与えた。刑罰を科すことによって、その被害は相殺される。
 犯罪の被害と刑罰の内容は同じであり、それが科されることによって犯罪の被害はリセットされる。
 同じ人が再び犯罪を行なった場合、リセットされた状態から刑罰が科されるので、初回と同じ刑罰が科される。

 予防刑論の立場から考えると、
 行為者は、犯罪を行なって他者や社会に被害を与えたので、その犯罪を世間の人々が行なわないよう、
 予防のために刑罰が科される。刑罰よる犯罪の被害の相殺は観念的な話であって、実現可能なのは予防である。
 同じ人が犯罪を繰り返した場合、予防に必要な程度の刑罰が科される。それは初回と同じ刑罰とは限らない。
 しかし、世間の人々の予防が期待できる刑罰(一般予防刑)を科しても、その本人に不十分な場合もありうる。
 そのような場合、その人の再犯の危険性に応じた刑罰が加重して科される(特別予防刑)。

3罪数と量刑
 刑罰の効果に実効性を持たすためには、行刑施設や処遇の在り方を考えることが刑事政策理論として必要。
 しかし、その前提として刑法理論がやるべきことは、行為者が行なった犯罪の個数の算定方式の明確化である。

(2)罪数の形態
1一罪と数罪
・1個の行為と数個の行為――1罪と数罪

・XはAに暴行を加えた。XはAから財布を奪った。
 行為の自然的観察            →行為者が行なった行為の「自然的事実」の問題
 観察された自然の行為の法的・規範的な評価→行為者が行なった行為の「法的意味」の問題

 XはAに暴行を加えた。XはAから財布を奪った。→自然的事実としては、この2つの事実だけが確認。
 しかし、この事実を「XはAへの暴行を手段として、財布を奪う目的を達成した」という意味において理解。
 そうすると、その事実の法的意味は、「暴行罪と窃盗罪の2罪」ではなく、「強盗罪の1罪」であると評価可能。

・Xは倉庫の米俵3俵を1個ずつ、3回に分けて盗んだ。→3個の行為→3個の窃盗罪?
 行なわれた行為の個数(自然的事実の問題)→「1俵の米俵を窃取する行為」を3回行なった→3個の窃盗罪?
                     →「3俵の米俵を盗む行為」を1回行なった→1個の窃盗罪?

 それとも、該当する構成要件の個数(法的・規範的な評価の問題)→「3俵の米俵を盗んだ」→1個の窃盗罪?

 「1個の行為を3回に分けて行なう」のと、「1個の行為を1回で行なう」のは、
 「1個の行為を行なう」という自然的事実としては同じ

2一罪の形態
・単純一罪
 判例番号99 接続犯 場所的同一性と時間的連続性

・包括一罪
 数個の行為が行なわれ、数個の犯罪が成立している→それらは併合罪(刑45)→併合加重あり
 しかし、それらを「包括」して「1罪」として扱うことができるならば、包括一罪→併合加重なし

 判例番号100 窃盗の常習性という1つの犯罪的性格に基づいて行なわれた2個の行為

 判例番号101 街頭募金詐欺という一つの犯罪計画に基づいて行なわれた数個の行為

 期間・場所・行為態様・企図などの総合評価

・科刑上一罪
 刑法54条1項
 前段 観念的競合 自然的事実としては1個の行為が行なわれただけであるが、法的には複数の犯罪が成立
 後段 牽連犯   自然的事実としては1個の行為が行なわれ、法的に1個の犯罪が成立するが、
          その行為の「手段」または「結果」が、それとは別の犯罪を構成する

 →「その最も重い刑による処断する」
 XはA殺害の意図で発砲。弾丸はBに命中し、Bが死亡した→A殺人未遂罪とB殺人既遂罪の観念的競合
 XはAから金銭を奪うために、A宅に侵入して、財布など現金を奪った→住居侵入罪と窃盗罪、

 判例番号102 被害者を監禁して、恐喝した。恐喝は、監禁を手段行為として行なわれたといえるか?

