Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

2016年度刑法Ⅰ(第13週)刑法の諸問題(2)(刑事判例資料)

2016-07-02 | 日記
 刑事判例資料
 第13週 共犯の諸問題(2) 共犯と身分、不作為による幇助、間接幇助、片面的幇助

91共犯と身分(1)(最三判昭和42・3・7刑集21巻2号417頁)
【事案の概要】
 XとYは、外国にいるZが営利目的で麻薬を輸入しようとしていることを知りながら、その依頼を受けて、麻薬を輸入した。

 第1審神戸地裁は、XはZとの関係や前歴係から、Zが営利目的を持っていることを知っており、YはXが麻薬輸入の意図を持っていることを了知しながら、Xに協力加担しているので、XとYには、少なくとも第三者に財産上の利益を得させることの目的(営利目的)があったとして、麻薬取締法64条2項の営利目的麻薬輸入罪の共同正犯が成立すると判断した。

 Xのみ控訴したが、X、Y、Zは営利目的麻薬輸入罪の(共謀)共同正犯が成立するとして、控訴を棄却する判断が言い渡された。Xのみ上告した。

【裁判所の判断】
 麻薬取締法12条1項の規定に違反して、麻薬輸入の行為を行なった場合、営利目的を持っている者には、同法64条2項の営利目的麻薬輸入罪が成立し、営利目的を持たない者には、同条1項の(単純)麻薬輸入罪が成立する。営利目的麻薬輸入罪における「営利目的」は、自己が財産上の利益を得たり、第三者に得させたりする目的であり、このような犯人の特殊事情がある場合に営利目的麻薬輸入財が成立する。この目的の有無によって、刑の軽重に差が生ずるので、それはは刑法65条2項にいう「身分」であるといえる。

 第1審判決は、Xが、Zに営利目的があったことを知っていただけで、自ら営利目的を持っていなかったにもかかわらず営利目的を認めた。これは、刑法65条2項の解釈適用を誤った違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすものであり、これを破棄しなければ、著しく正義に反するものと認められる。

 Zには営利目的があり、XはZが営利目的を持っていることは知っていたが、自らは営利目的を持っていなかった。このようなXに対して営利目的麻薬輸入罪の共同正犯が成立するというのはで妥当ではない。営利目的のないXには、刑法65条2項を適用して、「通常の刑」が定められた単純麻薬輸入罪の共同正犯にとどまると解すべきである。

【解説】
 第1審神戸地裁は、刑法65条の身分とは、犯人の職業、社会的地位、性別、国籍などを指し、営利目的麻薬輸入罪の営利目的はそれにあたらないと解している。それは、いわゆる主観的違法要素であると捉えられているだけである。つまり、故意と同じ様に扱われている。営利目的をこのように扱うことによって、X・Yに営利目的麻薬輸入罪の共同正犯の成立を認めている。その論理は、次のようなものである。

 例えば、XがAを殺害する意図でコーヒーに毒を入れた。YはXの意図を知っていた。YはAに恨みはないが、Xの依頼を受けて、そのコーヒーをAのテーブルまで運んだ。Aはそれを飲み、死亡した。この場合、XとYに殺人罪の共同正犯が成立することは明らかである。この論理を本件に適用すると、Zは営利目的で麻薬を輸入する意図(営利目的麻薬輸入の故意)を持っていた。XとYは、Zの意図を知っていながら、Zの依頼を受けて、麻薬を輸入した。X、Y、Zには、営利目的麻薬輸入罪の共同正犯が成立する。神戸地裁とそれを維持した大阪高裁の判断は、いたってシンプルである。

 しかし、最高裁の判断は、異なる。最高裁は、営利目的麻薬輸入罪における営利目的は、それがない単純麻薬輸入罪の刑を加重する要素、すなわち刑法65条2項の加重的身分と解している。このように理解すると、営利目的を持つ者と持たない者が共同して麻薬を輸入した場合、目的を持つ者には営利目的麻薬輸入罪が、持たない者には「通常の刑」が科される単純麻薬輸入罪が成立し、両者は共同正犯になる。

 営利目的麻薬輸入罪における営利目的とは、自己または第三者に財産上の利益を得させる目的(超過的内心傾向)であり、麻薬輸入後にそのような利得行為を行なって、その結果を発生させる目的である。それは、麻薬輸入の行為の違法性と非難可能性を高め、その刑を加重する要素である。Zにはその目的があったが、XとYにはなかった。従って、X、Y、Zが、外形的に同じ外観の麻薬輸入行為を行なっても、それだけの理由で、その構成要件該当性も同じだということはできない。営利目的の有無によって該当する構成要件が異なるのである。営利目的のないXとYの行為が、営利目的麻薬輸入罪の構成要件に該当し、Zと共同正犯になると判断した神戸地裁は、この点についての解釈を誤ったといえる。

