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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅰ(14)演習

2021-07-11 | 日記
089 共犯関係の解消(1) 実行の着手前
 甲は、乙・丙・丁とともに、A方の明かりが消えたら、乙・丙が屋内に侵入し、内部から入口の鍵を開けて侵入口を確保したうえで、甲も屋内に侵入して強盗に及ぶという計画を立てて、午前2時頃、乙・丙の両名は、窓から侵入し、甲のための侵入口を確保した。
 見張り役の丁は、屋内にいつ乙・丙が強盗に着手する前に、現場付近に人が集まってきたのを見て、犯行の発覚をおそれ、乙と丙に電話をかけ、「人が集まっている。早く止めて出てきた方がいい」と言ったところ、「もう少し待て」と言われたが、「危ないから待てない。先に帰る」と一方的につたえただけで電話を切り、止めてあった自動車に乗り込んだ。車内には、甲が待機していたが、甲と丁は話し合って一緒に逃げることとし、甲が運転する自動車で立ち去った。
 乙と丙は、いったんA方を出て、甲と丁が立ち去ったことを知ったが、午前2時55分頃、そのまま強盗を実行し、その際に加えた暴行によってAとBを負傷させた。
 甲、乙、丙、丁の罪責について論じなさい。


 共犯からの離脱ないし共犯関係の解消とは、犯罪の実行を共謀した者のうち一部の者が、その犯罪の実行の着手前において、他の共同正犯者に対して離脱の意思を表明し、その了承を得た場合に離脱が認められ、犯罪の共同正犯の成立が否定されることをいいます。実行の着手後の場合、離脱の意思を表明し、その了承を得ただけでは足りず、他の共同正犯者の犯行の継続を阻止することが必要です。
 設問の事案では、乙・丙が強盗罪の実行に着手する前に丁が離脱の意思を表明しているので、実行の着手前の離脱の問題です。ただし、住居侵入がすでに行われているので、たんなる実行の着手前ではなりません。しかも、強盗罪を行うための準備行為(強盗予備罪)が行われ、Aの財物を侵害する一定の危険が発生している点についても、たんなる実行の着手前の事案とはことなります。
 この事案のもとになった判例の見解によると、4人全員に住居侵入罪と強盗致傷罪の共同正犯が成立します。4人は、A方に侵入し強盗を行うことを共謀し、それぞれがその実現に向けて役割を分担しました(この時点において強盗予備罪が成立します)。つまり、A方の住居権の侵害および財物の占有の侵害を発生する因果的な作用(心理的・物理的な因果性)が生じています。乙と丙が、A方の住居に侵入した後、強盗の実行に着手するまえに、甲と丁がその場から立ち去っても、この因果性は解消されません。甲と丁が、乙・丙に立ち去る旨告げ、その了承を得れば、少なくとも心理的な因果性を解消することができますが、すでに乙と丙はA方に侵入し、その財物の占有は、強盗予備の程度の危険にさらされています。この物理的な因果性を除去しない限り、甲と丁は乙・丙との共犯関係から離脱することは認められません。




090 共犯関係の解消(2) 実行の着手後
 甲と乙は、深夜スナックで一緒に飲んでいたAの酒癖が悪く、再三たしなめたにもかかわらず、逆に反抗的な態度を示したことに憤慨し、車で乙方に連れて行き、8畳間において、Aの態度などを難詰し、謝ることを強く促した。しかし、Aが頑なにこれに応じないで反抗的な態度をとり続けたので激昂し、乙と意思を通じたうえ、約1時間ないし1時間半にわたり、竹刀や木刀でAの顔面、背部等を多数回殴打するなどの暴行を加えた。
 その後、甲は、乙方を立ち去ったが、その際「俺帰る」と言っただけで、これ以上Aに制裁を加えることは止めたいという趣旨のことを告げず、また乙に対しても、Aに暴行を加えることを止めるよう求めたり、Aを寝かせてやってほしいとか、病院に連れて行ってほしいなどと頼んだりせず、現場をそのままにして立ち去った。
 甲が立ち去った後、乙が、Aの言動に再び激昂し、「まだシメ足りないか」と怒鳴って顔を木刀で突くなどの暴行を加えたところ、Aは、甲状軟骨左上角骨折に基づく頸部圧迫等により窒息死したが、死の結果が甲が帰る前に甲と乙が加えた暴行によって生じたものか、その後の乙による暴行により生じたものかは断定できなかった。
 甲と乙の罪責について論じなさい。


