Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

2017年度刑法Ⅱ(第08回)練習問題

2017-11-13 | 日記
 刑法Ⅱ(第08回)練習問題

 第35問B 二重譲渡と横領
 甲は、自己の所有する土地をAに譲渡して引き渡しを終え、代金支払も受けたが、事情があって移転登記はせず必要書類もまだ持っていた。そして、甲は、このような事情を何も知らないBに対して当該土地を譲渡し、支払を受けたが登記はまだしていなかった。

 以上の事情を知った乙は、これを奇貨として当該土地につき自己の債権を担保するために抵当権を設定することを甲に求め、抵当権が乙のために設定された登記もなされた。その後、甲は借金が返せずその土地を乙に代物弁済し、所有権移転登記を行った。

 甲および乙の罪責を論ぜよ。

 論点
(1)甲は、Aに土地を売った後、未登記のままにし、その土地をさらにBに売ったが、これも未登記のままにした。


(2)甲は、Aに売った土地を事情を知らないBにその土地を売り、支払を受けた。


(3)乙は甲に金を貸していたが、その土地が未登記であることを知り、その土地に自己の債権を担保するために抵当権を設定するよう甲に求め、甲に抵当権の設定と登記をさせた。

 乙に借金が返せなくなった甲は、土地を代物弁済し、所有権の移転登記を行った。それによって乙は、その土地の所有権を得た。


(4)乙が自己の債権を担保するために土地に抵当権を設定し、登記するよう甲に行わせた。


(5)その後、甲は借金が返せずその土地を乙に代物弁済し、所有権移転登記を行い、乙がそれを受領した。

 解答例
(1)甲は、Aに土地を売った後、未登記のままにし、その土地をさらにBに売ったが、これも未登記のままにした。

1甲がBに土地を二重譲渡した行為は、Aに対する横領罪にあたるか。


2横領罪とは、自己の占有する他人の物を領得することである。他人の物には、動産・不動産の両方が含まれる。動産の場合は事実上の支配下にあること、不動産の場合は登記をすることによって法律上の支配をしていることになり、占有が認められる。横領とは、所有者でなければできない利用・処分などの行為をすることである。不動産の場合は、移転登記によって所有権者の名義を変更すれば、領得したことになる。


3甲は、Aに土地を譲渡して代金を受けたが、所有権の移転登記をしないまま、それを事情を知らないBに譲渡し、同様に移転登記しなかった。


4甲はAに土地を譲渡し、代金の支払いを受けたので、その土地はAの土地であり、横領罪の行為客である「他人の物」にあたる。その移転登記を行わずに、そのままにしていたので、甲はAの土地を占有しているといえる。従って、それは甲が占有する他人の物である。

 それをBに譲渡し支払を受けたが、Aの土地を横領したといえるか。甲がBに移転登記するなどAの土地を所有者でなければできない行為をしていれば横領にあたるが、甲はそのような行為をしていないので、横領にはあたらない。


5従って、甲にはAに対する横領罪は成立しない。


(2)甲は、Aに売った土地を事情を知らないBにその土地を売り、支払を受けた。

1甲の行為は詐欺罪にあたるか。


2詐欺罪とは、人を欺いて財物を交付させる行為である。


3甲は、Aに譲渡した事情を知らないBに対して、その事実を告げずに、同じ土地を譲渡し支払を受けた。


4甲がAに譲渡済みである事実をBに告知する義務があり、それを告知していれば、Bが土地の所有権を得られないため、購入の代金を交付しなかったといえる場合には、甲がその事実を告知しなかったのは欺く行為であり、Bはそれによって錯誤に陥って、土地購入の代金を交付したといえるので、詐欺罪が成立する。

 問題は、甲が土地をAに譲渡済みである事実を告知すべき義務があったかである。この土地の名義人は登記簿上甲であり、甲は法律上はBにその土地を売却できる地位にある。Bがこの土地を譲渡され、所有権移転登記をすませば、Aに優先して土地の所有権を取得できる。

 このようにBはAに優先して土地を取得できる以上、甲にはAに譲渡した事実をBに告知すべき義務はない。従って、欺く行為が行われたとはいえない。


5従って、甲にはBに対する詐欺罪は成立しない。


(3)乙は甲に金を貸していたが、その土地が未登記であることを知り、その土地に自己の債権を担保するために抵当権を設定するよう甲に求め、甲に抵当権の設定と登記をさせた。

1甲の行為は横領罪にあたるか。


2横領罪(上記の説明と同じ)


3甲は、Aに譲渡した土地をさらにBに譲渡した。その土地はまだ移転登記されていなかったので、その土地に対して乙のために抵当権を設定し、登記もなされた。


4甲はA・Bに土地を二重譲渡した。甲はAまたはBのためにその移転登記に協力しなければならない。そのような委任を受けている限りにおいて、甲はその土地を占有することが許されている。従って、その土地は甲が占有する他人の土地である。

 それにもかかわらず、移転登記せずに、乙のために抵当権を設定し登記した。それはA・Bの委託の範囲を超えた行為であり、そのためA・Bは乙に優先して所有権の移転登記をすることができななった。それはA・Bからの委託の範囲を超えて、自己の土地のように処分した行為であり、横領にあたる。


