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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)光周期による生長制御

2024-05-27 13:23:03 | 読んだ論文備忘録

Plants distinguish different photoperiods to independently control seasonal flowering and growth
Wang et al.  Science (2024) 383:eadg9196.

DOI: 10.1126/science.adg9196

植物は日長(光周期)を感知して、季節的な生長と花成を調節している。光周的花成についてはよく研究されているが、光周的生長についてはあまり知られていない。米国 イェール大学Gendronらは、公表されているシロイヌナズナのRNA-seqとマイクロアレイのデータを解析し、生長が促進される長日条件で高発現する遺伝子を同定した。これらを文献と照らし合わせ、変異した際に生長異常を引き起こす遺伝子を特定した。そのような遺伝子の1つとして、ミオイノシトール生合成に関与しているMYO-INOSITOL-1-PHOSPHATE SYNTHASE 1MIPS1)が見出された。MIPS1 の発現を見ると、16時間明期-8時間暗期(16L:8D)と8L:16Dでは質的にも量的にも異なっており、8L:16DではZT4(夜明け4時間後)に発現のピークがあるが、16L:8Dでは、ZT4のピークの他にZT16の夕暮れ時に2番目のピークが見られた。したがって、16L:8Dで生育した植物は、ZT16にも光周期特異的な発現ピークがあるためMIPS1 発現量が高いことになる。mips1 変異体は、日光積分(24時間に入射する光合成活性光量)や光周期に依存して生長障害を起こすことが報告されている。16L:8Dで生育したmips1 変異体は、野生型と同じ割合で新鮮重を増加させることができなかったが、8L:16Dでは新鮮重の欠損は観察されなかった。日光積分ではなく光周期に依存したMIPS1 の役割を明らかにするため、16L:8D、100 mmol/m2/s 白色光(16L100:8D)と8L200:16Dで生育した植物の新鮮重を比較した。その結果、両光条件の日光積分は同じだが、16L100:8Dで生育した野生型植物は、8L200:16Dの2.6倍の新鮮重があった。しかし、mips1 変異体では、16L100:8Dで生育した際の新鮮重増加は、8L200:16Dの0.83倍であった。このことから、mips1 変異体は光周期に制御された新鮮重増加能力を失ったと考えられ、MIPS1 は光周期特異的な生長過程に関与していることが示唆される。16L:8Dで生育したmips1 変異体は、葉に傷害が見られ、このような傷害はサリチル酸(SA)の過剰生産によって引き起こされることが知られている。そこで、mips1 変異体にsid2 SA生合成変異を導入したところ、傷害は見られなくなった。しかしながら、新鮮重の増加は完全には回復しなかった。植物を様々な光周期で生育してMIPS1 発現を見たところ、長日特異的なピークは、12L:12Dで現れた。野生型植物とmips1 変異体を同じ光周期で生育したところ、野生型植物は12L:12D以下の光周期ではほとんど生長しなかったが、12L:12D以上の光周期では急速に生長した。しかし、mips1 変異体は、12L:12D以上の光周期では12L:12D未満の光周期に比べて明らかな生長障害を示した。このことから、生長に重要な光周期は春秋分点付近にあり、MIPS1 発現の光周期と一致することが示唆される。一方、ZT4で見られるピークは試験したすべての光周期で見られることから、光周的生長における役割はないと思われる。野生型植物とmips1 変異体の花成や花成後の生長や種子生産を比較した結果、mips1 変異体は、16L:8Dにおいて生長障害があるにもかかわらず、16L:8D、8L:16Dにおける葉数と花成時期に野生型植物との差異はないことが判った。野生型植物の種子収量は16L:8Dでは8L:16Dよりも多く、光強度を2倍にすると16L:8Dでは収量が増加したが、8L:16Dでは増加しなかった。mips1 変異体は、16L:8Dではいずれの光強度でも野生型植物に比べて収量が低かった。逆に、8L:16Dではいずれの光強度でも野生型植物とmips1 変異体との間に収量の差は見られなかった。したがって、MIPS1 は花成前の生長、花成後の花序茎の伸長、種子生産に必要であるが、開花時期や葉の発生には影響しないと考えられる。co-9 変異体、ft-10 変異体は光周的花成が損なわれているが、新鮮重増加に異常は見られなかった。co-9 変異体ではFT 発現量が減少していたが、MIPS1 発現量に変化は見られなかった。