 判例番号103 酒気帯び運転をして他の交通関与者を死亡させる人身事故を引き起こした。
         1個の自動車運転の行為は「酒気帯び運転罪」と「過失運転致死罪」の2罪を構成するのか?
 判例番号104 交通事故後、その現場を立ち去るという不作為の態度をとって、
         負傷者を救護しなかった不救助罪と警察に事故を報告しなかった不報告罪

・牽連犯の特殊的形態――「かすがい」理論
 かすがい 2個の木材をつなぎとめるための「コ」の字型のクギ
      かすがいと1個の木材をつなぐことで、2個の木材がつなぎとめられる

 判例番号105 1個の住居侵入を行ない、3個の殺人を行なった場合の3個の殺人罪の罪数関係
 3個の殺人罪は併合罪→併合加重あり
 3個の殺人罪は牽連犯→併合加重なし(「その最も重い刑による処断」)

・共犯と罪数
 判例番号106 正犯は併合罪。その幇助者は、幇助の併合罪?

3併合罪
・併合罪 刑法45条 確定判決を経ていない2個以上の罪
1月 2月 3月 4月       5月            11月 12月
窃盗 傷害 詐欺 窃盗・詐欺で逮捕 懲役6月の有罪(満期出獄) 恐喝  傷害・恐喝で逮捕(有罪判決)
                  併合審判               非併合審判
                  判決の主文は1個           判決の主文は2個

 1月の窃盗・2月の傷害・3月の詐欺は、1月の窃盗・3月の詐欺の確定判決前の犯罪→(同時的)併合罪
 11月の恐喝は、1月の窃盗・3月の詐欺の確定判決後の犯罪→1月の窃盗・3月の詐欺とは無関係の犯罪
 では、2月の傷害と11月の恐喝の関係は?
 2月の傷害は、1月の窃盗・3月の詐欺の(事後的)併合罪。11月の恐喝は、2月の傷害とは無関係の犯罪

・併合罪を構成する複数の罪のなかに死刑または無期懲役・禁錮が科される罪がある場合
 刑法46条

・併合罪を構成する複数の罪が有期懲役・禁錮が科される罪の場合
 刑法47条 最も重い罪について定めた刑の長期×1・5倍 < 複数の罪の刑の長期の合計 ≦ 刑14条

・併合罪を構成する複数の罪が罰金刑が科される罪の場合
 刑法48条

・併合罪を構成する複数のうち重い罪に没収が科されないが、軽い罪について没収の事由がある場合
 刑法49条

・事後的併合罪の処断
 刑法50条 2月の傷害は、1月の窃盗と2月の詐欺と同時に審判することが可能であったが、……

・事後的併合罪の量刑方法
 刑法51条
 1月の窃盗と3月の詐欺は有罪判決が確定(出獄)。それと併合罪の関係にある2月の傷害もまた有罪(実刑)。
 窃盗・詐欺の刑と傷害の刑を「併せて執行する」(刑51)。

 2個の有罪判決の刑の長さは、3つの罪のうち最も重い刑について定めた刑の長期×1・5を超えない
 また、3つの罪が同時審判された場合に言い渡されたであろう刑の期間を超えてもいけない

 いわゆる「名古屋・闇の職業安定所殺人事件」(A事件) X・Y・Zの実行犯。Xに死刑。Y・Zに無期懲役。
 YがA事件の確定判決前に強盗殺人(B事件)を実行→B事件はA事件の「事後的併合罪」
 名古屋地裁は、B事件について死刑を言い渡した(控訴中)。→かりに死刑が確定したら?

 いわゆる「前橋スナック乱射事件」(M事件) 被告人Xに死刑が確定
 XはM事件の判決確定前に殺人事件(N事件)を実行。現在、裁判中→かりに有期・無期懲役が確定したら?