Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

第7回講義「刑法Ⅱ(各論)」(2013.11.12.)

2013-11-09 | 日記
 刑法Ⅱ(各論)第7回(11月12日) 個人的法益に対する罪――財産に対する罪(2)
(4)詐欺罪 (5)恐喝罪
(4)詐欺罪(246)
1基本的性格
 他人を欺いて、財物の交付→財物の取得(1項)と利益の処分→利益の取得(2項)
 第3者に対する交付・処分(AがXを欺いて、その財物・利益を情を知らないBに交付させる)

2客体
財物(有体物+不動産。ただし、窃盗罪・強盗罪の行為客体である「財物」には不動産は入らない)
財産上の利益 例:債権(欺いて債務の履行を一時的に猶予させた場合=利益の処分→取得)
 「リンゴ事件」 民法上の詐欺との区別(「特段の情況」:最判昭30・4・8刑集9巻4号827頁)

3偽罔行為
人を欺く→錯誤に陥れる(実行の着手時期=欺く行為の開始。錯誤に陥らなくても詐欺未遂は成立)
 欺く行為(欺罔)は、財物・利益の交付を誘発する性質を有する行為でなければならない。

不作為による欺(詐欺罪の手段行為である「欺く行為」は作為を想定した規定)
 →作為義務に違反した不作為による偽罔(不真正不作為犯の理論の応用場面)
  例:疾病を告知せずに生命保険を契約し、保険証書を得た。作為義務に反する不作為による偽罔?
 「挙動」による偽罔  支払いの意思があるのようなふり(挙動=作為)をして商品を注文した

4交付行為(1項)・処分行為(2項)
 交付行為・処分行為=交付・処分の事実(客観的要件)+交付・処分の意思(主観的要件)

財物の交付と利益の処分の事実(財物の移転と利益の移転)
 被偽罔者の作為による交付・処分(被偽罔者が、財物・利益を偽罔者に移転させる)
 被偽罔者の不作為による交付・処分(被偽罔者が、財物・利益が偽罔者に移転するのを阻止しない)

交付・処分の意思(被欺罔者による意識的な交付・処分)
 欺偽罔者の意思なし(被欺罔者に占有移転の認識なし)→詐欺未遂(財物の場合、プラス窃盗罪)
 交付・処分が作為の場合――財物・利益の移転は、明示的な意識的に表示される
 交付・処分が不作為の場合――支払いの猶予が暗黙のうちに無意識に表示される場合がある
               無銭飲食・無銭宿泊の事例

5財物・利益の移転
 個別財産に対する罪 財物の交付・利益の処分による移転(物・利益の喪失)→詐欺罪は既遂

 詐取の反対給付として相当な対価が提供された場合(最判昭34・9・28刑集13巻11号2993頁)
  損害不要説 個別の財物の喪失によって成立。財産的損害の発生は要件として必要ない。
  損害必要説 財産的損害の発生が必要(個別の財物の喪失=財産的損害:形式的損害説)
        個別の財物の喪失に加えて、財産上の実質的な損害が必要(実質的損害説)

 偽罔して「闇米の購入資金」を交付させた場合(財物詐欺成立:最決昭33・9・1刑集12巻13号2833頁)
 偽罔して売春させ、その代金を支払わなかった場合(利益詐欺不成立:札幌高判昭27・11・20高刑集5巻1号・2018頁)

6三角詐欺
三角詐欺(欺罔者・被欺罔者・被害者の三角関係。このうち被欺罔者と被害者が同一人物ではない)

 訴訟詐欺(民事)原告(欺罔者)――裁判所(被欺罔者)――被告(財物交付・利益処分=被害者)
  被欺罔者に処分権がある場合には、詐欺罪が成立(最判昭45・3・26刑集24巻3号55頁)

クレジットカードの不正使用 カード会員(欺罔者)―加盟店(被欺罔者)―信販会社(被害者)
 カード会員と加盟店の間の財物詐欺として理論構成(三角詐欺ではなく、二者間の詐欺として扱う)
 (福岡高判昭56・9・21刑月13巻8=9号527頁、東京高判昭59・11・19判タ544号251頁)

 三角詐欺としての理論構成の可能性はあるか? 加盟店=被欺罔者・処分行為者として考えると、
 欺かれた加盟店が処分行為を行なって信販会社に代金相当額を支払わせた財物詐欺
 あるいは、欺かれた加盟店が処分行為を行ない信販会社に代金相当額の債権を認めさせた利益詐欺

 しかし、そもそも加盟店が欺かれたといえるのか? 欺かれたのは信販会社なのではないのか?
 →欺かれた信販会社が加盟店に対して代金相当額の金銭を交付した財物詐欺
  あるいは、欺かれた信販会社が加盟店に債権を認めた利益詐欺

 しかし、カード会員は加盟店・信販会社に対して「欺く行為」を行なっていないのではないのか?
 欺く行為なし→財物・利益詐欺の成立の余地なし

7電子計算機使用詐欺罪(246の2)
 人の事務処理に止揚する電子計算機に、虚偽の情報・不正な指令を与えて、財産権の得喪・変更に係る不実の電磁的記録を作って、または、財産権の得喪・変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上の利益を得、または第三者に得させる。

 作成型(プリペイドカードの残度数・残額の記録の作出)と供用型(そのカード使用による利得)

7準詐欺罪(248)
 未成年者の知慮浅薄または人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付させ、または財産上の利益を得、もしくは他人に得させる行為
 「欺罔行為」なし。ただし、錯誤に陥りやすい被害者の事情の利用行為あり(欺罔行為と同視)。

