Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

2017年度刑法Ⅱ(第09回)練習問題

2017-11-20 | 日記
 刑法Ⅱ(第09回)練習問題

 第36問A 背任罪
 A信用金庫は、B会社と当座貸越契約を締結し多額の融資をしていたが、Bは経営状態が悪化し、倒産の危機に陥った。Aは多額の融資を行っていたため、Bが倒産すれば、Aの経営に重大な影響が及ぶものであった。また、Aの理事長甲については、その経営責任を問われるおそれも生じた。

 そのため、甲は、Bが実際には手形の決済能力がなかったにもかかわらず、一時的にBの当座貸越残高を減少させ、Bに債務の弁済能力がある外観を仮装し、Aに取引を継続させるとともに、さらにBへの融資を行わせようと計画した。

 そこで、甲は、Bの代表取締役乙と共謀して、Bが降り出した約束手形10通につきAに手形保証債務を負担させた。そして、このうち8通については、Bが第三者に振り出し、それによって得られた金銭にBの資金を加えることにより、8通分の手形金額に見合うだけの金銭が、当座借越債務の弁済に充当され、一時的に当座貸越残高を減少させた。その結果、Aからの融資が継続された。

 さらに、乙はBの経営状態を回復させようとして、自己の権限内において多額の投機取引を行ったが、失敗し、Bに損害を加えた。そこで、経営危機に絶望感を抱いた乙は、会社再建の資金にあてることもあるだろうと思いつつも、とりあえず自己の逃走資金とするために、会社の金を自宅の屋根裏に隠した。
 甲および乙の罪責を論ぜよ。

 論点
(1)A金庫の甲が、B会社の乙と共謀し、決済能力のないB会社が振り出した約束手形10通につき、A金庫に手形保証債務を負担させた。

(2)B会社の乙が、Bの経営状態を回復させるために、自己の権限内において投機取引を行い、失敗し、Bに損害を与えた。

(3)乙が逃走資金とするために、会社の金を自宅の屋根裏に隠した。

 解答例
(1)A金庫の甲が、B会社の乙と共謀し、決済能力のないB会社が振り出した約束手形10通につき、Aに手形保証債務を負担させた。
1甲の行為につき、背任罪が成立するか。

2 背任罪とは、他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図るために、または本人に損害を加えるために、その任務に背く行為を行って、本人に財産上の損害を発生させる行為である。

3甲は、決済能力のなB会社が振り出した約束手形10通につき、A金庫に手形保証債務を負担させた。

4甲は、A金庫の理事長であり、A金庫のためにその事務を処理する者である(行為主体)。
 B会社が振り出した約束手形につき、A金庫に手形債務保を負担させるは、甲がA金庫の理事長として行う事務処理であるが、B会社に決済能力がないことを知りながら、それを行うのは任務違背行為にあたる(実行行為)。
 また、甲はB会社の倒産によって惹き起こされるA金庫の影響を回避する意図があったが、経営責任を問われるのを避けるために行っているので、自己の利益を図る目的があった(図利目的)。
 さらに、Bが振り出した約束手形10通につき手形債務保証をしたことについては、相当の担保や回収の見込みがなければ、その経済的な評価としては、保証した時点において財産上の損害がA金庫に発生していると評価することができる(財産上の損害)。

5従って、甲には背任罪(刑法247条)が成立する。
 B会社の乙は、A金庫の甲と共謀したので、背任罪の共同正犯にあたる。背任罪は「他人のためにその事務を処理する者」が行う真正身分犯(構成的身分犯)であり、それに非身分者が関与した場合、刑法65条1項が適用され、背任罪の共同正犯が成立する。
 乙は甲に対してA金庫からの融資の継続を願い出ただけでなく、甲と共同してA金庫から融資を受けれるようにするため計画段階から関与し、自らも利益を得ているので、その行為は甲の背任罪に重要な影響と寄与をなしているものと評価できる。それゆえ、乙には背任罪の共同正犯が成立する(刑法65条1項、60条、247条)。

(2)B会社の乙が、Bの経営状態を回復させるために、自己の権限内において投機取引を行い、失敗し、Bに損害を与えた。た。
1乙の行為は背任罪にあたるか。

2背任罪の説明(上記)

3乙は、B会社の経営状態を回復させようとして、自己の権限の範囲内において投機取引を行い、失敗し、B会社に損害を発生委させた。

4乙はB会社に財産上の損害を与えたが、それが背任罪にあたるためには、任務違背行為と本人加害目的が必要である。乙が投機取引を行ったのは、B会社の経営状態を回復させるためであり、本人加害目的によるものと言うことはできない。また、任務違背行為についても、乙の登記取引はその権限の範囲内において行われたものなので、それを認めることはできない。
5従って、乙には背任罪(刑247条)は成立しない。