 なお、営利目的があることによって刑が加重される犯罪類型は他にもある。営利目的略取・誘拐罪がそうである。




92共犯と身分(2)(最三判昭和32・11・19刑集11巻12号3073頁)
【事案の概要】
 Zは、村への寄付金を受領・保管する業務にあたっていたが、被告人XとYは、Zと共謀して、Z補完の寄付金約23万円の中から、約8万円を飲食代金として支出した。
 第1審水戸地裁十浦支部は、被告人X・Yに刑法253条の業務上横領罪の共同正犯の成立を認め、原審東京高裁もこれを認め、控訴を棄却した。弁護人が上告した。
 なお、Zは分離審判され、業務上横領罪の共同正犯の成立が認められたものと推測される。

【裁判所の判断】
 寄付金の受け取りと管理の業務に従事していたのはZであって、XとYにはその事実は認められない。従って、XとYは、刑法65条1項を適用して、Zと業務上横領罪の共同正犯を行なったと認定すべきである。そのうえで、刑法65条2項を適用して、通常の刑である刑法252条1項の単純横領罪の刑を適用すべきである。原判決を破棄し、XとYに業務上横領罪の共同正犯の成立を認め、科刑の点について、単純横領罪の法定刑で処断すべきである。

【解説】
 犯罪のなかには、特定の職業や社会的地位、性別、国籍を持つ者が行なった場合にだけ、犯罪として処罰されるものや、それを理由に刑が加重または減軽されるものがある。このような職業や社会的地位のことを「身分」といい、その身分があることによって、はじめて犯罪を構成するものを「構成的身分犯」または「真正身分犯」といい、その身分を持つ者(身分者)が行なったことで刑が加重・減軽されるものを「加重的身分犯・減軽的身分犯」(両者を併せて加減的身分犯)または「不真正身分犯」という。

 このような身分犯に身分を持たない者(非身分者)が関与した場合に、どのような犯罪が成立するか。刑法65条1項・2項はこのような場合についての規定である。ただし、その規定の理解の仕方と適用方法については、様々な理解がある。刑法65条1項はどのような事案に適用され、同2項はどのような事案に適用されるのか。そして、両規定は、どのような関係にあるのか。この問題について、本件の最高裁の判断が示されて以降、近年の通説・判例の理解が変化しているので、それを対比させながら理解する必要がある。

 本判決は、刑法65条1項については、身分犯と共犯の問題(共同正犯・共犯が成立する罪名の問題)に一般的に適用される規定であり、同2項については、そのうちの非身分者に科される刑の問題(「通常の刑」を定めた罪の法定刑で処断する問題)に個別的に適用される規定であると解している。つまり、身分者と非身分者が共同して身分犯を実行した者には、身分者と非身分者の両方に刑法65条1項が適用されて、「身分犯の共同正犯」が成立し、非身分者について、身分の有無によって刑の軽重がある場合には、非身分者には刑法65条2項を適用して、「通常の刑」を定めた罪の法定刑で処断され、非身分者について、身分の有無によって刑の軽重がない場合には、身分者と同じ犯罪の共同正犯が成立するという理解である。これに対して、現在では、刑法65条1項は、構成的身分犯に関する共犯の問題、2項は、加減的身分犯に関する共犯の問題に適用されると解されている。従って、現在の通説・判例の解釈からこの事案を扱うなたば、本件の判例とは異なった結論が出される。

 判例の理解に従って検討すると、本件で争点となったのは、村長Xと助役Yが寄付金の管理業務に従事していたか否かである。管理業務に従事していたのであれば、業務者・身分者であるので、業務上横領罪の行為主体(単純横領罪の刑を加重する的身分者)ということになる。従事していなかったのであれば、単純横領罪の行為主体にとどまる。村のための寄付金の受領と管理の業務に従事していたのはZであり、XとYは、その業務に従事していなかったのであるから、非業務者・非身分者には、刑法65条1項を適用してZと業務上横領罪の共同正犯の成立を認め、さらに同2項を適用して、単純横領罪の刑で処断することになる。これに対して、近年の理解に従って検討すると、X・Yには刑法62条2項を適用して、単純横領罪の共同正犯の成立を認めることになる。

