goo blog サービス終了のお知らせ 

Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第13回 内乱の罪 2016年12月22日)

2016-12-20 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 国家的法益に対する罪――国家の存立に対する罪・国交に関する罪
 第13週 内乱に関する罪

 国家的法益に対する罪は、刑法典では、各則の最初に配列されています。しかし、講義では最後に回されています。というのは、現行憲法には、個人主義(個人尊重)の理念があり、それに基づくならば、各則の体系の序列の最初に位置づけられるべきは、個人的法益に対する罪であり、国家的法益に対する罪は、最後に位置付けられるべきです。その意味で現行刑法は、「国家主義」の理念に基づいています。

 日本の国家は、日本国憲法の国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という基本原則に基づいて、国民の信託を前提に成り立っています。国家の作用は、この国民の主権、平和、人権の尊重に奉仕するものですが、国家の存立と作用は、個々の個人や社会の法益には還元できない特徴を持っています。そのため、個人や社会を超える保護法益として捉えられます。国家は、個人の生活の安全を保障し、その幸福の追求と増進を図ることを使命とすべき政治的組織体であり、その限りにおいて保護の対象になります。

(1)内乱に関する罪
 内乱の罪は、国家の基本的な政治組織を暴力的に変革するもので、それには死刑を含む厳しい刑が科せられます。しかし、内乱の罪は、「国を憂慮」して行なう「政治犯」ないし「確信犯」の典型であり、破廉恥な性格を持った犯罪ではありませんない。その意味において科される刑罰は禁錮刑という「名誉刑」です。

 内乱の罪に関連した特別刑法としては、戦前は「治安維持法」(1925年)がありましたが、戦後改革のなかで廃止されました。とはいえ、戦後は「破壊活動防止法」(1952年)が制定され、内乱等の罪の教唆・せん動を「暴力主義的破壊活動」として処罰する規定が設けられています。

1内乱罪
 刑法77条① 国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区分に従って処断する。
 一 首謀者は、死刑又は無期禁錮に処する。
 二 謀議に参与し、又は群衆を指揮した者は無期又は3年以上の禁錮に処し、その他諸般の職務に従事した者は1年以上10年以下の禁錮に処する。
 三 付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、3年以下の禁錮に処する。
② 前項の罪の未遂は、罰する。ただし、同項第3号に規定する者については、この限りでない。

ⅰ法益
内乱罪の行為は、暴動です。その目的は、国家の統治機構を破壊すること、国権を排除して権力を行使すること、憲法の定める当地の基本秩序を壊乱することです。したがって、保護法益は、日本国憲法に定められた国家の統治機構の存立または統治権であると解されています(朝鮮高等法院決大9・3・22新聞1687・13)。

ⅱ行為
 本罪の行為は、「暴動」です。それは、多数人の結合によって集団的に行われた「暴動」=暴行・脅迫であり、人だけでなく物に対する場合も含まれます(最広義の暴行)。

 騒乱罪の暴行・脅迫は、「一地方の平穏を害する程度の暴行・脅迫」ですが、内乱罪の暴動は、それでは足りず、国家の統治機構を揺るがすような客観的な性質を持ったものでなければなりません。暴行・脅迫を行えば内乱罪としては成立するので、実際に国家の統治機構が揺るがされたことを要しません(抽象的危険犯)。暴動の一環として行なわれた殺人や放火などの行為は、暴動に吸収されます、内乱罪のみの成立になります(大判昭10・10・24刑集14・1267)。

ⅲ集団犯
 内乱罪は、多数人による関与を予定した犯罪です(必要的共犯・集団犯)です。関与者は、その役割に応じて、首謀者(1項)、謀議参与者、群衆指揮者、諸般の職務従事者(2項)、付和随行者および単なる暴動参加者(3項)に分けられ、個別の刑が科されます。

 首謀者とは、集団において内乱を計画し、暴動を統率する者です。死刑または無期禁錮が科されます。

 謀議参与者とは、内乱の計画・謀議に関与して首謀者を補佐する者です。無期または3年以上の禁錮が科されます。

 群衆指揮者とは、暴動の現場においてあるいは現場に臨むにあたり群衆を指揮する者です。無期または3年以上の禁錮が科されます。

 諸般の職務従事者とは、内乱の実行に関して、例えば食糧や弾薬を調達するなど謀議参与・群衆指揮以外の重要な職務に従事する者です。1年以上10何以下の禁錮が科されます。

 そして、付和随行者および単なる暴動参加者とは、暴動が行われるのを知って集団に参加し、群衆指揮者に従って行動し、暴動の勢力を助ける者です。3年以下の禁錮が科されます。

ⅳ故意と目的
 本罪は故意犯です。内乱罪の故意が認められるためには、暴動の認識が必要です。さらに国家の統治機構を破壊するなどの目的を要します(目的犯)。この目的に基づいて暴動が行なわれたときに、内乱罪の構成要件該当性が認められます(大判昭10・10・24刑集14・1267)。

ⅴ未遂・共犯
 本罪は、首謀者、謀議参与者、群衆指揮者について未遂が処罰されます(付和随行者と単なる暴動参加者は除外)。その実行に着手したといえるためには、暴行・脅迫の開始が必要です。集団としての行動(例えば「デモ行進」)が開始されただけでは、暴動ではないので、着手を認めることはできません。また、暴動が行なわれても、国家の統治機構に動揺を与える集団暴動(暴行・脅迫)にいたる危険性が必要でしょう。