co-9 mips1 二重変異体の16L100:8D条件下での生長は、mips1 単独変異体と同程度であり、葉数は同じであったが、抽苔までの日数がco-9 変異体よりも長かった。このことから、MIPS1CO に依存せずに植物の生長に関与していることが示唆される。16L:8DでのMIPS1 の発現誘導に光合成が関与しているかを調査するために、暗処理もしくは光化学系Ⅱ阻害剤(DCMU)処理をしたところ、どちらもMIPS1 発現量を減少させた。また、8L:16D生育個体にショ糖処理をしたところ、ZT16にMIPS1 発現が誘導された。また、内生ショ糖含量とMIPS1 発現との間に正の相関があることが判った。よって、代謝がMIPS1 の光周期特異的発現の制御に重要な役割を果たしていることが示唆される。MIPS1 発現は概日リズムを示し、ZT12頃から発現が増加し、明け方近くにピークに達した。そこで、evening complex遺伝子LUX ARRYTHMO が変異して概日時計に異常のあるlux-4 変異体の恒常的明条件下でのMIPS1 発現を見たところ、発現リズムに異常が見られた。16L:8Dでは、ZT4のピークは野生型植物とlux-4 変異体で同じであったが、lux-4 変異体では2番目のピークの位相が約2.7時間進んでいた。一方、8L:16Dでは両者の最初のピークの位相に変化はなかった。したがって、概日時計がMIPS1 の光周期特異的発現を制御していることが示唆される。デンプン生産とショ糖含量の光周期的調節ができないホスホグルコムターゼ変異体pgm-1 は、16L:8Dでは、ZT4のMIPS1 発現が野生型植物よりも大きくなり、ZT16のピークはあまり顕著ではなくなった。8L:16DでのZT4のMIPS1 発現も野生型植物よりも大きくなっていた。pgm-1 mips1 二重変異体は、8L:16Dにおけるロゼット新鮮重が、pgm-1 変異体よりも減少した。これは、pgm-1 変異体では8L:16DでMIPS1 発現が不適切に誘導されるという観察と一致する。16L:8Dでは、pgm-1 変異は、mips1 変異体で観察される葉の傷害と生長障害を部分的に抑制した。MIPS1 発現の光に対する反応はZT12の前後でが異なることから、「二重夕暮れ」実験(8L:4D:8L:4D)を行なったところ、両方の「夜明け」でMIPS1 発現の一過性のピークが見られた。しかし、ZT0から始まる最初の8時間明期では発現が減少し、ZT12から始まる2回目の8時間明期では発現が増加した。しかし、この発現パターンはlux-4 変異体、pgm-1 変異体では消失していた。したがって、MIPS1 の適切な季節的発現には概日時計とデンプンが必要であり、MIPS1 発現は代謝的な日長測定システムによって制御されていると考えられる。MIPS1 過剰発現系統は、新鮮重が野生型植物よりも大きくはならなかった。これを裏付けるように、8L200:16Dで野生型植物にミオイノシトールを供給しても生長は促進されなかった。しかしながら、mips1 変異体では、16L200:8Dでのミオイノシトール供給が表現型を救済した。よって、MIPS1とミオイノシトール生産は長日条件下での生長には必要であるが、短日条件では不十分であることが示唆される。光強度を補償点(40 mmol/m2/s)まで下げても、赤色光と青色光の光受容体は活性を維持し、光周的花成に変化は見られないが、光合成は呼吸で使われる以上の糖を生産することができない。16L40:8Dにおいて、mips1 変異体の生長、開花、種子収量は野生型植物との差異が見られなかったことから、MIPS1は、光強度が補償点付近にある長日条件では機能しないと考えられる。mips1 変異体の表現型が8L100:16D、8L200:16D、16L40:8Dでは見られないことから、一日の後半の8時間(ZT8からZT16)の生長は、前半の8時間(ZT0からZT8)よりも補償点以上の光に対して敏感であることが示唆される。そこで、明期の前半もしくは後半を低光強度(10 mmol/m2/s)もしくは高光強度(190 mmol/m2/s)にして生育したところ、8L190:8L10:8Dで生育した野生型植物とmips1 変異体に表現型の差異は見られなかったが、8L10:8L190:8Dで生育したmips1 植物は、16L200:8Dで生育させた場合と同様に、生長障害や葉の傷害を示した。また、野生型植物も8L190:8L10:8Dよりも8L10:8L190:8Dのほうが大きく生長した。したがって、長日光周期でMIPS1 が誘導される場合、生長にとって光に敏感な時間帯はZT8からZT16の間であると考えられる。MIPS1 の発現は140 mmol/m2/sで誘導されたが、10mmol/m2/sでは誘導されなかった。以上の結果から、植物は光合成周期から日長を感知して生長を制御しており、光周的花成と光周的生長は制御機構が独立していると考えられる。

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