 なお、余談であるが、各論的論点の補足をしておく。本件の判例も、近年の通説も、それぞれの立場には、単純横領罪と業務上横領罪が、基本類型と身分による加重類型の関係にあるとの理解がある。つまり、業務者・身分者ではない者は、基本類型の単純横領罪の行為主体という理解がある。しかし、単純横領罪の規定によれば、その行為は「自己の占有する他人の物の横領」なので、単純横領罪の行為主体は、「他人の物を占有している者」でなければならない。しかも、物の所有者・占有者の委託を受けずに物を占有した場合の遺失物横領罪と区別するために、単純横領罪の行為主体は、物の所有者・占有者からの委託を受けて物を占有している者であると解されている(それゆえ単純横領罪は「委託物横領罪」と呼ばれることがある)。本件のXとYが業務上横領罪の行為主体ではないことは明らかであっても、単純横領罪の行為主体であると認識されたことの根拠は明らかではない。XとYは、業務外において、誰から委託を受けて、寄付金の保管をしたのかという点についての説明はない(おそらく、ZがX・Yのところに寄付金の一部を持って行って、共同保管し、その後、一緒になって飲食谷として支出して、横領したと認定されたのではないかと想像される)。かりに、Zとの共同保管の事実がなければ、その寄付金の一部は、XとYにとっては、委託を受けずに占有している物ということになる。そうすると、XとYは委託物横領罪ではなく、遺失物横領罪の共同正犯でしかない。ただし、このような法適用は、遺失物横領罪、単純横領罪、業務上横領罪の3罪について、遺失物横領罪(非委託物横領罪)が横領罪の基本類型であり、その加重類型が単純横領罪(委託関係を加重的身分とする委託物横領罪)、そのまた加重類型が業務上横領罪(業務者であることが加重的身分である業務上委託物横領罪)と理解しなければならない(各論で詳説する)。

93共犯と身分(3)(大阪高判昭和62・7・17判時1253号141頁)
【事実の概要】
 被告人Xは店舗内で商品を窃取した後、警備員Aに呼び止められ、窃盗罪の現行犯として逮捕されそうになった。それを免れるために、Y・Zと意思を通じて、Aに暴行を加え、傷害を負わせた。X、Y、Zは、(事後)強盗罪致傷罪で起訴された。
 原審神戸地裁は、Xによる単独の窃盗罪が既遂に達した後で、Y・Zと共謀して暴行を加えたと事実関係を認定したうえで、Y・Zは窃盗罪の共同正犯ではないから、事後強盗罪の行為主体にもなりえないとして、Xら3名について強盗致傷罪の共同正犯の成立を認めるのは妥当ではないとして、Xについて強盗致傷罪の成立を認め、Y・Zにはその致傷部分について共同正犯が成立するとして、傷害罪の共同正犯の成立を認めた。Xが量刑不当を理由に控訴した。Y・Zは控訴しなかった(傷害罪の共同正犯の成立が確定)。

【裁判所の判断】
 Xの窃盗後、Y・Zがその事実を知った上で、Xと共謀して被害者に暴行を加えて傷害を負わせた場合、窃盗犯という身分を持たないY・Zについても、刑法65条1項を適用して、事後強盗致傷罪が成立すると解すべきである。この場合、非身分者には、刑法65条2項を適用して、傷害罪の共同正犯の成立を主張するものがあるが、事後強盗罪は、窃盗犯という身分者が暴行・脅迫を行なった場合に暴行・脅迫の刑を加重する加重的身分犯・不真正身分犯ではなく、窃盗犯という身分者が、刑法238条所定の目的に基づいて、暴行・脅迫を行なった場合に、その暴行・脅迫を「強盗罪」として処罰する構成的身分犯・真正身分犯であると解すべきである。従って、事後強盗罪の構成要件的行為である暴行・脅迫に非身分者が関与した場合、非身分者に対して、刑法65条1項を適用して、構成的身分犯の共同正犯の成立を認め、事後強盗罪の全体に刑法60条を適用し、共同正犯が成立すると解すべきである。原判決は、本件の行為のうち、傷害罪の範囲にしか刑法60条を適用しなかったが、それは刑法65条、60条の法令の解釈適用を誤ったものといわなければならない。
 ただし、Y・Zは控訴していない。Y・Zには、傷害罪の共同正犯が成立し、それが確定している。控訴したのはXだけで、その罪責は(事後)強盗致傷罪の共同正犯であることに変わりはない。原判決の法令解釈適用の誤りは、Xに対するこの判決に影響を及ぼすようなものとはいえない。
 かりに、検察官がY・Zに対する原審の判断に関して控訴していたならば、この二人には強盗致傷罪の共同正犯の成立が認められたと思われる。

