刑法Ⅱ(各論) 国家的法益に対する罪――国家の存立に対する罪・国交に関する罪
第13週 外患に関する罪
(1)外患誘致罪
内乱に関する罪が、内部から国家の存立を脅かす行為であるとするなら、外患に関する罪は、外部から国家の存立を脅かす犯罪であるといえます。それは、外患誘致罪、外患援助罪とそれらの予備・陰謀罪からなります。
これらの犯罪は、外国勢力と結託して国家の転覆をはかる行為であることから、「祖国に対する裏切り」や「売国」と非難される行為です。したがって、「破廉恥」な犯罪であるので、内乱罪のように禁錮刑(名誉刑)ではなく、懲役刑が科されます。ただし、本罪は外国人を含めて国外犯に対しても適用されます(2条3項)。
1外患誘致罪
刑法81条 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。
ⅰ行為
外患誘致罪の行為は、外国と通謀して、その国に日本に対して武力を行使させる行為です。
「外国」とは、日本以外の国をいい、政府ないし軍隊・外交使節などの国家の代表機関を指します。未承認ないし国交未回復の国も含まれます。したがって、国家・政府の形態をとっていない組織、特定の国家への帰属が不明確な組織は、私的な団体・集団であり、「外国」ではありません。
「通謀」とは、直接・間接を問わず、外国と意思疎通を行うことです。
「日本国に対して武力の行使をさせた」とは、日本の領土に対して、外国に陸海空の軍事力を行使させることです。国際法上の戦争状態に入ることを要しません。
このような行為は、一定規模の集団で行なわれることが予想されますが、内乱とは異なり、集団犯ではありません。
ⅱ法定刑・罪数
外患誘致罪は、法定刑として死刑のみを規定している唯一の例です。Aが自国のX国において内乱を行なうために、その準備としてY国と通謀して、Y国にX国へ武力行使させた場合、内乱予備は外患誘致に吸収されます。
ⅲ共犯
外患誘致罪は集団犯ではないので、Aが教唆し、Bに外患誘致を実行させた場合、Aには外患誘致罪の教唆が成立します(一般法)。教唆された者が外患誘致罪を実行した場合、破防法41条によれば、刑法61条が適用され、教唆した者は破防法38条1項の罪と外患誘致罪の教唆が成立し、その刑を比較して重い刑をもって処断されます(特別法)。
教唆された者が実行しなかった場合、破防法38条1項の罪が成立し(独立教唆犯)、7年以下の懲役または禁錮に処せられます。
2外患援助罪
刑法82条 日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは2年以上の懲役に処する。
ⅰ行為
本罪の行為は、外国から武力行使が行われているときに、外国に加担して軍務に服するなど軍事上の利益を与える行為である。外患誘致罪と同様に集団犯ではありません。
「加担」とは、武力行使している外国に積極的に協力することをいいます。「その軍務に服し」とは、外国の軍隊に参加することをいいます。「その他これに軍事上の利益を与え」るとは、武器、弾薬、食糧、輸送手段の供与、外国への軍事情報の提供などの行為をいいます。
「日本国に対して外国から武力の行使があったとき」とは、本罪が成立するための行為状況であると解されています。しかし、加担などの行為の客体である外国を限定する要件として解することも可能です。そのように解すると、行為客体は「日本国に対して外国から武力を行使している外国」となります。
ⅱ責任阻却
外国からの武力行使が行われているときに、外国にいる者または被占領下の日本にいる者が、外国に対して不本意に協力し、軍務に服するなどの行為を行なった場合、適法行為の期待可能性の減少が認められれば、責任が阻却されます(改正刑法草案123条2項参照)。
ⅲ共犯(外患誘致罪の箇所の説明と同じ)
外患援助罪も集団犯ではないので、教唆してそれを実行させた場合、外患援助罪の教唆が成立します。教唆された者が外患援助罪を実行した場合、刑法61条が適用され、教唆者は破防法38条1項の罪と外患援助罪の教唆が成立し、その刑を比較して重い刑をもって処断されます(破防法41条)。教唆された者が実行しなかった場合、破防法38条1項の罪が成立し(独立教唆犯)、7年以下の懲役または禁錮に処せられます。
ⅳ罪数
