Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

2017年度刑法Ⅱ(第07回)練習問題

2017-11-06 | 日記
 刑法Ⅱ(第07回)練習問題

 第33問A クレジットカード詐欺
 暴力団幹部である甲は、自分の愛人と関係をもった会社員乙の住宅に赴き、宅配便を装って玄関に足を踏み入れた。

 そこで、甲は自分の身分を明かし、「俺の女に手を出しただろう。金を払え。もし警察に連絡したら、お前の家族がどうなるかわかってるんだろうな。」と告げ、慰謝料を要求した。乙は恐怖心にかられ、持っていた財布を差し出したところ、甲はこれを受け取った。

 また、甲は1ヵ月に30万円ずつ自己の口座に振り込むよう要求したため、乙は毎月、甲の要求どおりの金銭を振り込んでいた。

 半年後、乙は金銭を支払う余裕がなくなったため、代金支払の意思がないことを秘して自己名義のA信販会社のクレジットカードを使用し、B時計店で100万円相当の時計を買った。

 そして、乙は上記の事情を秘してその時計をC質屋で50万円に換金し、そのなかから、いつものように甲の口座に30万円を振り込んだ。なお、時計の購入代金相当額は、後日、A信販会社からB時計店い支払われた。

 甲および乙の罪責を論ぜよ。

 争点
(1)甲が宅配業者を装って乙の家の玄関に入った行為

(2)甲が暴力団員であることを告げて、慰謝料を要求し、乙に財布を差し出させた行為
   甲が乙に毎月30万円を自己の口座に振り込ませた行為

(3)乙が代金支払の意思のないことを秘して自己名義のカードでB時計店で100万円の時計を購入した行為(判例番号054)

(4)乙がその事実を秘してC質屋で時計を換金して50万円得た行為(判例番号048)

(1)甲が宅配業者を装って乙の家の玄関に入った行為
1甲の行為は住居侵入罪にあたるか?

2住居侵入罪とは、正当な理由なく人の住居に立ち入る行為である。居住者の許可を得て立ち入れば侵入にあたらないが、立ち入りの真の目的を秘して、居住者を欺いて立ち入りを許可させて入った場合、住居の侵入にあたる。

3甲は宅配業者を装って乙の玄関に立ち入った。乙は、甲が宅配業者だと錯誤して、玄関への立ち入りの許可を与えた。

4このように甲の行為は乙を欺いて玄関に入ったので、乙の立ち入りの許諾に基づいいていない。それは正当な理由のない立ち入りであると言うことができる。

5従って、甲には住居侵入罪(刑法130条前段)が成立する。

(2)甲が暴力団員であることを告げて、慰謝料を要求し、乙に財布を差し出させた行為
   甲が乙に毎月30万円を自己の口座に振り込ませた行為
1甲が暴力団員であることを告げて、乙に財布を交付させ、また毎月30万円を口座に振り込ませた行為は恐喝罪にあたるか。

2恐喝罪とは、人を脅迫して、財物を交付または利益を処分させる行為である。脅迫が人の反抗を困難にする程度に達していれば強盗が成立するので、本罪の脅迫はその程度を下回る程度で足りる。

3甲は乙に対して自分が暴力団員であることを伝え、警察に連絡したら、家族の身に危険が及ぶ可能性がある趣旨の発言をして、乙に恐怖心を抱かして、財布を交付し、また毎月30万円の金銭を甲の口座に振り込ませた。

4乙は、警察に通報した場合に暴力団員の甲から家族に危害が及ぶという甲の発言によって恐怖心を抱いた。乙は警察に通報するか否かを自己の意思で判断し、通報しないという選択をしている。つまり、乙は甲に対する反抗を困難にさせられて、警察への通報ができなかったのではない。このような脅迫は、恐喝罪の手段行為にとどまると判断すべきである。

→乙は、甲の言動によって恐怖心を抱いている。この恐怖心によって、反抗を抑圧されて、財布の交付、毎月30万円の振り込みをしていたならば、成立する犯罪は強盗罪である。しかし、恐怖心ゆえに、警察へ通報しない意思を決定したというのであれば、成立するのは恐喝罪である。答案の作成においては、この区別を明確に示すことが必要である。

5従って、甲は乙の財布を交付させた行為と毎月30万円を口座に振り込ませた行為の両方について財物恐喝罪(刑法249条1項)が成立する。
 これらは2罪であるが、包括して一罪の恐喝罪が成立する。

(3)乙が代金支払の意思のないことを秘して自己名義のカードでB時計店で100万円の時計を購入した行為
1乙が支払いの意思がないことを秘して、B時計店で100万円の時計を購入した行為は詐欺罪にあたるか。