【解説】
 身分犯には、構成的身分犯と加減的身分犯の二種類があるが、この二つを区別する基準は何か。

 構成的身分犯は、一定の身分を有する者が行なったときに、その行為が初めて犯罪として処罰されるというものである。例えば、収賄罪がその典型である。職務に関連して、他者から利益を受け取っても、それが国家法益に対して侵害性を帯び、収賄罪として処罰されるのは、その行為者が公務員である場合に限られる。公務員でない者が公務員による収賄罪に関与した場合、刑法65条1項を適用され、収賄罪の共同正犯・共犯が成立する。これに対して、加減的身分犯は、行為者に一定の身分が備わっていることによって、それがない場合に比べて、その違法性や有責性に軽重が生じ、その結果、科される刑に軽重が生ずるものをいう。例えば、保護責任者遺棄罪がその典型である。保護責任のない者が保護責任者による遺棄に関与した場合、刑法65条2項を適用され、単純遺棄罪の共同正犯・共犯が成立する。構成的身分犯・真正身分犯と加減的身分犯・不真正身分犯を区別する基準が明確であれば、刑法65条1項・2項の適用は問題にならないが、その基準が不明確であれば、65条1項を適用するのか、2項を適用するのか、いずれなのかを明らかではない。

 事後強盗罪は、どのような性質の犯罪であるか。刑法238条の「窃盗が」という規定は、収賄罪の「公務員が」の規定と同様、身分犯であると解釈することができる。ただし、それが構成的身分なのか、加減的身分なのかは、明らかではない。事後強盗罪の構成要件的行為は、条文上、暴行・脅迫であり、それが238条所定の目的で行なわれたときに、事後強盗罪の構成要件に該当する(目的犯)。ただし、この暴行・脅迫は、それ自体として犯罪である。それを窃盗犯という身分を持つ者が行なった場合に、(事後)強盗罪の刑が科されるということは、事後強盗罪は暴行・脅迫を窃盗という身分によって加重した類型であると理解することができる。そうすると、事後強盗罪は、窃盗という身分による暴行・脅迫罪の加重類型であり、窃盗犯という身分は、暴行・脅迫の加重的身分である。このように理解するのが、事後強盗罪=加重的身分犯説・不真正身分犯説である。

 これに対して、本件では事後強盗罪は構成的身分犯・真正身分犯であると解されている。事後強盗罪は、窃盗犯という身分者が暴行・脅迫を行なった場合に成立するが、それは窃盗犯という身分によって暴行・脅迫の刑が加重される加重的身分犯・不真正身分犯ではない。暴行・脅迫は一般に人身犯に分類されているが、窃盗犯という身分を持つ者が、刑法238条所定の目的に基づいて、この暴行・脅迫を行なった場合に、この暴行・脅迫が強盗罪の性質を持ち、財産犯として初めて処罰されるのである。従って、事後強盗罪は構成的身分犯・真正身分犯である。事後強盗罪は、基本的に財産犯であり、窃盗犯という身分は、人身犯としての暴行・脅迫の違法性や有責性を加重する身分ではなく、人身犯としての暴行・脅迫を財産犯として構成する身分である。

 これに対して、事後強盗罪を身分犯ではなく、窃盗と暴行・脅迫の結合犯の一種と捉える学説もある。身分とは、行為者に備わっている自然的・社会的属性であり、窃盗犯であることは、身分ではないと理解しているからである。この立場からは、暴行に関与したY・Zについては、Xが単独で行なった窃盗を承継するか否かの「承継的共同正犯」の問題として扱われる。

83不作為による幇助(札幌高判平成12・3・16判時1711号170頁)
【事案の概要】容
 被告人は、離婚したXと再び同棲し、自己が親権を有していたAとBを連れて内縁関係に入った。Xは、BがXの言うことを聞かないと思いこみ、Bに対して暴行を加えるなどした。被告人は、いつものせっかんが始まったと思ったが、何にもせずに無関心を装っていた。その後、Bは硬膜下出血というの傷害による脳機能障害のために死亡した。Xは、傷害致死罪で有罪になった。被告人については、「何もせずに無関心を装った」という不作為の態度が、Xの傷害致死罪を促進・助長したとして、幇助にあたるかが問われた。

 原審釧路地裁は、被告人が傷害致死罪を不作為によって幇助したか否かにつき検討した。不作為による幇助が成立するためには、正犯の実行を阻止すべき作為義務を有する者が、その実行をほぼ確実に阻止しえたにもかかわらず、それを行なわなかったこと、そしてその作為義務の程度や要求される作為が容易であったことなどを踏まえて、その不作為が作為による幇助と同視しうるものでなければならない。検察官は、被告人がXの行動を監視したり、それを言葉で制止するなどしていれば、Xの行為を阻止しえたと主張したが、裁判所は、そのような行動ではXの行為を確実に阻止しえたとはいえず、またXのこれまでの態度や被告人が妊娠6カ月であったこと、男女の体格差などがあったことなどからすると、被告人が身を挺してXの行為を阻止することは著しく困難であったとして、被告人にXの行為を阻止すべき作為義務があることを認めた上で、本件の状況においては、その作為に出ることは著しく困難であり、被告人の不作為がXの傷害致死罪を助長・促進したとはいえないとして、幇助の成立を否定した。