外国からの武力行使に加担して内乱を起こした場合、外患援助罪と内乱罪とは「法条競合」になり、刑の重きに従って処断されます。
3通謀利敵罪
第83条から第86条まで 削除(昭和22法124号による)
4外患誘致・外患援助の未遂
刑法87条 第81条及び第82条の罪の未遂は、罰する。
外患誘致罪の未遂は、武力行使につき外国と通謀したが、合意できなかったり、合意したが武力行使に至らなかった場合です。外患援助罪の未遂は、外国からの武力行使が行われているときに、外国に加担して軍事上の利益を与えるに至らなかった場合です。
5外患誘致・外患援助の予備・陰謀罪
刑法88条 第81条又は第82条の罪の予備又は陰謀をした者は、1年以上10年以下の懲役に処する。
ⅰ行為
外患誘致・外患援助の予備・陰謀罪とは、外国からの武力行使を誘致するために、外国と通謀することに先立って行われる準備行為および二人以上の者による意思の合意です。
外患援助の予備・陰謀は、通説によれば、日本に対して外国から武力行使が行われることを事前に察知し、これに加担するために行われる準備行為または意思の合意であり、それは日本に対する武力行使が行われる以前に成立する犯罪であると解されています。
しかし、外患援助罪に関しては、その行為客体を「日本国に対して外国から武力を行使している外国」と解するならば、外患援助の予備・陰謀については、前提条件として、日本に対して外国から武力行使が行われていることが必要です。そのように解するならば、武力行使以前の段階で予備・陰謀にあたる行為をしても本罪にはあたらないと解することもできます。
ⅱ共犯
外患誘致および外患援助の予備・陰謀を教唆した者は、5年以下の懲役・禁錮に処せられます(破防法38条2項1号)。教唆された者が外患誘致・外患援助の予備・陰謀を行った場合、刑法61条の規定が適用され、破防法38条2項1号の罪と外患誘致・外患援助の予備・陰謀の教唆罪が成立し、それぞれの法定刑の長期・短期について重い刑により処断されます。教唆された者が外患誘致・外患援助の予備・陰謀を行わなかった場合、破防法38条2項1項の罪が成立します(独立教唆犯)。
6戦時同盟国に対する行為
第89条 削除(昭和22法124号による)
第13週 外患に関する罪
(1)外患誘致罪
内乱に関する罪が、内部から国家の存立を脅かす行為であるとするなら、外患に関する罪は、外部から国家の存立を脅かす犯罪であるといえます。それは、外患誘致罪、外患援助罪とそれらの予備・陰謀罪からなります。
これらの犯罪は、外国勢力と結託して国家の転覆をはかる行為であることから、「祖国に対する裏切り」や「売国」と非難される行為です。したがって、「破廉恥」な犯罪であるので、内乱罪のように禁錮刑(名誉刑)ではなく、懲役刑が科されます。ただし、本罪は外国人を含めて国外犯に対しても適用されます(2条3項)。
1外患誘致罪
刑法81条 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。
ⅰ行為
外患誘致罪の行為は、外国と通謀して、その国に日本に対して武力を行使させる行為です。
「外国」とは、日本以外の国をいい、政府ないし軍隊・外交使節などの国家の代表機関を指します。未承認ないし国交未回復の国も含まれます。したがって、国家・政府の形態をとっていない組織、特定の国家への帰属が不明確な組織は、私的な団体・集団であり、「外国」ではありません。
「通謀」とは、直接・間接を問わず、外国と意思疎通を行うことです。
「日本国に対して武力の行使をさせた」とは、日本の領土に対して、外国に陸海空の軍事力を行使させることです。国際法上の戦争状態に入ることを要しません。
このような行為は、一定規模の集団で行なわれることが予想されますが、内乱とは異なり、集団犯ではありません。
ⅱ法定刑・罪数
外患誘致罪は、法定刑として死刑のみを規定している唯一の例です。Aが自国のX国において内乱を行なうために、その準備としてY国と通謀して、Y国にX国へ武力行使させた場合、内乱予備は外患誘致に吸収されます。
ⅲ共犯
外患誘致罪は集団犯ではないので、Aが教唆し、Bに外患誘致を実行させた場合、Aには外患誘致罪の教唆が成立します(一般法)。教唆された者が外患誘致罪を実行した場合、破防法41条によれば、刑法61条が適用され、教唆した者は破防法38条1項の罪と外患誘致罪の教唆が成立し、その刑を比較して重い刑をもって処断されます(特別法)。