 内乱の関与者には、その役割に応じて個別の刑が科されるので、集団内部の関与者には刑法総則の共犯規定は適用されません。従って、首謀者を補佐した謀議参与者には、(集団犯としての)内乱罪とは別に、「首謀者の内乱罪に対する幇助罪」は成立しません。

 議論になるのは、集団の外部にいる者Aが、他人Bを唆して内乱を実行させた場合、内乱罪の教唆(刑61)にあたるのかという問題です。集団犯に対する共犯の成立を一般的に肯定する学説もありますが、多数説は否定しています。というのも、内乱罪が、首謀者などの様々な関与の態様によって法定刑を区分するこおを規定しているということは、その規定に含まれない行為態様(一般的な教唆・幇助)は除外されることを意味していると考えられるからです。

 ただし、破防法が定める要件を満たしている場合には、集団の外部にいるもの者にも例外的に教唆などが成立します。破防法38条1項は、内乱罪などを教唆・せん動した者を「内乱罪等の教唆・せん動」として処罰する規定を設けています。破防法41条は、教唆された者が内乱罪などを行なった場合、教唆者に刑法61条を適用して、「その刑を比較し、重い刑をもつて処断する」としています(破防法38条1項の法定刑と刑法77条の内乱罪の法定刑の長期・短期を比較し、それぞれについて重い刑を処断刑として採用するということです)。このように破防法では、被教唆者が内乱罪などを行なった場合、教唆者には破防法41条が適用されますが、被教唆者が内乱を行わなかった場合、教唆者はどのように扱われるのでしょうか。正犯の実行がないため、刑法61条の教唆は適用できませんが、「内乱罪等の教唆・せん動罪」として処罰される可能性があります。つまり、破防法38条の罪は、内乱罪の正犯から独立した1個の犯罪(正犯)であると解されます(これを独立教唆犯といいます)。

2内乱予備及び陰謀罪
 刑法78条 内乱の予備又は陰謀をした者は、1年以上10年以下の禁錮に処する。

ⅰ行為
 内乱の予備とは、内乱の実行を目的とした準備行為です。武器・弾薬、食糧の調達、参加者の勧誘などの具体的な行為がそれにあたります。

 内乱の陰謀とは、二人以上の者が内乱の実行を計画し、それに合意することをいいます(共謀)。

ⅱ共犯
 内乱の予備または陰謀を行うよう教唆した場合、内乱予備または内乱陰謀の教唆にあたるでしょうか。

 教唆は、人を教唆して、犯罪の構成要件該当行為を実行させることです。この「犯罪」とは、どのような意味でしょうか。それを刑法43条における「犯罪」と同じと解するならば、実行の着手以前の予備や陰謀は「犯罪」ではないので、それを教唆して行なわせても、「犯罪」の教唆にはあたりません。また、内乱罪のような集団犯は、集団の内部の役割に応じた刑が定められているので、それにあたらない教唆・幇助は、そこから除外されていると解することもできます(したがって、刑法総則の共犯規定は適用されません)。このように解するならば、集団の外部から他人を教唆して、内乱罪を行わせても、内乱罪の教唆は成立しません。また、教唆して内乱の予備・陰謀を行なわせても、内乱の予備・陰謀の教唆は成立しません。

 これに対して、「犯罪」は刑法43条の「犯罪」に限らず、刑罰を科されるすべての行為と解すると、内乱の予備・陰謀も刑罰が科される行為である以上、「犯罪」であり、それに対する教唆はありえます。

 ここで注意してほしいのは、破防法38条2項1号が、内乱予備罪・内乱陰謀罪の教唆の処罰規定を設けていることです。この規定によれば、被教唆者が内乱の予備・陰謀を実行した場合、教唆者には刑法61条が適用され、その刑を比較して重い刑で処断されます。被教唆者が内乱の予備・陰謀を実行しなかった場合、教唆者には独立教唆犯としての内乱予備罪・内乱陰謀罪の教が成立します。

3内乱等幇助罪
 刑法79条 兵器、資金若しくは食糧を供給し、又はその他の行為により、前2条の罪を幇助した者は、7年以下の禁錮に処する。

ⅰ行為
 本罪は、内乱(77条)および内乱予備・内乱陰謀(78条)を幇助する行為です。

 幇助の行為は、一般的に内乱罪などを物理的・心理的に手助けするというのではなく、「兵器、資金若しくは食糧の供給」などに限られています。ただし、「その他の行為」という一般条項は、無限定であるため、兵器・資金・食糧の供給に準じて限定を加える必要があります。それは、内乱の陰謀を行うための場所の提供のようなものに限られるべきでしょう。

 破防法には、内乱予備・陰謀の幇助を独立して処罰する規定はありません。したがって、内乱予備・陰謀の幇助の成立は、内乱予備・陰謀の実行に従属すると解されます。

ⅱ共犯
 内乱の幇助、内乱予備・陰謀の幇助を教唆した者は、破防法38条2項1項により処罰されます。独立教唆犯の規定であるため、正犯への従属性は要件として不要です。

自首による刑の免除
 刑法80条 前2条の罪を犯した者であっても、暴動に至る前に自首したときは、その刑を免除する。

 内乱予備・陰謀(78条)および内乱の幇助、内乱予備・陰謀の幇助(79条)を行った者が、集団が暴動の実行に着手する前に自首した場合には、「その刑を免除する」(必要的免除)とされています。実行の着手後、捜査機関に発覚する前に自首した場合は、一般の自首規定(42条1項)が適用され、「その刑を減軽することができる」(任意的減軽)とされています。