【裁判所の判断】
 原判決は、不作為による幇助の成立要件として、「犯罪の実行をほぼ確実に阻止しえたこと」を挙げているが、それは不要である。さらに、被告人に要求される作為が、Xの暴力を実力で阻止する作為のみを想定して、監視や言葉による制止という作為ではXの暴行を阻止しえなかたっとして、そのような作為を想定していないことも誤っている。むしろ、被告人は、監視や言葉による制止など比較的容易なものから段階的に行ない、あるいは複合的に行なうことによって、Xの暴行を阻止することが可能であった。その点を検討しなかった原判決の法令適用には、判決に及ぼす重要な誤りがある。

 不作為による幇助は、正犯の犯罪を防止すべき義務のある者が、一定の作為によって正犯の犯罪を防止することが可能であるのに、それを認識しながら、その作為を行なわずに、それによって正犯の犯罪の実行を容易にした場合に成立する。被告人の不作為は、Xの暴行を阻止しうる可能性のある監視や言動による制止が行なわれた場合と比べると、Xの暴行を容易にしたということは明らかであり、それを認識しつつ、あえて認容したと認められる。被告人の不作為は、Xの傷害致死を幇助したものといえる。

【解説】
 不作為には、真正不作為犯と不真正不作為犯である。
 真正不作為犯は、不作為の形式でめられた犯罪であり、多衆不解散罪、不退去罪、保護責任者不保護罪などがある。これに対して、不真正不作為犯は、作為の形式で定められた犯罪を不作為によって実行する場合である。真正不作為犯は、その条文において、誰の、どのような不作為が処罰されるのかが明記されているが、不真正不作為犯は、誰の不作為が処罰されるのかが条文で明記されていないため、その成立要件について争いがある。

 不真正不作為犯に関しては、これまで形式的三分説という学説が有力に主張されてきた。すなわち、誰の、どの不作為が作為犯の構成要件を実現したかは、法律上の作為義務、契約・事務管理に基づく作為義務、先行行為・条理に基づく作為義務を基準に判断するというものである。これらによって、不真正不作為犯の成立範囲を特定することができると解されてきた。しかし、これらは非刑法的な基準であり、それから刑法上の作為義務を根拠づけることは困難であるとの批判が出された。

 このような批判を受けて、現在では「保障者」が有力に主張されている。すなわち、殺人罪を例にとれば、被害者の生命保護やそれへの侵害を阻止する義務を負う者が、そのための作為をなさなかった場合、作為による生命侵害と同視することができるという説である。誰が被害者の生命保護などをなす作為義務を負っているかというと、それは被害者との緊密な生活関係の有無や程度から判断される。ただし、保障者の地位にある者であっても、その作為義務が履行可能・容易であり、またその不作為と生命侵害の間に因果関係)(十中八九、結果の発生を回避しえたであろう)がなければならない。

 このような保障者説の議論は、一般に正犯について議論されてきたが、それは幇助などの共犯にも妥当する。ある行為者が被害者に対して直接的な暴行を行っているときに、その被害者と緊密な生活関係にある者は、被害者を保護するか、行為者の暴行を阻止するなどの義務を負う。その作為義務をい履行することが可能で、さほど困難でなく、かつ作為義務を履行したならば、行為者の暴行を阻止ないし弱めることが「十中八九」できたであろうといえるならば、その不作為は幇助にあたると認定することができる。






84間接幇助(最一決昭和44・7・17刑集23巻8号1061頁)
【事案の概要】
 わいせつフィルムを所有するXは、Aに対して、顧客へサービスするのであれば、フィルムをいつでも貸すと述べた。Aは、顧客の名前を明らかにせずに、Xからフィルムを借りた。AはこれをBに渡し、Bは某所においてCらに閲覧させた。Xは、わいせつ図画公然陳列罪の幇助にあたるとして起訴された。

 B・Cらは、フィルムを閲覧した。この行為は、わいせつ図画公然陳列罪(の正犯)にあたる。Aは、そのフィルムをBに貸した。それはその幇助にあたる。Xは、幇助犯Aを幇助した。Xに幇助犯の規定を適用できるか。

 刑法61条2項は、教唆者を教唆した間接教唆(Xが犯罪を実行するようYを教唆し、Yはその犯罪を自分では実行せずに、Zを教唆して実行させた)を処罰する規定を設けているが、刑法62条には幇助犯に対する幇助(間接幇助)を処罰する規定はない。そうすると、幇助犯Aを幇助したXには、わいせつ図画公然陳列罪の幇助にはあたるとはいえない。この点について、彦根簡裁は、XがBの名前を知らなくても、Aからフィルムを受け取った人物が、わいせつ図画を公然と閲覧するなどして陳列することを知りながら、その実行を容易にしたといえるので、Xにはわいせつ図画公然陳列罪の直接幇助が成立すると判断した。控訴審・大阪高裁は、本件は間接幇助の事案であるので、第1審判決が「直接幇助」の表現を用いたのは妥当ではないが、この程度の誤認は判決に影響を及ぼすものではないと述べて、Xの控訴を棄却した。

