Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

2016年度刑法Ⅰ(第15週)罪数と量刑(練習問題)

2016-07-16 | 日記
 第15週 罪数と量刑(練習問題)

(1)基本問題
1XはA女に対して、殺意を持ちながら、強姦を行なった。この場合、1個の行為で殺人罪と強姦罪が行なわれ、両罪は観念的競合の関係に立つ( ○ )。


2Aは、被害者Xから金を脅し取るために、小部屋に監禁し、そこでキャッシュカードを脅し取った。監禁罪と恐喝罪は、観念的競合の関係に立つ( × )。

 →監禁を手段として、恐喝を行なったので、これらは牽連犯の関係に立ちます。


3Aは酒に酔った勢いで自動車を運転し、誤って人身事故を引き起こした。酒酔い運転の罪と過失運転致傷罪は、併合罪の関係にある( ○ )。

 →この場合、酒酔い運転は、何らかの犯罪の手段になるものではありません。


4Aは、職務執行中の警察官Xに対して暴行を加え、重傷を負わせた。傷害によって、公務の執行を妨害したので、傷害罪と公務執行妨害罪は牽連犯の関係に立つ( × )。

 →1個の暴行で、傷害と公務執行妨害を行なっているので、観念的競合です。


(2)練習問題
1刑法によって1罪として処理される例をあげなさい。

 単純一罪
 1個の行為で1個の構成要件に該当する場合


 法条競合
 1個の行為で2個の構成要件に該当するように見えるが、論理的な関係から、そのうちの1個の構成要件該当性しか認められない場合(わいせつ目的で未成年者を誘拐した場合)


 包括一罪
 複数の行為が行なわれ、複数の構成要件該当性が認められ、複数の犯罪が成立するが、それらの行為が時間的・場所的に接着しておこなわれており、行為客体が同一であり、保護法益も単一であり、行為態様の同一性、意思決定の同一性などを理由に、それらを包括して一罪として扱う場合

 以上が、刑法上、「本来的一罪」として扱われる場合です。

 科刑上一罪は、この「本来的一罪」ではないが、刑を科す上で一罪として扱われます。

 観念的競合
 1個の行為によって2個以上の罪にあたる場合

 牽連犯
 ある行為を手段行為として行ない、結果行為を実行した場合で、手段行為も結果行為もそれぞれが犯罪にあたる場合

 かすがい現象
 A罪を手段行為として行ない、X罪という結果行為を達成しながら、同時にY罪という結果行為をも実現した場合、A罪とX罪、A罪とY罪は牽連犯の関係に経ちますが、X罪とY罪は牽連犯の関係には立ちません。しかし、A罪がX罪とY罪をつなぐ「かすがい」の機能を果たしているので、X罪とY罪は、科刑上一罪として扱われます。で

2併合罪について
 併合罪とはなにか?
 確定裁判を経ていない2個以上の罪を併合罪という。

 例えば、4月に大阪で窃盗を、5月に京都で詐欺を、6月に神戸で恐喝を行ない、恐喝罪で執行猶予付きの有罪判決が確定し、7月に大津で占有離脱物横領を行ない、逮捕された場合。窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪が併合罪の関係に立ちます。恐喝罪については裁判が確定しているので、窃盗罪と詐欺罪については、それに事後的併合罪として審理されます。それらと占有離脱物横領罪とは併合罪の関係には立ちません。


(3)応用問題
1 Aは4月に大阪で宝石店に押し入り、店長を殺害して宝石を盗んだ(強盗殺人罪・X罪)。その後、6月に神戸の金融機関に押し入り、店員に死亡させて、金銭を盗んだ(強盗致傷罪・Y罪)。Aは、7月にX罪で逮捕され、無期懲役の裁判が確定した。服役中の10年目に、Y罪のDNA型の鑑定が行なわれ、Aの犯行であることが判明し、逮捕され、裁判にかけられた。

 過去の裁判における量刑の傾向に照らしてみると、X罪とY罪を同時に審判した場合に死刑が言い渡された可能性が高いと言われた。Y罪について死刑を言い渡すことができるか。


2 Aは4月に大阪で宝石店に押し入り、店長を脅して宝石を盗んだ(強盗罪・X罪)。その後、6月に神戸の金融機関に押し入り、店員に暴行を加えて、金銭を盗んだ(強盗罪・Y罪)。そして、さらに7月に京都でパチンコ店の店員に暴行を加え、商品を盗んだ(強盗罪・Z罪)。その後、AはX罪・Y罪で逮捕され、併合加重された処断刑(47条:20年×1・5=懲役30年)に基づいて、懲役26年が言い渡されて確定した。服役中の10年目に、Z罪のDNA型の鑑定が行なわれ、Aの犯行であることが判明し、逮捕され、裁判にかけられた。

 X罪・Y罪・Z罪が同時的併合罪として審判されたならば、併合加重され処断刑(47条:20年×1・5=懲役30年)に基づいて判断されることになる。ただし、その上限を超えることはできない。この場合の量刑がどれほどであったかは、明らかではないが、上限の30年の範囲内で、例えば懲役28年ほどになったのではないかと予想される。

 事後的併合罪としてZ罪が審理される場合、確定刑の26年に追加して「28年」になるようにするならあば、懲役2年になるが、Z罪は強盗罪であり、その法定刑の下限は懲役5年であるため、それを下回る懲役2年の刑を言い渡すことはできない。酌量減軽したならば、下限は2年6月になるが、それでも懲役2年を言い渡すことはできない(酌量減軽する理由がなければ、下限は懲役5年のままである)。このような場合、Z罪の量刑はどのようになるか。

 Z罪に懲役5年を言い渡し、51条1項に基づいて、すでに確定した懲役26年の刑と「併せて執行する」。ただし、51条2項に基づいて、「その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたもの」、すなわち懲役30年を超えることができないので、Aは、懲役5年の刑の4年目の執行が終了した時点で、釈放される。

 しかし、それでも同時的併合罪として審理された場合に想定される懲役28年よりも2年上回っていることは無視できない。この2年の差をどのようにすれば正当化できるか。