教唆された者が実行しなかった場合、破防法38条1項の罪が成立し(独立教唆犯)、7年以下の懲役または禁錮に処せられます。
2外患援助罪
刑法82条 日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは2年以上の懲役に処する。
ⅰ行為
本罪の行為は、外国から武力行使が行われているときに、外国に加担して軍務に服するなど軍事上の利益を与える行為である。外患誘致罪と同様に集団犯ではありません。
「加担」とは、武力行使している外国に積極的に協力することをいいます。「その軍務に服し」とは、外国の軍隊に参加することをいいます。「その他これに軍事上の利益を与え」るとは、武器、弾薬、食糧、輸送手段の供与、外国への軍事情報の提供などの行為をいいます。
「日本国に対して外国から武力の行使があったとき」とは、本罪が成立するための行為状況であると解されています。しかし、加担などの行為の客体である外国を限定する要件として解することも可能です。そのように解すると、行為客体は「日本国に対して外国から武力を行使している外国」となります。
ⅱ責任阻却
外国からの武力行使が行われているときに、外国にいる者または被占領下の日本にいる者が、外国に対して不本意に協力し、軍務に服するなどの行為を行なった場合、適法行為の期待可能性の減少が認められれば、責任が阻却されます(改正刑法草案123条2項参照)。
ⅲ共犯(外患誘致罪の箇所の説明と同じ)
外患援助罪も集団犯ではないので、教唆してそれを実行させた場合、外患援助罪の教唆が成立します。教唆された者が外患援助罪を実行した場合、刑法61条が適用され、教唆者は破防法38条1項の罪と外患援助罪の教唆が成立し、その刑を比較して重い刑をもって処断されます(破防法41条)。教唆された者が実行しなかった場合、破防法38条1項の罪が成立し(独立教唆犯)、7年以下の懲役または禁錮に処せられます。
ⅳ罪数
外国からの武力行使に加担して内乱を起こした場合、外患援助罪と内乱罪とは「法条競合」になり、刑の重きに従って処断されます。
3通謀利敵罪
第83条から第86条まで 削除(昭和22法124号による)
4外患誘致・外患援助の未遂
刑法87条 第81条及び第82条の罪の未遂は、罰する。
外患誘致罪の未遂は、武力行使につき外国と通謀したが、合意できなかったり、合意したが武力行使に至らなかった場合です。外患援助罪の未遂は、外国からの武力行使が行われているときに、外国に加担して軍事上の利益を与えるに至らなかった場合です。
5外患誘致・外患援助の予備・陰謀罪
刑法88条 第81条又は第82条の罪の予備又は陰謀をした者は、1年以上10年以下の懲役に処する。
ⅰ行為
外患誘致・外患援助の予備・陰謀罪とは、外国からの武力行使を誘致するために、外国と通謀することに先立って行われる準備行為および二人以上の者による意思の合意です。
外患援助の予備・陰謀は、通説によれば、日本に対して外国から武力行使が行われることを事前に察知し、これに加担するために行われる準備行為または意思の合意であり、それは日本に対する武力行使が行われる以前に成立する犯罪であると解されています。
しかし、外患援助罪に関しては、その行為客体を「日本国に対して外国から武力を行使している外国」と解するならば、外患援助の予備・陰謀については、前提条件として、日本に対して外国から武力行使が行われていることが必要です。そのように解するならば、武力行使以前の段階で予備・陰謀にあたる行為をしても本罪にはあたらないと解することもできます。
ⅱ共犯
外患誘致および外患援助の予備・陰謀を教唆した者は、5年以下の懲役・禁錮に処せられます(破防法38条2項1号)。教唆された者が外患誘致・外患援助の予備・陰謀を行った場合、刑法61条の規定が適用され、破防法38条2項1号の罪と外患誘致・外患援助の予備・陰謀の教唆罪が成立し、それぞれの法定刑の長期・短期について重い刑により処断されます。教唆された者が外患誘致・外患援助の予備・陰謀を行わなかった場合、破防法38条2項1項の罪が成立します(独立教唆犯)。
6戦時同盟国に対する行為
第89条 削除(昭和22法124号による)