【裁判所の判断】
 Xが、Aまたはその得意先の者において、不特定の多数人が、本件フィルムを閲覧するであろことえを知りながら、それをAに貸与し、そのフィルムがAからBに貸与されて、BにおいてCらに閲覧させたのであるから、Xは正犯Bの犯行を間接に幇助したものとして、幇助犯の成立を認めた原判決の判断は相当である。

【解説】
 正犯が犯行を実行するにあたり、それに役立つ行為を行なった者は、幇助として処罰される。正犯が実行に至るまでに、様々な関与が考えられる。幇助を、正犯の実行を直接的に物理的・心理的に援助するのを「直接幇助」、幇助犯に対して物理的・心理的に援助するのが「間接幇助」である。

 刑法62条は、幇助を「正犯を幇助した者」と規定しているだけである。これは、「直接幇助」であって、「間接幇助」のような形態の行為を処罰する規定はない。従って、間接幇助を処罰することはできないはずである。しかし、そのように理解すると不都合な問題が出てくる。

 例えば、拳銃を用いたZによるA殺人、Zによる麻薬のAへの有償譲渡などの場合、Zが殺人や有償譲渡を行なうにあたって、YがXに拳銃や麻薬を直接手渡した場合、幇助として処罰されることは言うまでもない。では、さらに遡って、Yに拳銃や麻薬を手渡すために、密輸入したXには、Yに対する幇助は成立しないのだろうか。Xは、仲介者Yを介して、正犯Zを間接的に幇助しているが、それは刑法62条の幇助にあたるといえるのではないだろうか。この場合、正犯Zは、Yによって幇助されている認識(意思連絡)はあるが、Xによって幇助されている認識はない。判例は、正犯と幇助の間には意思連絡は必ずしも必要ではないという立場に立っており(片面的幇助もありうる)、刑法62条の規定も、正犯を直接的にだけでなく、間接的に幇助すれば幇助犯が成立すると解釈できるので、幇助犯の成立の実質的必要性だけでなく、規定の形式からも、間接的な幇助に刑法62条を適用することができると解すべきである。

 なお、(直接)幇助犯も処罰される行為であるという意味では「犯罪」である。従って、2人以上の者が共同して幇助犯という「犯罪」を実行した場合にも、「幇助犯の共同正犯」が成立すると主張する学説がある。この立場からは、(直接)幇助犯もまた「正犯」なので、(直接)幇助に対する(間接)幇助は、正犯に対する幇助なので、その幇助には刑法62条をストレートに適用することが認められる。しかし、幇助が犯罪であり、幇助の共同実行が犯罪の共同正犯であることを理由に、「幇助の正犯性」を肯定して、幇助犯という正犯に対する(間接)幇助もまた幇助だと論ずるのは、やや違和感がある。というのも、「正犯とは犯罪構成要件該当行為を行なった者である」という限縮的正犯概念とは異なる立場からの主張であるため、構成要件論を基礎に据えた犯罪体系論からは認めがたい。














85片面的幇助(東京地判昭和63・7・27判時1300号153頁)
【事案の概要】
 A、B、Cの3人は、日本に拳銃等を密輸するために、マニラで木製のテーブルに拳銃を隠し入れた。被告人は、実兄Cから依頼を受け、B名義でマニラから日本のDに「木製テーブル」の発送手続をとった。このとき、被告人は、テーブルのなかに拳銃等が隠されている可能性があることを認識していた。数日後、テーブルが日本に届けられたが、そのなかに拳銃が隠されていることが発見され、日本の空港で押収された。

 被告人は、発送手続をとった翌日に、Aから交通費と500ドルを受け取り、東京に行くよう依頼された。テーブルに拳銃等が隠されていること、東京での役割を知らされたのは、テーブルが押収された翌日であった。Aらは、それまで被告人がテーブルに拳銃等が隠されていることを知らないと思っていた。

