Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)TOPLESSの可逆的アセチル化によるジャスモン酸シグナルの制御

2022-09-01 11:35:35 | 読んだ論文備忘録

Regulation of jasmonate signaling by reversible acetylation of TOPLESS in Arabidopsis
An et al.  Molecular Plant (2022) 15:1329-1248.

doi:10.1016/j.molp.2022.06.014

転写因子MYC2は、ジャスモン酸(JA)に応答した成長や防御といった様々な局面を制御する主要な因子として機能している。基底状態では、MYC2はGroucho/Tup1様コリプレッサーのTOPLESS(TPL)によって転写活性が抑制されており、TPLはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)のHDA6やHDA19などをリクルートすることによってMYC2の転写因子機能をエピジェネティックに抑制していると推測されている。一方で、HDA6とHDA19はJA応答遺伝子の発現を活性化するという報告もあり、TPLによるJA応答遺伝子の発現抑制と脱抑制の機構は再評価が必要である。中国科学院遺伝与発育生物学研究所Li らは、HDA6 が機能喪失したaxe1-4 変異体、HDA19 が機能喪失したhda19-3 変異体では基底状態、MeJA処理時ともにJAによって発現が誘導される傷害応答遺伝子(LOX2VSP1 )と病原菌応答遺伝子(ERF1PDF1.2 )の発現量が野生型よりも低下していること、axe1-4 hda19-3 二重変異体はそれぞれの単独変異体よりもJA応答遺伝子の発現量が減少することを見出した。したがって、HDA6とHDA19は冗長的にJA応答遺伝子の発現を制御していると考えられる。クロマチン免疫沈降-定量PCR(ChIP-qPCR)アッセイの結果、JA応答遺伝子のヒストンのアセチル化(H3K9ac、H3K14ac)の程度はMeJA処理前後ともに野生型と変異体の間で差異が見られないことが判った。このことから、HDA6とHDA19によるJAシグナルの制御はヒストンの脱アセチル化とは無関係であることが示唆される。TPL とTPLコリプレッサーファミリーに属するTOPLESS-RELATED1TPR1 )、TPR4 が機能喪失したtpl tpr1 tpr4 三重変異体はMeJA処理によってJA応答遺伝子の発現量が野生型よりも高くなり、axe1-4 tpl tpr1 tpr4 四重変異体のJA応答性は三重変異体と同等であった。このことから、HDA6はTPLを介してJA応答遺伝子の発現の制御に関与していることが示唆される。HDA6はTPLと相互作用をすること、TPLは生体内でアセチル化されること、axe1-4 変異体、hda19-3 変異体、HDAC阻害剤を添加した野生型植物ではTPLのアセチル化量が増加することから、HDA6/19はTPLを脱アセチル化すると考えられる。HDA6によって脱アセチル化されたTPLはNOVEL-INTERACTOR-OF-JAZ(NINJA)アダプターとの相互作用が弱くなり、MYC2のターゲット遺伝子プロモーター領域との相互作用が低下した。したがって、HDA6はTPLを脱アセチル化することでMYC2ターゲット遺伝子をTPLによる転写抑制から解放してJA応答遺伝子の発現を促進していると考えられる。ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)のGENERAL CONTROL NONREPRESSED 5(GCN5)は、JAシグナル伝達を負に制御していることが知られており、GCN5 機能喪失変異体hag1-6 はJA応答遺伝子の発現量が野生型よりも高い。hag1-6 tpl tpr1 tpr4 四重変異体のJA応答遺伝子の発現量はtpl tpr1 tpr4 三重変異体と同等であり相加効果は見られなかった。また、hag1-6 変異体でTPL を過剰発現させることで変異体のJA応答性の表現型が緩和された。hag1-6 変異体のJA応答遺伝子のヒストンのアセチル化の程度は野生型よりも低いことから、JA応答遺伝子発現のGCN5による負の制御はヒストンのアセチル化とは無関係であると考えられる。GCN5はTPLと相互作用をすること、hag1-6 変異体のTPLはアセチル化の程度が低いことから、GCN5はTPLをアセチル化することが示唆される。GCN5によってアセチル化されたTPLはNINJAとの相互作用が強くなった。したがって、GCN5によるTPLのアセチル化は、TPL-NINJA相互作用とTPLのMYC2ターゲット遺伝子プロモーターへのリクルートを促進し、TPLを介したJA応答遺伝子の発現抑制を促すと考えられる。TPLにはアセチル化されうるリジン残基が3つあり、そのうちK689のアセチル化はNINJAやJAZ8との相互作用を強め、MYC2に対するコリプレッサー活性を強めた。このことから、TPL K689のアセチル化はJAシグナルの抑制において重要であると考えられる。シロイヌナズナ芽生えのGCN5 転写産物量は、基底状態で高く、MeJA処理後も安定していた。一方、HDA6 転写産物量は、MeJA処理によって増加し、処理1時間後に最大となった後に徐々に減少していった。このMeJA処理によって誘導されたHDA6 の発現とTPLのアセチル化には相関が見られ、MeJA処理によって一過的に減少した後に徐々に増加していった。このことから、HDA6はJAシグナル活性化時のTPLのアセチル化状態を決定する主要因であると考えられる。このGCN5とHDA6による可逆的なTPLのアセチル化は、JAが誘導する灰色かび病菌(Botrytis cinerea )に対する植物免疫応答に関与していることが確認された。以上の結果から、GCN5とHDA6はTPLのアセチル化状態を調節することでTPLとNINJAとの相互作用を制御し、JA応答遺伝子の発現を決定していると考えられる。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 論文)根の成長を阻害するペ... | トップ | 論文)ジャスモン酸とエチレ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読んだ論文備忘録」カテゴリの最新記事