 甲と乙が共同してAに暴行を加えた行為を第1行為とし、甲が立ち去った後に乙が単独で行った暴行を第2暴行とすると、乙は第1暴行と第2暴行の両方を行い、Aを死亡させたので、傷害致死罪が成立します。では、甲にはどのような犯罪が成立するでしょうか。甲は第1行為を共同して実行しているので、暴行罪ないし傷害罪の共同正犯が成立するでしょうか。それとも、第2行為前に立ち去っていますが、暴行罪や傷害罪の共同正犯から離脱していないので、傷害致死罪の共同正犯が成立するでしょうか。
 このような事案において、甲が乙との暴行ないし傷害の共同正犯から離脱するためには、甲が乙に共同正犯から離脱した旨告げ、乙から了承を得るだけでなく、乙の暴行の継続を阻止する措置をとる必要があります。甲と乙は共同してAに暴行を加え、傷害ないし致死の結果を発生させる危険性を生じさせているので、この危険性を除去しなければ、甲には暴行ないし傷害の共同正犯からの離脱は認められません。




091 共犯関係の解消(3) 正当防衛からの離脱と新たな共謀の成否
 甲は、乙・丙・丁・戊(ぼ)とともに、歩道上で、通りがかりのAとトラブルになった。Aは、戊の長い髪をつかみ、引きずり回すなどの乱暴を始めたので、甲らは戊の髪からAの手を放させようとしたが、Aは戊の髪を掴んだまま、通りを横断し、反対側にある駐車場まで戊を引っ張って行った。甲らは、Aの手を戊の髪から放させようとしてAを殴る蹴るなどし、甲もAの背中を1回足蹴りにし、Aもこれに応戦した。
 Aは戊の髪から手を放したものの、応戦する気勢を示しながら、駐車場の奥に移動し、甲らもほぼ一団となってAを駐車場に追い詰める格好で迫って行った。その間、駐車場付近で、乙がAに手拳で殴りかかり、さらに殴りかかろうとしたが、丁がこれを制止し、駐車場の奥では今度は丙がAに殴りかかろうとしたため、再び丁が制止した。その直後に丙がAの顔面を手拳で殴打し、そのためAは転倒してコンクリート床に頭部を打ちつけ、加療約7ヶ月半を要する外傷性小脳内血腫、頭蓋骨骨折等の傷害を負った。Aが戊の髪から手を放した駐車場入口付近から転倒した地点までの距離は、20メートル足らずであり、この移動に要した時間も短時間であり、乙と丁は、Aがいつ戊の髪をから手を放したか正確には認識していなかった。
 甲の罪責について論じなさい。
 Aが戊の髪の毛をつかんで引きずり回す行為は、戊に対する急迫不正の侵害であり、甲、乙、丙、丁が戊を助けるために、Aに殴る蹴るの暴行を加えました(第1暴行)。その後、Aが戊の髪の毛を放したが、応戦する気勢を示したので、甲、乙、丙、丁らの4人は、駐車場の奥にAを追い詰めました。そして、乙がAに暴行を加えようとしたが、丁が制止しました。また丙がAに暴行を加えようとしたので、丁が制止したが、丙はAに暴行を加えました(第2暴行)。甲はAに暴行を加えませんでした。
 第1暴行は、戊の髪をつかんで引きずり回しているAから戊を守るために行われたので、暴行罪の構成要件に該当しますが、正当防衛として違法性が阻却されます。その後、Aは戊の髪を放しているので、Aの戊に対する急迫不正の侵害は終了しています。それに気づかないまま、丙は、丁の制止を振り切ってAに第2暴行を加えました。第2暴行は、場所的にも時間的にも第1暴行と近接した関係において行われているので、1個の暴行として扱うことができます。丙の行為は傷害罪の構成要件に該当し、Aの急迫不正の侵害後において継続して行われた量的過剰防衛にあたります。乙は駐車場奥においてAに暴行を加えようとして丁に制止されているので、現場において丙と黙示的に暴行を継続することを共謀したといえるので(現場における黙示的な共謀)、乙は丙と第2暴行を共同して実行したとして、乙にも傷害罪の過剰防衛が成立します。丁は、乙と丙を制止したので、現場における暴行の共謀は認められません。従って、丁には第1暴行を共同して実行しただけであり、それは正当防衛の要件を充たしているので、暴行罪の違法性が阻却されます。
 では、甲はどうなるでしょうか。甲は、乙・丙と現場において暴行を継続して行うことを黙示的に共謀したでしょうか。甲は共謀していません。したがって、甲は、丁と同じように、第1暴行を共同して実行しただけで、しかも正当防衛の要件を満たすので、違法性が阻却されます。
 この問題は、正確に言うと、「共犯関係の解消」や「共犯からの離脱」の問題ではありません。正当防衛でなかったならば、解消や離脱の問題ですが、正当防衛として行われ、急迫不正の侵害が終了した後の量的過剰防衛の事案です。この場合には、不正の侵害が終了した後、行為の継続を共謀をした者だけが過剰防衛になります。