(5)恐喝罪(249)
1基本的性格 詐欺罪・恐喝罪 財物・利益の移転罪・交付罪

2客体 財物(有体物と不動産:大判明44・12・4刑録17輯2095頁)と財産上の利益

3恐喝 暴行・脅迫により被害者を畏怖させること(最判昭24・2・8刑集3巻2号75頁)

4交付
 瑕疵ある意思(畏怖により意思決定の自由が制約された状態)に基づく財物の交付・利益の処分
 畏怖されているが、被害者は自己の(瑕疵ある)意思に基づいて交付・処分しているので、
 黙示の交付意思は問題にはならない(被害者は交付していることを常に自覚している)

5物・利益の移転
 物・利益の喪失(移転) 個別財産に対する罪

 権利行使(債権)の手段として脅迫が用いられた場合(権利行使と恐喝)
 3万円の債権につき、恐喝により6万円を交付させた(最判昭30・10・14刑集9巻11号2173頁)
 3万円の債権につき、恐喝により6万円相当の壺を交付させた

 1万円札6枚を「債権の3万円分」と「喝取金の3万円分」に分割することが可能であれば、
 正当な債権の範囲内については「恐喝」は不成立(手段行為の暴行・脅迫の成立可能性は残る)。
 しかし、1個6万円の壺を 「債権の3万円分」と「喝取金の3万円分」に分割することは不可能。

 判例は「1万円札6枚」の「分割可能性」を否定する。なぜならば、
 →権利濫用の法理 「債権」にはそれに相応しい法的な実現方法がある。そのような方法ではなく、
 また社会通念上も受忍すべき程度を超えている場合には「権利の行使」とはいえない(分割不可能。

 では、3万円の代金を請求し3万円を交付させ、その後、利息分と称して1万円を喝取した場合
 →合計4万円の分割可能性を問題にする必要なし(すでに分割されている)
  3万円の債権を適法に実現し、その後で1万円の恐喝行為が行われたと認定できる。

6他の犯罪との関係
 恐喝罪が成立すると、手段行為である暴行・脅迫は不成立(罪数上は法条競合の関係にある)
 「俺はヤクザだ」と虚偽を告知し、被害者を畏怖・錯誤させた→恐喝罪と詐欺罪(観念的競合)
 脅迫してワイロを要求し、交付させた場合――恐喝罪と収賄罪(贈賄側の非難可能性が問題になる)

 第7回 練習問題
(1)詐欺罪について
・詐欺罪(恐喝罪)の特質
 窃盗罪と詐欺罪・恐喝罪は、財物の移転を伴い、それを領得する罪という点において共通している。
 しかし、財物を移転する手段・方法が異なる。具体的な例をあげて、それを説明しなさい。

・不作為による偽罔
 Aは、保険会社のXに対して、重病であることを告げずに保険契約を結び、保険証書を交付させた。
 Aの罪責を論じなさい。

・詐欺罪と財産的損害の要否
 Aは、Xに対して、「これはリュウマチに効果があります」と欺いて、5千円の「あんま器」を
 同額の5千円で販売した。Aに財物詐欺罪の成立を認める理論構成と成立しない理論構成の二つを
 説明しなさい。

・不法原因給付と詐欺罪
 AはXに「覚せい剤を買ってきてあげる」と欺いて、Xに購入代金として5万円を支払わせた。
 Aの罪責を論じなさい。

 BはYに売春に応じれば、5万円を支払うと欺いて、Yに売春をさせ、代金を支払わなかった。
 Bの罪責を論じなさい。

・無銭飲食・無銭宿泊
 Aは飲食店に入り、店員Xに対して、定食を注文した。その後、XはAに注文された定食を運び、
 Aはそれを食べた。次の場合について、Aの罪責を論じなさい。
  →最初から代金を支払う意思がなかった場合

  →食後に財布を持っていないことをに気づいて、Xの隙を見て、店外に出て逃走した場合

  →食後に財布を持っていないことをに気づいて、Xに「車に財布を置いてきたので、取りに行く」
   と言って、Xの承諾を得て、店外に出て逃走した場合

・三角詐欺と自己名義のクレジットカードの不正使用
 原告Aは、裁判官Xに対して虚偽の書類を提出して、被告Yに対する債権があることを認めさせた。
 裁判官Xは、被告Yに対して、Aに対して債務を弁済することを求める判決を言い渡した。

 カード会員Aは、預金口座に入金する意思がないにもかかわらず、加盟店Xで腕時計を購入した。
 下級審の裁判例では、どのような論理で詐欺罪の成立を認めているか。また、三角詐欺として理論
 構成する場合、どのような論理が可能かを論じなさい。

(2)恐喝罪について
・恐喝罪の特質
 詐欺罪と恐喝罪の共通性について説明しなさい。
 恐喝罪と強盗罪の違いを論じなさい。

・交付行為の存否
 Aは宝石店の店員Xを脅迫して、ガラスケースの高級腕時計をケースの上に置かせ、
 「これはオレへのプレゼントやな」といい、腕にはめて帰った。Xは恐怖のため、それを黙認した。

 Bは料理店の店員Yを脅迫して、「ごちそうになったわ」といい、代金を支払わずに、店外に出た。
 Yは恐怖のため、それを黙認した。

・権利行使と恐喝罪
 AはXに貸した3万円を脅迫を手段にして、取り立てた。正当な権利の範囲内であれば恐喝罪は
 成立しないという立場から、(1)3万円を取り立てた場合と(2)6万円を取り立てた場合の罪責を論
 じなさい。また、判例の「権利濫用の法理」の立場からもそれぞれの場合の罪責を論じなさい。