5従って、甲の行為はA・Bに対する横領罪にあたる。

 その後、乙に借金が返せなくなった甲は、土地を代物弁済し、所有権の移転登記を行った。それによって乙は、その土地の所有権を得た。この甲の行為は横領罪にあたるが、他人の土地に抵当権を設定した後、その土地を代物弁済し、所有権の移転登記を行ったので、横領罪にあたるように思われるが、後者の行為の違法は前者の横領の違法に包含されて評価されるものであるので、不可罰的事後行為であり、改めて横領罪を構成しない。


(4)乙は甲に自己の債権を担保するために土地に抵当権を設定し、登記するよう甲に行わせた。

1乙が自己の債権を担保するために土地に抵当権を設定し、登記するよう甲に行わせた行為は、横領罪の共同正犯にあたるか、それとも教唆犯にあたるか。


2 2人以上の者が共同して犯罪を実行した場合、その共同正犯にあたる(刑法60条)。人を唆して犯罪を実行させた場合、その教唆犯にあたる(刑法61条)。身分犯に非身分者が関与(共同実行または教唆)した場合も、非身分者には身分犯の共同正犯または教唆犯が成立する(刑法65条1項)。


3乙は甲に自己の債権を担保するために土地に抵当権を設定し、登記するよう甲に行わせた。


4乙は行為に横領罪を行わせた。これは自己の債権を担保するために甲に抵当権を設定させ、登記させたのであって、自らの行為として行ったわけではないので、教唆にあたる。


または
 乙は行為に横領罪を行わせた。これは自己の債権を担保するために甲に抵当権を設定させ、登記させたのであるが、自己の利益をはかるために行ったのであるから、共同正犯にあたる。


5従って、乙には横領罪の教唆犯 または 共同正犯が成立する。


(5)その後、甲は借金が返せずその土地を乙に代物弁済し、所有権移転登記を行い、乙がそれを受領した。

1乙の行為は、盗品等の有償譲受罪にあたるか。


2盗品等の有償譲受罪は、他人が行った財産犯によって得られた物を有償で譲り受ける罪である。乙が有償で譲り受けた土地は、甲が横領によって領得した土地である。


3乙の行為は、甲が横領した土地を借金の代物弁済として取得した。


4乙が有償譲受した土地は、甲が横領した土地である。乙はその行為を教唆したが、それは甲の横領罪であって、乙の罪ではない。乙は甲が横領によって領得した土地を有償で譲り受けたのであるから、盗品等の有償譲受にあたる。


または、
 乙が有償譲受した土地は、甲が横領した土地である。しかも、乙はそれは共同して実行した罪でもある。盗品関与罪は、財産犯にあたる行為によって領得した物を譲り受けるなどした場合に成立するが、その財産犯は他人によって行われたものでなければならない。横領罪は乙が共同して実行したものであるから、乙は盗品等の有償譲受罪の行為主体にはなりえない。


5以上から、乙には盗品等の有償譲受罪が成立する。

 乙には盗品等の有償譲受罪は成立しない。


(6)結論
 甲には、A・Bに対する横領罪が成立する。二つの横領罪は観念的競合(刑法54前段)である。

 乙には、甲のA・Bに対する横領罪の教唆犯が成立する。それらは観念的競合の関係に立つ。さらに、盗品等の有償譲受罪が成立する。
 または 乙には、甲のA・Bに対する横領罪共同正犯のみが成立する。






 応用問題
(1)上記の事案で、甲が乙のために土地に抵当権を設定し(A・Bは乙に優先して所有権の移転登記ができない)、その後乙に所有権を移転する登記を済ませた後(土地の所有者は乙になった)、甲は乙に「所有権の移転登記はまだ完了していない」と虚偽の報告をして、それをAの名義に変更した。
(参考判例番号062)

1甲の行為は詐欺罪にあたるか


2詐欺罪とは


3甲は乙に所有権の移転登記が完了したにもかかわらず、それが未完了であると虚偽の事実を告知して、乙を欺いて、その土地の名義をAに代えた。


4乙は甲の横領に関与し、その土地を有償で譲受した。それは財産犯を犯すことによって得られた土地であるので、乙には返還請求権はない(民法708条)。しかし、それは甲の土地でもなく、他人の土地であるから、乙を欺いて「他人の土地」をAに取得させた以上、詐欺罪が成立する。


5甲には詐欺罪が成立する。


(2)上記の事案で、甲は、一定の期間をおいて、この土地の所有権をA(またはB)に戻すつもりで、乙のために土地に抵当権を設定した後(A・Bは乙に優先して所有権の移転登記ができない)、その後、その土地をA(またはB)の名義に変更した。
(参考判例065)

1乙のために土地に抵当権を設定した行為は横領罪にあたるか。


2横領罪とは


3甲は事後的に土地の所有権をA(またはB)に移転するつもりで、一時的に乙のために土地に抵当権を設定した。


4抵当権を設定することによって、A(またはB)は乙に対向して、所有権の移転登記ができなくなるが、それは一時的であると甲は認識していた。甲に不法領得の意思があったか。
 一時的であっても、

 一時的にすぎないので、