092 共犯と中止犯
 甲は、貧困から愛児を病死させてしまい、さらに多額の借財に窮していた。そのため、甲は友人・乙と共謀して、裕福そうな家から現金を強奪することを計画するに至った。そこで目をつけていたA方に侵入し、A、妻B、子Cが寝ていた部屋において、乙は持参した刺身包丁をAに突きつけて、「あり金を出せ、10万や20万はあるだろう」と言い、甲は、ジャックナイフを手に持って、「大きな声を出すな」と脅迫した。その際、Bから、「自分の家は教員だから金はない」と返答されたのに対し、乙が「10万や20万の金はあるはずだ」と言い返した脅迫したが、Bは「それでは学校の公金が7万円あるから」と言った。これに対し、甲は、「そんな金はいらん」と言い、さらにBがタンスのなかから9千円出してきたのに対しても、「自分はそんな金はいらん。俺も困って入ったのだから、お前の家も金がないのならば、そのような金は盗らん。お前はこの金が盗られたと思って、子どもの着物か何か買ってやれ。俺はお前の家を裕福な家と思ったから入ったのだ」と言って、これを受け取るのを差し控え、乙に「帰ろう」と言って、外へ出た。自分が外に出てから3分くらいして、乙が出てきて2人で帰った。そして、公園のあたりまで来ると、乙が「お前は仏心があるからいかん。9千円は俺がもらってきた。そんなことではたかりはできない」と言った。その後、乙とともに9千円を遊興費に消費した。
 甲と乙の罪責について論じなさい。


 甲・乙は、A方に侵入し、強盗の実行に着手しました。その後、甲が被害者に同情し、金を奪うのを中止しました。乙との共犯関係が解消し、共犯からの離脱が認められれば、住居侵入罪と強盗未遂罪の共同正犯にとどまります。その後、乙が9千円を奪ったのは、乙の単独の行為であり、強盗既遂罪の単独正犯にあたります。
 甲と乙が、強盗罪を共謀し、その実行に着手した後、甲が共犯から離脱するためには、甲が乙に離脱の意思を表明し、その承諾を得るだけでなく(心理的因果性の解消)、乙の犯行の継続を阻止するなどしなければなりません(物理的因果性の解消)。甲は、乙に「帰ろう」と言って外に出ただけで、乙を一緒に連れ出し、その犯行の継続を阻止するなどしていません。したがって、甲には強盗罪の共犯からの離脱を認めることはできません。乙が行った9千円の強取についても共同正犯の責任を負わなければなりません。




