Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

質問への解説(1)身分犯の共犯に関する質問と解説

2016-07-06 | 日記
1.問題
 賭博の常習者Yは、常習癖のないXに資金を提供して賭博をさせた。

2.私の解説
 X 単純賭博罪の正犯が成立する。
 では、Yは?
 常習賭博罪は、単純賭博罪の加重的身分は犯である。刑法65条2項は、「身分のない者」には(加減的身分犯ではない)通常の刑を科す、と規定している。Yは常習者であり、「身分のある者 」であって、「身分のない者」ではない。従って、「身分のない者」を対象する65条2項は、「身分のある者」には適用できない。従って、常習者の身分のあるYは、常習癖のないXの単純賭博罪を教唆したと解することになる。

3.質問
 Yは常習者という加重的身分があるので、単純賭博罪の教唆ではなく、常習賭博罪の教唆になり得ると思うのですが、どうでしょうか。

4.解説
 順を追って説明します。

・賭博の初心者Xが常習者Yに資金を提供して、賭博を行なわせた。
 正犯Yに常習賭博罪が成立するのは明らかです。では、Xには何罪の教唆が成立するでしょうか。常習賭博罪は、常習者という身分によって単純賭博罪を加重した類型であると解すると、Xには刑法65条2項を適用して、「通常の刑」を定めた単純賭博罪の教唆が成立することになります。

・賭博の常習者Yが初心者Xに資金を提供して、賭博を行なわせた。
 正犯Xには単純賭博罪が成立するのは明らかです。では、Yには何罪が成立するでしょうか。Yには賭博の常習者という身分があるので、刑法65条2項の「身分のない者」ではありません。刑法65条2項は、「身分のない者」を適用対象として、通常の(単純賭博罪)の刑を科すと規定しているだけです。「身分のある者」に対して、加重された(常習賭博罪)の刑を科すとは規定していません。従って、身分のない者を対象とした刑法65条2項を、身分(常習者)のあるYに適用することはできません。従って、常習賭博罪の教唆の成立を認めることはできません。

5.補足
 もし、刑法65条2項が、「身分のない者には、通常の刑を科し、身分 のある者には、加重・減軽された刑を科す」と規定していれば、ご指摘のような解釈が成り立ちますが、65条2項がそのように規定してはいないと思います。

 いかがでしょうか? また、質問してください。