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論文)SCARECROW-LIKE 3によるジベレリンシグナルの制御

2011-02-11 15:49:43 | 読んだ論文備忘録

SCARECROW-LIKE 3 promotes gibberellin signaling by antagonizing master growth repressor DELLA in Arabidopsis
Zhang et al.  PNAS (2011) 108:2160-2165.
doi:10.1073/pnas.1012232108

Funneling of gibberellin signaling by the GRAS transcription regulator SCARECROW-LIKE 3 in the Arabidopsis root
Heo et al.  PNAS (2011) 108:2166-2171.
doi:10.1073/pnas.1012215108

ジベレリン(GA)は植物の様々な成長過程を制御している。GAを受容したGA INSENSITIVE DWARF1(GID1)はGAシグナルの抑制因子であるDELLAと結合し、この結合がDELLAのユビキチン化とプロテアソーム系による分解をもたらす。DELLAはGRASファミリーに属する植物特異的なタンパク質で、シロイヌナズナには5種類 [RGA、GAI、RGA-LIKE1(RGL1)、RGL2、RGL3] 存在している。DELLAによる植物の成長/発達制御機構については様々な研究がなされており、マイクロアレイによるDELLAターゲット遺伝子の網羅的な探索から、SCARECROW-LIKE 3SCL3 ; At1g50420)がDELLAによって発現が誘導され、GAによって抑制されることが報告されている。このSCL3の機能に関して、2つ論文がPNAS 2月1日号[vol. 108 no. 5 (2011)]に掲載された。

米国 デューク大学Sun らと理化学研究所植物科学研究センター山口らは、シロイヌナズナscl3 T-DNA挿入変異体の表現型を観察したが、通常の生育条件では野生型との差異を見出すことができなかった。しかしながら、GA生合成阻害剤パクロブトラゾール(PAC)存在下でscl3 変異体は野生型よりも発芽率、芽生えの一次根の伸長量が低下しており、SCL3 を過剰発現させた形質転換シロイヌナズナはPAC存在下で一次根が野生型よりも長くなった。scl3 変異体黄化芽生えの胚軸はPAC存在下で野生型よりも短く、SCL3 過剰発現個体では長くなった。連続光下で育成た芽生えにGAを与えるとSCL3 過剰発現個体の胚軸は野生型よりも長くなったが、scl3 変異体の胚軸の長さは野生型と同じだった。scl3 変異はGA欠損変異体ga1 のわい化をさらに強めた。scl3 変異体ではGA生合成の初期過程の酵素遺伝子(KSKOKAO1KAO2 )やGA異化酵素遺伝子(GA2ox )の発現量は野生型と同等だったが、GA生合成酵素遺伝子のうちのGA20ox1GA20ox2GA20ox3GA3ox の発現量が増加していた。よって、scl3 変異体に見られるPAC感受性はGA量の減少によるものではなく、GAシグナル活性の低下によるものであると考えられ、このことがGA生合成遺伝子の発現をフィードバック上昇させていると考えられる。したがって、SCL3はGAシグナルの活性化因子であると思われる。そこで、RGA、DELLAを修飾して活性化するO-ClcNAcトランスフェラーゼのSPINDLY(SPY)とscl3 の二重変異体を作出してPAC存在下での芽生えの根の伸長を比較したところ、rga scl3spy scl3 各二重変異体ともrgaspy 単独変異体と同様に野生型よりも根が長くなった。よって、rgaspy の変異はGAシグナル伝達においてscl3 変異よりも上位であるといえる。ただし、植物体が成長するにつれてrga の上位性は薄らいでいった。SCL3タンパク質はDELLAと同様に核に局在しており、酵母two-hybridアッセイ、プルダウンアッセイ、共免疫沈降アッセイによりSCL3とDELLAが相互作用を示すことが確認された。この相互作用ににはGAは関与していないと思われる。SCL3 過剰発現個体では内生SCL3 の発現量が減少しており、SCL3は自己の発現を抑制している。RGASCL3 を同時に過剰発現させた個体でのSCL3 の発現量はRGA を単独で過剰発現させた個体よりも低いことから、RGAとSCL3はSCL3 の発現制御に関して対立して作用していると考えられる。クロマチン免疫沈降アッセイによりSCL3がSCL3 プロモーター領域に結合することが確認され、その領域はRGAの結合領域と重なっていた。以上の結果から、SCL3はDELLAと相互作用をしてアテニュエーターとして機能することでGA応答の制御を行なっていると考えられる。

韓国 建国大学校Lim らは、SCL3 はシロイヌナズナ根の内皮、皮層/内皮の始原細胞(CEI)、静止中心(QC)で主に発現しており、この発現はGA処理によって抑制され、PAC処理によって増加することを見出した。SCL3 の発現部位は、SCARECROWSCR )の発現部位やSHOOT-ROOT(SHR)タンパク質の局在部位と重なっていることから、SCL3とSHR/SCRは関連があるものと推測される。scrshr 変異体ではSCL3 の発現量が減少していることから、根におけるSCL3 の発現はSHR/SCR経路による制御を受けていると考えられる。rga scr 二重変異体でのSCL3 発現抑制の程度はそれぞれの単独変異体よりも強いことから、SCL3 の発現はGA/DELLAとSHR/SCRの2つの経路によって制御されていると考えられる。SCL3 発現のGA/DELLAによる制御から、SCL3はGAシグナル伝達の負の制御因子であることが推測されるが、scl3 ga1-3 二重変異体芽生えの根はga1-3 単独変異体よりも短くなり、ga1-3 変異体でSCL3 を過剰発現させても根の長さはga1-3 変異体と同等であった。さらにscl3 変異体の根の成長はPAC処理によって野生型よりも抑制され、SCL3 過剰発現個体では促進された。また、PAC存在下でrga 変異体とrga scl3 二重変異体の根の成長に差異は認められなかった。よって、SCL3はGAシグナルの正の制御因子として機能しているように思われる。野生型とscl3 変異体で芽生え根端分裂組織の大きさに差は見られず、PAC処理による分裂細胞数の減少も両者に違いは見られなかった。しかし、scl3 変異体へのPAC処理もしくはga1-3 変異の導入による根の伸長/分裂領域における細胞伸長抑制は野生型よりも強く現れることから、SCL3はGAによる根の細胞伸長に関与していると考えられる。分解を受けない変異型のgairga を発現させた芽生えの根の伸長は抑制されるが、scl3 変異体では抑制がさらに強くなり、SCL3 過剰発現個体では抑制が緩和された。よって、SCL3は非分解型gaiおよびrgaによる根の伸長抑制を弱める作用があり、SCL3とDELLAはGAによる根の細胞伸長を制御していると考えられる。scl3 変異体では根の分裂組織における中皮層(middle cortex)の形成が促進されるが、scl3 変異体へのGA添加やSCL3 過剰発現個体では中皮層形成に遅れが見られる。よって、SCL3とGAは相加的もしくは協働的に根の基本組織形成の調節を行なっていると考えられる。中皮層形成にはSHR/SCRも関与しており、scl3 shr 二重変異体ではPAC処理やGA処理に関係なく付加的な層の分裂が観察されなかった。また、scl3 scr 二重変異体はscr 単独変異体よりも中皮層形成が早まり、scr 変異体でSCL3 を過剰発現させると中皮層形成が遅れた。よって、scl3scr は相加的もしくは協働的に中皮層形成促進に関与していると考えられる。以上の結果は、GAシグナルを介した根の発達過程の制御は、GRASファミリー転写調節因子に属するSCL3、DELLA、SHR/SCRによる制御ネットワークによってなされていることを示している。

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