(3)乙が逃走資金とするために、会社の金を自宅の屋根裏に隠した。
1乙に業務上横領罪が成立するか。

2業務上横領罪とは、業務として他人の物を占有する者が、それを領得することによって成立する。

3乙は、逃走資金とするために、会社の金を自宅の屋根裏に隠した。

4乙はA金庫の理事長として、Aの金銭の管理を全般的に任されている。業務としてAの金銭を占有する者であり、その金銭を自宅の屋根裏部屋に隠したが、A金庫の金銭は本来はA金庫の口座などに管理すべきものであり、それを自宅に持ち帰って隠したのであるから、横領にあたる。また、それを逃走資金とする目的で行っているので、権利者であるA金庫を排除し、その経済的用法に従って使用する目的があったことも明らかで、不法領得の意思を認めることができる。

5従って、乙に業務上横領罪(刑法253条)の成立を認めることができる。

(4)甲には背任罪が成立する。乙には背任罪の共同正犯と業務上横領罪が成立し、両罪は併合罪(刑法45条)である。


 第37問A 盗品等に関する罪
 手形ブローカー甲は、知り合いのA土木建築会社の経理部長乙から、乙の抱える借金について相談を持ち掛けられた。甲は、小遣いを稼げそうないい機会だと思い、乙に、「お前の会社の手形を持ち出して金に換えてみてはどうか。」と申し向けた。乙は、最初は渋っていたが、甲の説得に聞き入っているうちに、それしか借金苦から逃れる方法はないと決意した。そこで、乙は、深夜残業が終わったあと、自分の管理するロッカーから約束手形100通を持ち出した。

 乙は、換金はその道のプロに頼むのがよいと思い、帰宅途中に甲を呼び出し、上記手形を甲に預けた。甲は、A社の子会社であるB会社に対し、「報酬をはずんでくれるなら、A社が紛失した手形をなんとか入手してやってもいい。」と申し向けたところ、B社は、これに応じ、甲に8000万円を支払って上記手形を回収した。

 ところが、甲は、代金8000万円のうち4000万円を消費し、乙には、「4000万円でしか売れなかった。」と言って納得させ、残りの4000万円を乙に手交した。
 甲および乙の罪責を論ぜよ。

 論点
(1)乙は、自己が管理するA会社のロッカーから約束手形100通を持ち出した。

(2)甲は、A会社の約束手形を換金するよう甲をそそのかして、実行させた。

(3)甲は、乙から受け取った約束手形を、A会社の子会社であるB会社に対して、「A社が紛失した手形をなんとか入手してやってもいい。」と申し向け、B会社は甲に8000万円を支払って手形を回収した。

(4)甲は、B会社から受領した8000万円のうち、乙を「4000万でしか売れなかった」と欺いて、残りの4000万円を自己のものにした。

 解答例
(1)乙は、自己が管理するA会社のロッカーから約束手形100通を持ち出した。
1乙の行為は業務上横領罪にあたるか。

2業務上横領罪とは。

3乙は、自己が管理するA会社のロッカーから、約束手形100通を持ち出した。

4経理部長の業務としてA会社の約束手形を管理する乙が、それを会社に無断で持ち出している。これは権利者でなければ行えない行為であり横領にあたる。また、約束手形を換金して借金の返済にあてる目的があったので、不法領得の意思も認められる。

5乙には業務上横領罪(刑法253条)が成立する。

(2)甲は、A会社の約束手形を換金するよう甲をそそのかして、実行させた。
1甲に横領罪の教唆が成立するか。

2教唆とは、人を唆して犯罪を実行させることをいう。

3甲は、会社の約束手形を財務部長の業務として管理している乙にそれを換金するよう申し向けた。

4乙の行為は業務上横領罪であり、それは非業務者による横領を業務者が行った場合の加重的身分犯である。業務者である乙に業務上横領罪を行うよう、非業務者である甲が教唆した場合、甲には刑法65条2項が適用され、「通常の刑」が科される。つまり、加重される前の通常の横領罪の教唆が成立する。

5従って、甲には単純横領罪(刑法252条)の教唆が成立する。

(3)甲は、乙から受け取った約束手形を、A会社の子会社であるB会社に対して、「A社が紛失した手形をなんとか入手してやってもいい。」と申し向け、B会社は甲に8000万円を支払って手形を回収した。
1甲の行為は、盗品等の有償処分のあっせん罪にあたるか。

2盗品等の有償処分のあっせん罪とは、財産犯にあたる行為によって領得された財物を他人に有償で買い取らせるなどのあっせんをする行為である。

3甲は、乙から預かったA会社の約束手形をその子会社のB会社に買い取らせた。

4甲がB会社に買い取らせた約束手形は乙が業務上横領によって領得した物であり、本罪の客体にあたる。それをB会社に買い取らせるよう働きかけたので、有償処分のあっせんにあたる。ただし、その約束手形はB会社からすれば、親会社Aの約束手形であり、被害を同じくする自己の約束手形であるといえる。そうすると、甲は業務上横領罪の被害者に被害物を取り返させたといえ、盗品等の有償処分のあっせんにあたらないと解することもできる。しかし、被害者は被害物を無償で取り戻す権利があり、甲の行為はそれを侵害しているので、盗品等の有償処分のあっせんにあたるといえる。