2詐欺罪とは、人を欺いて財物を交付させる行為である。欺く行為は、虚偽の事実を真実であると告知して錯誤に陥れる作為による場合のほか、告知すべき事項を告知せずに、人を錯誤に陥れる不作為による場合もありうる。

3乙は支払の意思のないことを秘して、自己名義のクレジットカードを利用してB時計店で100万円の時計を購入した。

4乙はB時計店で100万円の時計を購入する際に自己名義のクレジットカードを提示したので、この購入は通常の購入方法に基づいているように見える。しかし、その場合、支払う意思があることが前提であり、支払の意思がないことが明らかであれば、B時計店は取引を拒否したであろうと合理的に推測できる。従って、乙が支払いの意思を秘して、B時計店に支払の意思があると錯誤に陥れて、時計を引き渡させたといえる。

→自己名義のクレジットカードを提示する行為は、名義人がカード会社に代金相当額を支払う(口座から引き落とさせる)意思があることを含んでいる。そのことは加盟店にとっても前提であり、加盟店の重要な関心事である。カードの利用者がその意思がないにもかかわらず、あるかのように装う行為は、加盟店を欺く行為であるといえる。
 他人名義のクレジットカードであれば、カード名義人でない者がカード名義人であるかのように装っているので、それが欺く行為にあたることは明らかである。

5従って、乙には詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。

(4)乙がその事実を秘してC質屋で時計を換金して50万円得た行為
1乙はB時計店から詐欺によって得た時計を持ち込み、換金して50万円を得た行為が詐欺罪にあたるか。

2詐欺罪とは(同上)。

3乙は、支払の意思のないこを秘してB時計店に100万円の時計を交付させた事実を隠して、C質屋にそれを持ちこみ、換金して50万円を得た。

4乙はC質屋に100万円の時計を持ち込み、換金して50万円を交付させた。C質屋は、50万円の現金に相当する対価として100万円の時計を得ているので、実質的に見て財産的な損害は発生しておらず、詐欺罪は成立しないように思われる。しかし、詐欺罪は個別財産に対する罪であり、被害者を欺いて、50万円の現金を交付させている以上、相当な対価を得ていることは、詐欺罪の成立には影響しないと考えられる。

→詐欺罪は、窃盗罪や強盗罪などと同様に、「個別財産に対する罪」として分類され、背任罪のような財産的損害の発生を要件とする「全体財産に対する罪」から区別される。欺かれた被害者が、錯誤によって行為客体である財物の交付を行っていれば、詐欺罪は成立し、財産的な損害の発生は要件ではない。

5以上から、乙には詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。

(5)結論
 甲には、住居侵入罪と恐喝罪が成立する。両罪は牽連犯の関係にある。
 乙には、B時計店に対する詐欺罪、C質屋に対する詐欺罪が成立する。それぞれ行為客体が異なるので、両罪は併合罪の関係にある。

 応用問題

(2)甲は、「お前の家族にこのことを話すぞ」と脅して、慰謝料を要求した。すると、乙は甲に現金の入った財布を差し出した。(甲は暴力団員ではない。それ以外は練習問題と同じ)。

Q.1 そこで、乙は愛人に対して30万円を貸していることを甲に告げ、「すぐに返してほしい」と迫った。甲は、愛人に連絡する意思がないにもかかわらず、それがあるかのように装って、「分かった。きっちり伝えておく。安心しろ」と告げた。乙は安心して、それ以上返済のことは言わなかった。(判例番号056)

















Q.2 そこで、乙は愛人に対して30万円を貸していることを甲に告げ、「すぐに返してほしい」と迫った。甲は、乙に対して「不倫のことは家族には話さない。だから借金はなかったことにしてほしい」と言った。乙は、「はい。返済を求めるようなことはしません」と述べた。

















Q.3 そこで、乙は愛人に対して30万円を貸していることを甲に告げ、「すぐに返してほしい」と迫った。甲は、乙に対して「不倫のことは家族には話さない。だから借金はなかったことにしてほしい」と言った。乙は、唇をかみしめながら、黙ったままであった(判例番号061)。















Q.4 さらに、甲は愛人が乙に30万円を貸していることを思い出し、「すぐに返してやれ」と言った。乙は、返済する意思がないにもかかわらず、「分かりました。きっちりとお返しします。安心してください。私はウソつきではありません」と告げた。甲は安心して、それ以上返済のことは言わなかった。(判例番号056)

















Q.5 さらに、甲は愛人が乙に30万円を貸していることを思い出し、「すぐに返してやれ」と言った。甲は、乙に30万円に10万円上乗せさせて、合計40万円を支払わせた(判例番号060)。

















(3)乙は、愛人から預かっていた愛人名義のクレジットカードを利用して、B時計店で100万円の時計を購入した。