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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)根分裂組織の光受容による生長制御

2024-05-19 10:36:43 | 読んだ論文備忘録

Root-specific photoreception directs early root development by HY5-regulated ROS balance
Li et al.  PNAS (2024) 121:e2313092121.

doi:10.1073/pnas.2313092121

根の発達は光によって制御されているが、根が光を直接感知する能力を持っているかはほとんど解っていない。中国科学技術大学Zhaoらは、暗所で育成したシロイヌナズナ芽生えに光照射すると、4時間後には光受容体の下流で光形態形成を制御しているELONGATED HYPOCOTYL5HY5)の発現活性化とHY5タンパク質の蓄積が子葉と根分裂組織(RAM)の両方でほほ同時にみられることを明らかにした。未知の移動シグナルがシュートから根に移動する可能性を避けるため、光照射直後に子葉、胚軸、主根の接合部を切断したが、RAMでのHY5 発現とタンパク質蓄積は観察された。さらに、シュートもしくは根をアルミホイルで覆って遮光した芽生えを用いて解析を行なったところ、シュート明/根暗[S(L)/R(D)]条件では、HY5 発現とタンパク質蓄積は根の伸長領域では見られたが、RAMでは検出されず、S(D)/R(L)条件ではRAMでのHY5 発現とタンパク質蓄積が見られた。これらの結果から、RAMが地上器官から独立して光を知覚していることが示唆される。暗所育成芽生えは根長とRAMの大きさが減少する暗形態形成(skotomorphogenesis)を示すが、光受容体の変異体(phyAphyBphyA phyBcry1cry2uvr8)は、光条件下でも根長とRAMの大きさが減少していた。活性酸素種(ROS)のH2O2とO2.-のバランスは、RAMの大きさと根の生長の制御にとって重要であり、O2.-の蓄積はRAMの大きさと正の相関があり、H2O2は抑制的に作用することが知られている。暗所で育成した芽生えや明所で育成した光受容体変異体芽生えの根は、H2O2を多く含み、O2.-蓄積量は非常に少なく、HY5 発現量が減少していた。一方、芽生えのRAMのH2O2蓄積は光照射によって減少した。さらに、光条件下で濃度を変えてH2O2を作用させたところ、根長、RAMの大きさ、O2.-蓄積量がH2O2の増加とともに有意に減少した。芽生えの根を遮光[S(L)/R(D)]すると、O2.-蓄積の減少とともにH2O2が大きく増加した。逆に、S(D)/R(L) 条件では、シュートと根の両方でH2O2とO2.-の蓄積パターンが芽生え全体に光照射した条件に近づいた。これらの結果から、光がRAMのROSホメオスタシスを特異的に制御し、根の光形態形成を媒介していることが示唆される。hy5 変異体は、光条件下で胚軸の伸長と根の縮小という典型的な暗形態形成の特徴を示す。光条件下のhy5 変異体の根は、H2O2量が大きく増加し、O2.-蓄積は抑制されており、暗条件下での野生型植物の観察と一致していた。H2O2処理をしたhy5 変異体は、野生型植物と同様に、根長とRAMの大きさが大きく減少し、O2.-量も減少した。暗条件下のhy5 変異体は、H2O2が根にさらに多量に蓄積し、O2.-蓄積は抑制され、RAMが縮小し、根が短くなった。カタラーゼ処理でH2O2を除去すると、野生型植物の根のO2.-含量、RAMの大きさ、根長が増加し、hy5 変異体においてもRAMの大きさと根の発達が部分的に回復した。このことから、HY5がH2O2の蓄積を抑制することで根の光形態形成を制御していることが示唆される。このことをさらに確認するために、35S::HY5-GR を導入した形質転換体に暗条件下でデキサメタゾン誘導を行なったところ、RAMの大きさと根長が増加し、H2O2の蓄積がO2.-の増加とともに強く阻害された。野生型植物とhy5 変異体の種子を土壌に播種したところ、発芽3~9日後の初期段階では、hy5 変異体の根長とRAMの大きさは野生型植物よりも有意に減少しており、HY5の機能が根の発生初期に必須であることが示唆される。しかし、その後の生長では両者に違いは見られなかった。HY5 プロモーター活性とHY5タンパク質蓄積は、発芽3~9日後から徐々に減少し、12日後以降はほぼ消失した。これと一致して、RAM中のH2O2含量は根の成長とともに増加し、12日後以降にはhy5 変異体と同程度になった。H2O2の増加により、RAMにおけるO2.-蓄積は減少し、hy5 変異体と同程度のレベルに達した。これらの結果から、RAMが自然な土壌条件下で光を直接感知し、ROSバランスを通して発芽初期の根の発達を制御していることが示唆される。HY5による根のH2O2蓄積抑制機構を解明するために、公的遺伝子発現データベースを解析し、ペルオキシダーゼ遺伝子(PER)73個のうち24個、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ遺伝子(APX)6個のうち3個、カタラーゼ遺伝子(CAT)3個のうち1個、グルタチオンペルオキシダーゼ遺伝子(GPX)8個のうち2個が、H2O2消去系に関与しHY5によって制御されていると予測された。解析の結果、HY5が根におけるPER6 の発現を直接活性化していることが確認された。per6 変異体は、hy5 変異体と同じように、RAMの大きさと根長が減少し、H2O2量が大きく増加してO2.-蓄積は抑制された。hy5 per6 二重変異体のRAMの大きさと根長の抑制の程度とROSバランスは、それぞれの単独変異体と類似していた。hy5 変異体でPER6 を過剰発現させると、ROSバランスの乱れが回復するだけでなく、根の生長抑制も回復した。これらの結果から、PER6 発現の活性化は、HY5が根の光形態形成を制御するのに必須であることが示唆される。HY5によって5つのPER 遺伝子が活性化されるが、PER6 のみがHY5の直接のターゲットとなっている。また、bHLH型転写因子のUPBEAT1(UPB1)は根においてPER 遺伝子の発現を阻害することが知られており、HY5は根においてUPB1 の発現を直接阻害していることが確認された。hy5 upb1 二重変異体では、hy5 変異による根の生長抑制が部分的に回復し、ROSバランスの乱れもほぼ回復した。したがって、HY5は、UPB1 の発現を直接抑制してPER の発現を促進し、根におけるROSバランスの光による制御に部分的に寄与していると考えられる。以上の結果から、根分裂組織は光を直接感知しており、地上器官から独立して活性化されたHY5がペルオキシダーゼ遺伝子の発現を直接的または間接的に活性化することによりH2O2蓄積を抑制し、発生初期過程の根の生長を促進していると考えられる。

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