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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)接触形態形成におけるエチレンの役割

2024-05-04 10:14:07 | 読んだ論文備忘録

Ethylene and jasmonate signaling converge on gibberellin catabolism during thigmomorphogenesis in Arabidopsis
Wang et al.  Plant Physiology (2024) 194:758-773.

doi:10.1093/plphys/kiad556

接触は植物に顕著な形態変化を引き起こす。例えば、1日2回触ったシロイヌナズナは、ロゼット葉が小さくなり、葉色が濃くなり、花序が短くなり、開花が遅れる。このような接触による形態変化は、接触形態形成(thigmomorphogenesis)と呼ばれており、この過程は様々なシグナルによって制御されている。中国科学院 昆明植物学研究所Wuらは、シロイヌナズナの葉に接触刺激を与え、5、20、60分後にサンプリングしてRNA-seq解析を行ない、接触に応答した遺伝子発現の変化を見た。その結果、接触に応答する3095遺伝子(2503遺伝子は発現上昇、592遺伝子は減少)が見出された。MapManソフトウェアを用いた解析から、カルシウム調節、受容体キナーゼ、転写因子など、これまでに報告されている経路に加え、タンパク質分解、タンパク質修飾、Gタンパク質、MAPキナーゼ、ホスホイノシチドなども、接触応答に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。また、全ての植物ホルモンが接触応答に関与していたが、エチレン経路の遺伝子数が最も多く、接触形態形成における機能でよく知られているジャスモン酸(JA)経路やジベレリン(GA)経路の遺伝子数よりも多かった。そこで、、エチレン経路の全遺伝子の転写変化を調べたところ、いくつかのエチレン生合成遺伝子とシグナル伝達遺伝子の転写が接触によって大きく誘導されることが判った。接触処理をした植物は、対照と比較して25 %多くエチレンを生産し、EIN3タンパク質量が増加していた。これらの結果から、エチレン経路が接触形態形成に関与している可能性が示唆される。エチレン非感受性のein2 変異体やein3 eil1 二重変異体の接触応答を見たところ、ロゼット葉の大幅な縮小と開花時期の大幅な遅延といった接触に対する過敏感応答を示した。接触は、シロイヌナズナの活性型GAのGA4量を大きく減少させ、その結果、成長と開花が遅延することが知られている。そこで、GA4含量を調査したところ、予想通り、接触後に野生型植物のGA4含量は33%減少することが確認された。一方、ein2 変異体、ein3 eil1 二重変異体のGA4含量は、それぞれ59 %、56 %減少した。また、GA4添加によって、ein2 変異体、ein3 eil1 二重変異体のロゼット葉の大きさと開花時期が完全に回復した。同様の結果は、エチレン生合成変異体や他のエチレン非感受性変異体においても見られた。これらの結果から、エチレン経路は、接触が誘導するGA4含量の低下を阻害することで接触形態形成を調節していることが示唆される。接触によるGA4含量減少の機構を解明するために、23のGA生合成または異化遺伝子の転写プロファイルを解析したところ、ein2 変異体、ein3 eil1 二重変異体ではジベレリン2-オキシダーゼをコードするGA2ox8(クラスIIIジベレリン2-オキシダーゼ)の転写産物が過剰蓄積することが判った。RNAiによってGA2ox8 をサイレンシングさせたein3 eil1 RNAi-GA2ox8 系統は、ein3 eil1 二重変異体と比較して、ロゼット葉直径の減少や開花の遅れが少なく、接触に対する感受性が低下していた。また、ein3 eil1 RNAi-GA2ox8 系統のGA4含量は、ein3 eil1 二重変異体に比べて非常に増加していた。したがって、接触によって誘導されるエチレンシグナルは、GA2ox8 転写産物の蓄積を抑制し、GA4含量を増加させると思われる。重要な点として、ein3 eil1 RNAi-GA2ox8 系統は触接後もGA4含量の減少を示した。接触が誘導するGA含量の減少に関与していることが知られているGA異化酵素遺伝子のGA2ox7 は、ein3 eil1 RNAi-GA2ox8 系統においても触接によって誘導されたことから、GA2ox7 は、触接形態形成においてエチレン経路とは独立して機能していると考えられる。GA2ox8 遺伝子のプロモーター領域にはEIN3結合部位があり、解析の結果、EIN3はGA2ox8 の転写を抑制していることが判った。JA経路はシロイヌナズナの接触形態形成を正に制御しており、JA欠損dde2 変異体やJA非感受性myc2 myc3 myc4myc234)三重変異体は接触応答を示さない。これらの変異体では接触によるGA4含量の減少が見られないことから、GA2ox7GA2ox8 転写産物量を見たところ、GA2ox7 転写産物量が野生型植物よりもはるかに低いことが判った。このことから、接触によるGA2ox7 転写変化はJAに依存していると考えらる。しかし,野生型植物、dde2 変異体、myc234 三重変異体では、接触によるGA2ox8 の転写変化は見られず、GA2ox8 はJA経路に依存していないことが示唆される。JA経路によるGA2ox7 転写制御について解析を行なったところ、接触によってMYC2タンパク質量が増加すること、GA2ox7 遺伝子プロモーター領域にはMYC2結合部位があり、MYC2はGA2ox7 の発現を直接活性化することが判った。dde2 変異体は接触感受性が低く、ein2 変異体は接触に対して過敏感だが、ein2 dde2 二重変異体はdde2 変異体様でもein2 変異体様でもなく、野生型植物に類似した表現型を示した。GA2ox7 転写産物量はdde2 変異体とein2 dde2 二重変異体でのみ減少し、野生型植物やein2 変異体では減少しなかった。一方で、接触によるGA2ox8 転写誘導は、ein2 変異体とein2 dde2 二重変異体変異体のみで見られ、野生型植物とdde2 変異体では見られなかった。したがって、2つの酵素遺伝子は、JAとエチレンによって独立に制御されており、接触形態形成におけるエチレン経路の機能は、JA経路とは独立していると考えられる。以上の結果から、エチレン経路はGA2ox8 の転写を抑制することによりGA4含量を制御し接触形態形成の負の調節因子として機能していると考えられる。また、接触によって誘導されたJA経路がGA異化遺伝子GA2ox7 の発現を正に制御しており、エチレンとJAは逆の方向で独立にGA4含量を制御し、接触形態形成を微調整していることが示唆される。

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