【裁判所の判断】
 被告人は、テーブルに拳銃等が隠されていることについて未必の認識があった。A、B、Cは、被告人が事情をテーブルに拳銃などが入っていることを知らないと思っていた。被告人は、B名義でテーブルを日本のDに送る手続をとった。その行為は、拳銃の密輸のための重要な行為である。しかし、被告人でなくてもできる行為であり、形式的・機械的な行為でしかなかった。その後、被告人は、渡航費と500ドルを受け取り、東京での役割を告げられた。それは、テーブルが日本で押収された後であった。
 これらの点を考慮すると、被告人がテーブルの発送手続をとったのは、Cらと共謀して密輸を実行したというよりは、実兄のCから依頼されて、拳銃が隠されていることを未必的に認識しながら、それを幇助する意思のもとに行なったと認められる。従って、被告人の行為はそれ自体として拳銃の密輸入行為の正犯であるが、Aらの密輸入行為の全体計画において位置付けて見るならば、それは幇助に過ぎない。

【評価】
 この事案には、2つの論点がある。第1は、拳銃が入っていることを知りながら、その密輸のための発送手続をとった行為は密輸の実行行為ではなく、その幇助であるという点。これを「故意ある幇助的道具」と呼ばれるものである。第2は、正犯Aらが被告人に幇助されていることを知らなくても(意思連絡がなくても)、つまり被告人の側から一方的な幇助意思しかなくても、幇助犯が成立するという点である。

 第1の点。被告人が、単独で拳銃を密輸するために、本件のような発送手続をとったならば、それは拳銃密輸の構成要件該当行為であり、被告人がその正犯である。しかし、A、B、Cに依頼されて行なった、しかもCが被告人の実兄であったなどの諸事情を踏まえると、たとえ被告人がテーブルの中身を知って、発送手続をとったとしても、被告人の行為は、密輸の全体的な計画のうちにおいて、幇助的な意味しかないといえる場合もある。確かに、拳銃の入ったテーブルを発送することは、密輸の構成要件該当行為であり、テーブルに拳銃が入っていることを知っていれば、その故意も認められる。しかし、Aらの拳銃密輸入の犯行計画全体において、被告人の行為を評価するならば、それは犯行の遂行のための道具としての意義しかなく、密輸を行なうための幇助的な行為でしかない。このような被告人のことを「故意(正犯の認識)ある幇助的道具」という。→判例番号78参照。

 第2の点。幇助と正犯の関係についてである。幇助は、(広義の)犯罪の一形態であるので、基本的に故意のない幇助は、客観的に幇助類型に該当しても、その故意がないので、処罰されない(刑38①)。つまり、幇助の故意は、幇助者が正犯を物理的・心理的に援助していることの認識である。では、正犯のところで、幇助者に援助されていることの認識がなければ、幇助は成立しないのだろうか。判例は、いわゆる片面的幇助を認めている。つまり、正犯に幇助されているという認識は不要であると解している。従って、正犯と幇助犯の間に意思連絡がない場合でも、幇助犯は成立する。
 刑法62条は、正犯を幇助した者は従犯とすると規定しているので、幇助の成立には、客観的に正犯の実行を助長・促進し、幇助者にその認識があれば足りると解釈することができる。これに対して、教唆の場合は、犯罪の意思のない者をそそのかして、犯罪の実行を決意させて、実行させることと解されているので、「片面的教唆」というものはありえない。教唆者が教唆したが、被教唆者に犯罪を実行する意思がなかった場合(つまり犯罪の故意がなかった場合)、それは故意のない者を道具のように利用して、犯罪の結果を発生させた「間接正犯」にあたる(医師が看護師を欺いて、患者を毒殺させた場合)。













86幇助の因果性(東京高判平成2・2・21判タ733号232頁)
【事案の概要】
 Yは、Aから宝石や毛皮衣服などを預かって保管していたが、Aを拳銃で殺害して、その返還を免れようと考えた。Yは、Aを誘い出し、Bが運転する自動車の車内においてAを射殺し、宝石などの返還を免れ、さらに山中においてAの携帯していた現金を奪った(Yは強盗殺人)。
 被告人Xは、Yの犯行に先立って、Yから指示を受けて、地下室内の拳銃音が建物の外に漏れるのを防止するために、地下室の入口戸の周囲のすきまをガムテープで目張りしたり、換気口を毛布で塞ぐなどした(目張り行為)。その後、Yから計画を変更したことを告げられ、同行を求められたので、同行するとYを精神的に力づけ、その強盗殺人の実行を手助けすることになると認識しながら、同行することを決意して、仲間の運転する自動車に同乗して、Yの自動車に追従して、殺害現場に至った(追従行為)。

 原審東京地裁は、被告人の目張り行為は、Yの一連の計画に基づく被害者の生命等の侵害を現実化する危険性を高めたものと評価でき、また被告人の追従行為は、Yの強盗殺人の意図を強化したということができ、いずれも幇助の成立に必要な因果関係を肯定できると判断し、被告人に懲役4年を言い渡した。

【裁判所の判断】
 破棄自判。Xを懲役3年6月に処する。
 刑を減軽した理由は、目張り行為の幇助の因果性、その行為によってYの強盗殺人の意図を強化したと認めることができないことにある。