093 必要的共犯
(1)甲は、首謀者として大勢を集め、全員が集合して、一地方における公共の平穏を害するに足りる程度の暴行・脅迫を行ったが、そのうちの乙はその集団の動きを指揮し、丙は集団の動きに付和随行することで乙の指揮を助けた。乙が騒乱罪(刑106)にいう指揮者(同②)に、丙に付和随行者(同③)に該当するとして、丙について、乙の集団指揮を助けたことを理由に、その幇助犯(刑62)をさらに成立させてよいか。
(2)甲は、弁護士でない乙に対して、自己の法律事件の示談解決を依頼し、報酬を払った。甲に弁護士法72畳の罪(非弁行為の禁止に違反する罪)の教唆犯は成立するか。
*弁護士法72条によれば、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、一般の法律事件に関して法律事務を取り扱うことを禁止し、これに違反した者は、77条3号で処罰される。
(3)未成年の甲は、タバコを販売している雑貨屋の店主・乙に、タバコを販売するよう何度も執拗に迫ったため、乙は未成年と知りつつ、渋々甲にタバコを販売した。
*未成年者喫煙禁止法5条によると、未成年と知ってタバコを販売した者は、処罰される。


(1)2人以上の者が犯罪を行った場合、その全員に正犯が成立します。これを共同正犯といいます。この場合、1人で行える犯罪を2人以上で行っ共同正犯を「任意的共同正犯(任意的共犯)」といいます。これに対して、2人以上の者が行わなければ成立しない犯罪があります。このような犯罪を「必要的共犯」といいます。それには対向犯と集団犯の2種類があります。
 対向犯には贈賄罪と収賄罪、重婚罪があります。贈賄者は、収賄者にわいろを提供することを申し出て、収受する意思を生じさせていますが、贈賄者には収賄罪の教唆は成立しません。収賄の教唆は、贈賄行為として処罰されます。既婚の男性が、既婚であることを告げて、未婚の女性と結婚した場合、男性には女性の重婚の教唆は成立しません。
 集団犯は、一定規模の人間集団によって行われる犯罪です。それには凶器準備集合罪や騒乱罪などがあります。しかも、騒乱罪は、その実行行為である暴行・脅迫を行うにあたって分担した役割、首謀者、指揮者、付和随行者の役割の重要度にあわせて刑が科されます。指揮者は、首謀者をサポートし、また付和随行者は、指揮者をサポートしたような場合、指揮者には、首謀者の幇助として処罰されませんまた、付和随行者は、指揮者の幇助として処罰されません。ただし、この人間集団の外側から首謀者や指揮者をサポートすれば、騒乱罪の幇助にあたります。
(2)弁護士資格を持たない者が弁護士の業務(法律相談や示談交渉など)を行うと、非弁行為として処罰されます。非弁行為は、かならず相手が必要なので、これは対向犯です。ただし、贈賄罪や収賄罪のような対向犯かどうかというと、そうではありません。弁護士法には、非弁行為を行った者を処罰する規定はありますが、それを依頼した者を処罰する規定(例えば、非弁行為依頼の罪)はないからです。ただし、非弁行為を依頼した人に、非弁行為の教唆が成立する可能性があります。弁護士法が、非弁行為を行った者だけを処罰する趣旨であると解すると、依頼者の行為を非弁行為の教唆として処罰するのは、弁護士法の趣旨に反するといわなければなりません。
(3)未成年者喫煙禁止法は、未成年者の健康を保護するために、タバコを販売する行為を禁止しています。乙に未成年者タバコ販売罪が成立することは明らかです。ただし、この法律には、未成年者がタバコを吸っても、罪にはなりません。未成年者タバコ喫煙罪の規定がないからです。なぜかというと、この場合、未成年者は販売罪の被害者だからです。しかし、タバコを販売するよう迫ったのは甲です。甲には、未成年者タバコ販売罪の教唆が成立する可能性があります。犯罪の被害者がその犯罪の教唆者として処罰されるというのは、この法の趣旨に反するでしょう。ただし、甲が乙を教唆して未成年者・丙にタバコを販売させた場合、教唆犯が成立します。
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