5従って、甲には盗品等の有償処分のあっせん罪(刑法256条2項)が成立する。
 なお、甲はB社に対して、A社が約束手形を紛失したと虚偽の事実を告知しているが、乙がその約束手形を横領した事実を告知されていれば、8000万円を甲に交付しなかったと言える場合には甲に詐欺罪が成立するが、Bは真実を告げられたとしても、子会社としてそれを取り戻すために8000万円を交付した可能性を排除することはできないので、詐欺罪が成立するとはいえない。

(4)甲は、B会社から受領した8000万円のうち、乙を「4000万でしか売れなかった」と欺いて、残りの4000万円を自己のものにした。
1甲の行為は横領罪にあたるか。

2横領罪とは。

3甲は、乙から預かった約束手形を換金して受領した8000万円のうち4000万円を消費した。

4甲は乙から預かった約束手形を換金して8000万円受領しているので、甲が占有しているのは乙の金銭である。ただし、その約束手形は乙が業務上横領によって領得したものであり、それを換金して得られた8000万円を返還するよう求める権利は乙にはない。しかし、乙に返還請求権がないことを理由に、その金銭が甲のものになることはありえない。依然としてその金銭は甲のものではなく、他人のものである。甲は他人の金銭4000万円を消費したので、それは横領にあたる。

5以上から、甲には横領罪が成立する。
 なお、甲は乙に「4000万円でしか売れなかった」と虚偽のの事実を告知して、消費した4000万円の返還を免れたので、利益詐欺罪が成立すると解することもできるが、乙はそれによって財産上の利益を喪失したとはいえないので、利益詐欺罪は成立しない。


 第38問B 親族相当例、盗品等に関する罪
 甲は、母親Aの宝飾品を盗み出そうと家出中の実家に忍び込み、Aの宝石箱から指輪を持ち出した。しかし、甲がAのものだと思っていた指輪は、実はAが友人から借りているものだった。後日、甲は、Aと同居している甲の弟乙に、Aから盗んできた物であることを告げて上記指輪を売り渡した。その際、乙もこの指輪がAの所有する物だと信じていた。
 甲および乙の罪責を論ぜよ。

 論点
(1)甲は、家出中であるが、母親Aの装飾品を盗むため実家に入った。

(2)甲は、母親Aの宝石箱から指輪を持ち出したが、それは友人からの借り物であった。

(3)甲は、母親Aと同居の弟・乙に対して、指輪が母親Aから盗んだものであることを告げて、売りに出した。乙もそれが母親の物であると信じていた。

 解答例
(1)甲は、家出中であるが、母親Aの装飾品を盗むため実家に入った。
1甲の行為は住居侵入罪にあたるか。

2住居侵入罪とは

3甲の行為

4甲が立ち入ったのは母親Aが暮らす実家であった。しかし、甲は家出中であった。家出中の甲にとって、実家は他人が居住する住居にあたる。

5甲には住居侵入罪が成立する。

(2)甲は、母親Aの宝石箱から指輪を持ち出したが、それは友人からの借り物であった。
1甲は母親Aの宝石箱から指輪を盗んだ。

2甲に窃盗罪が成立するか。そして、親族相盗例が適用できるか。

3甲は母親Aの宝石箱から指輪を盗んだ。

4甲の行為は窃盗罪にあたる。それに親族相盗例が適用できるか。それが適用されるためには、窃盗の行為者、財物の占有者、財物の所有者の間に親族関係があることを要する。窃盗の行為者甲と指輪の占有者Aとの間には親族関係があるが、所有者との間にはない。従って、親族相盗例は適用できない。ただし、甲はその指輪がAの物だと錯誤していた。その錯誤は窃盗罪の成否に影響するか。親族相盗例による刑の免除は、窃盗罪は成立しているが、政策的見地から親族ゆえに一身的に刑罰を阻却する事由であるので、親族関係がない以上、錯誤があっても窃盗罪の成立は否定されない。

5従って、甲には窃盗罪が成立する。

(3)甲は、母親Aと同居の弟・乙に対して、指輪が母親Aから盗んだものであることを告げて、乙に売りに出した。乙もそれが母親の物であると信じていた。
1乙に盗品等の有償譲受けの罪が成立するか。

2盗品等の有償譲受けの罪とは

3乙は、指輪が甲がAから盗んできたものであることを知りながら、有償で買い受けた。

4乙の行為は盗品等の有償譲受けにあたる。また、乙とAとの間に親族関係はあるが、その所有者との間にはないので、親族相盗例は適用されない。その錯誤も盗品等の有償譲受けの罪の成立に影響を与えない。

5従って、乙には盗品等の有償譲受けの罪が成立する。

(4)結論
 甲には、住居侵入罪と窃盗罪が成立する。両罪は牽連犯の関係に立つ。
 乙には、盗品等の有償譲受けの罪が成立する。