 Yが犯行計画を変更したため、目張り行為は、本件犯行には全く役に立たなかったが(幇助の物理的因果性はなかったが)、それでもYの犯行の決意を強化するなど役に立ったことが証明されれば、その心理的な幇助性を認めることができる(幇助の心理的因果性)。Xが、Yの指示を受けて、それを承諾したので、そのことがYの意を強くさせたことも推認しうるが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。また、XがYに対して直接的またはBを介して間接的に地下室の目張について報告し、Yがそれを現認したことを認めるに足りる証拠もない。従って、Xの目張り行為がYを心理的に力づけ、強盗殺人の意図を維持または強化したことに役立ったことを認めることはできない。
 従って、被告人Xの目張り行為については、正犯Yの強盗殺人に対して幇助の因果性を認めることはできない。

【解説】
 ある行為が幇助に該当するかどうかは、その行為が正犯を物理的・心理的に援助し、正犯の犯行を物理的に容易にしたり、またはその決意を維持・強化したことによって認定される。つまり、幇助の行為が行なわれなかった場合と比べて、正犯の遂行が促進され、容易にされた場合に幇助の成立が認められる。

 このように幇助は正犯に対して因果性を有するものでなければならないが、その因果性は、正犯の実行の物理的促進的効果、または正犯の故意の心理的強化性という意味での因果性で足りる。幇助が行なわれても、行なわれなくても、正犯の法益侵害の内容や態様に影響を及ぼさない場合もあるが、そのような場合でも、正犯の実行が物理的に促進され、その故意が心理的に強化されていれば、幇助の因果性を肯定することができる。


























87中立的行為と幇助(最三決平成23・12・19刑集65巻9号1380頁)
【事案の概要】
 被告人は、ファイル共有ソフト「Winny」を開発し、ウェブサイトでの公開を通じて、それを不特定多数の者が利用できる状態にして、提供した。そのうち2名がそのソフトを利用して、著作権侵害行為を行なった。被告人はその幇助として起訴された。

 第1審京都地裁は、被告人の行為が著作権侵害行為の幇助にあたり、またその認識もあるとして、幇助犯の成立を認めた。控訴審大阪高裁は、幇助が成立するには、ソフトを違法行為を行なう用途にのみ提供する行為であるとか、またはこれを主要な用途として使用させるようインターネット上で勧めてソフトを提供する行為でなければならないが、被告人の行為はこれにあたらないとして、無罪を言い渡した。

【裁判所の判断】
 本件ソフトを、著作権侵害の用途に利用するか、(合法的な)他の用途に利用するかは、個々の利用者の判断にゆだねられているので、本件ソフトの提供行為が、著作権侵害の幇助にあたるといえるためには、本件ソフトの利用によって著作権侵害が行なわれる一般的な可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり、また提供者のところでその認識がなければならない。本件において、被告人がWinnyを公開、提供した場合、例外とはいえない範囲の者が(つまり、その利用者の大半が)、それを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを、被告人が認識・認容していたと認めるのは困難である。それゆえ、被告人は著作権侵害の幇助犯の故意を欠くと言わざるを得ない。

【解説】
 日常生活で普通に行なわれている行為や犯罪的な性質を持たない中立的な行為が犯罪の遂行を助長・促進する場合、それを幇助として処罰することが妥当かどうかについては、様々な見解が主張されている。

 例えば、タクシー運転手が客を乗車させて、目的地まで走行する行為や郵便配達員が手紙を配達する行為などがその典型である。運転手Yが乗せた乗客が目的地で降車して、Aを追いかけ、刺殺した場合、Yの行為はXの殺人を幇助したといえるか。Xから配達の依頼を受けた郵便配達員YがAに郵便を届けたところ、それは脅迫状であった場合、YはXの脅迫を幇助したといえるか。

 Yのいずれの行為もXの犯行を助長し、促進し、容易にしているので、客観的に幇助の類型に該当するが、Yにはその認識がなかったので、故意はなく、結論的に幇助の成立は否定されるという考え方もあるが、そもそもYの行為は幇助の類型にあたらないと解することもできる。その理由は、日常的な行為や商取引行為、社会の制度のなかに組み入れられた行為は、それ自体として適法な行為であって、犯罪性を帯びないと考えられるからである。

 本件は、このような問題について、一定の判断を示したという点で意義がある。日常行為・中立的行為は、適法行為に役立つだけでなく、場合によっては犯罪の遂行にも役立つ。このような行為が犯罪の幇助にあたるのは、犯罪に利用されるという一般的な可能性では足りず、それを超えるような具体的な侵害に利用される状況がなければならない。そして、行為者のところでその認識がなければならない。