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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ジャスモン酸とエチレンのシグナルを負に制御する新規タンパク質

2022-09-05 14:48:27 | 読んだ論文備忘録

Jasmonate Hypersensitive 3 negatively regulates both jasmonate and ethylene-mediated responses in Arabidopsis
Chung et al.  Journal of Experimental Botany (2022) 73:5067–5083.

doi:10.1093/jxb/erac208

産業技術総合研究所のChung らは、シロイヌナズナのジャスモン酸(JA)シグナル伝達に関与する新規因子を見出すことを目的に、EMS処理変異体集団の芽生えから根の成長に対するMeJA感受性が変化している個体を選抜した。そして、MeJA処理によって野生型植物よりも強く根の伸長が抑制されるJA高感受性変異体を単離し、この変異体をjasmonate hypersensitive 3-1jah3-1 )と命名した。jah3 変異体芽生えは、MeJA処理による葉の白化に対しても高い感受性を示した。しかしながら、MeJA処理によるJA応答遺伝子(MYC2ERF1VSP2PDF1.2 )の発現誘導については野生型との差異は見られなかった。したがって、jah3 変異体は、根と地上部においてJA高感受性を示すが、総合的なJA感受性の増大を起こしているわけではない。根の伸長を制御する他の植物ホルモンに対する応答を調査したしたところ、jah3 変異体芽生えはエチレン(ACC)による根の伸長阻害に対しても高感受性を示すことが判った。また、jah3 変異体芽生えはエチレンによる胚軸伸長阻害に対しても高感受性を示した。解析の結果、jar3-1 変異は、At4g16535 の翻訳開始点から220番目の塩基がAからTに置換し、コードする253アミノ酸タンパク質の74番目のリジンが終始コドンとなることが判った。JAH3は機能未知の新規タンパク質で、類似タンパク質は植物界に保存されていた。JAコレセプターCOI1が機能喪失したcoi1 変異体芽生えはMeJA処理による根の伸長阻害を起こさないが、jah3coi1 二重変異体も伸長阻害が見られなかった。よって、jah3 変異体のMeJAによる根の伸長阻害に対する高感受性はCOI1に依存している。同様に、JAシグナルの正の制御因子JIN1/MYC2の機能喪失変異体を用いた解析から、jah3 変異体のMeJAによる根の伸長阻害はJIN1/MYC2に依存していることが判った。また、jah3 変異体のエチレンによる根の伸長阻害に対する高感受性に対してエチレンシグナル伝達に関与するETR1とEIN3の機能喪失変異体を用いて解析を行ない、jah3 変異体のエチレンによる根の伸長阻害に対する高感受性は部分的にETR1およびEIN3に依存していることが判った。jah3coi1 二重変異体とjah3 変異体のエチレン応答性は同等であり、jah3etr1 二重変異体とjah3 変異体のMeJA応答性も同等であることから、JAおよびエチレンシグナルに対するJAH3の効果は互いに独立していることが示唆される。葉を暗黒処理すると白化して老化が誘導され、jah3 変異体は白化が促進された。jah3coi1 二重変異体、jah3ein3 二重変異体を用いた解析から、COI1とEIN3はjah3 変異による白化促進に部分的に関与していることが判った。暗黒処理をしたjah3 変異体の葉では老化のマーカー遺伝子(SAG12SAG13SAG29NAP1ORE4ANAC019ANAC055 )の発現量が野生型植物よりも高くなっていた。coi1 変異やein3 変異を導入した二重変異体の解析から、jah3 変異体でのNAC055 の発現量増加はCOI1に依存しており、NAP1 の発現量増加はEIN3に依存していることが判った。JA非感受性変異体は植物病原細菌P. syringae strain DC3000の罹病性が低下するが、jah3 変異体の罹病性は野生型植物と同等であった。以上の結果から、JAH3はジャスモン酸およびエチレンによって誘導される根の伸長阻害、暗黒処理が誘導する葉の老化に対する新規の負の制御因子であると考えられる。

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