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パリ、ジュテーム

2007-03-29 | 劇場映画れびゅー
パリを舞台に世界中の18人の監督がラブストーリーを撮った『パリ、ジュテーム』。
やっと大阪でも封切られたので早速観てきました。
★★★★

18組の監督達が、パリ20区の内18区を舞台にそれぞれ“愛”をテーマとした5分強の短編を撮って持ち寄ったオムニバス。
それぞれに関連性はほとんど無く、各エピソードごとに監督の色が濃く出たつくりになっているのが興味深い。
※興味深いと言うのは、ただの映画ファンな俺には聞いたこともない監督の名前も有って、全部が全部そうなのか自信が無いから。

ほとんどのエピソードはどこかで観たことの有るような話ではあるんだけれど、観せ方の勝利の連続。

街と人の魅力をラブストーリーという形態で引き出すのには、各区でエピソードを区切って5分強という長さが適度に感情移入出来て良かった。
合間に観光名所が映し出されるものの、主役はあくまでパリの“人々”で、生活感の漂う作風のものばかり。
行った事の有る人も、そうで無い人も、この映画を観たらパリとそこに住む人々が大好きになるんじゃないかな。
アメリカや日本が舞台じゃこんなにも洒落た映画にはならないだろう。

短い時間の中で時には人生を語ったり、時には怪しい時間を共有したり。
たった5分強の中で泣いたり笑ったり。
演じる俳優達は夢のように豪華な顔ぶれ。
お気に入りの監督や俳優の場合は天にも昇るような心地。
ずっとこのまま贅沢な短編を次々に観ていたい気分にさせられました。

ネタバレ
18区 モンマルトル
 監督:ブリュノ・ポダリデス
 出演:ブリュノ・ポダリデス
    フロランス・ミュレール
狭い路地沿いに駐車した車が並ぶモンマルトルで、ようやく車を止める場所を確保したのに落ち着かない男。そんな時、車のそばで女性が倒れた…。
監督も出演者も名前を聞いたことすら無い短編から始まった。
一人で車に乗っている事にただイライラしていた男が、思わぬハプニングに遭遇し、変化していく様子が面白い。
18話中、一番中途半端な状態で終わるが、最初に持ってくることによって映画のラストシーンで晴れやかな気持ちにさせてくれた。
他のいくつかのエピソードについても、ラストでその後が描かれている。

5区 セーヌ河岸
 監督:グリンダ・チャーダ
 出演:レイラ・ベクティ
    シリル・デクール
セーヌ河岸の道端に座り込み、女性をひっかけようと必死な学生達。誰も興味を持たなかったべジャブ姿の女性に惹かれた青年の心の動きを描いている。
こちらも監督も出演者も知りません。
パリにおいても誤解のあるイスラム教徒のべジャブ姿。
その意味、彼女のアイデンティティを知った時に、青年と観客は他人に対しての理解が一層深まることとなる。
座り込んでいた青年が、立ち上がったら想像していたよりも背が高くて驚いた。
見かけだけじゃ何も理解できないんだな。

4区 マレ地区
 監督:ガス・ヴァン・サント
 出演:マリアンヌ・フェイスフル
    ギャスパー・ウリエル
    イライアス・マッコネル
お洒落とゲイの街マレ地区らしい、スノッブなゲイのナンパを描いたコメディー。
ギャスパー・ウリエルの妖艶な美青年役が必死で面白すぎ。
ロング・エンゲージメント』からさらに見違える綺麗さが、『ハンニバル・ライジング』ではどう恐ろしい役に転じるのかますます楽しみになった。
場所もテーマも監督らしく、アイコンタクトで始まるアプローチからクスクス笑ってしまう。

1区 チェイルリー
 監督・脚本:ジョエル&イーサン・コーエン
 出演:スティーヴ・ブシェミ
ルーブル美術館帰りのアメリカ人観光客が、メトロのホームで向かいに座ったカップルに絡まれて…。
スティーブ・ブシェミの慌てた表情がサイコーw
異国の地でなんだかわからないまま喧嘩を売られたり突然キスされたり。
コーエン兄弟の色がモロ出た、悲哀と非現実的な演出で臨場感たっぷり。
メトロの駅の洒落た装飾も生かされていて面白い。
パリでメトロに乗る機会が有ったら、駅ごとにホームの装飾が違って面白いので要チェックです。
18話の中で一番笑ったエピソードでもありました。

16区 16区から遠く離れて
 監督:ウォルター・サレス&ダニエラ・トマス
 出演:カタリーナ・サンディノ・モレノ
郊外に住む移民女性が、託児所に赤ん坊を預けた後、向かう先は…。
監督らしいシニカルなエピソード。
自分の赤ん坊に向けるべき愛情を、他人の子供に向けなければならないなんて。

13区 ショワジー門
 監督:クリストファー・ドイル
 出演:バーベット・シュローダー
チャイナタウンの美容室にシャンプーをセールスに来たオヤジはテクニシャンだった…?
ウォン・カーウァイ映画のような独創感溢れるプロットと映像も、クリストファー・ドイル監督作と聞けば納得。
なんでもないと思っていたオヤジがテクニシャンだったのと同じく、演じるバーベット・シュローダーは本作の前身『パリところどころ』のプロデューサー。
後にパンフレットで知ってびっくり。
実際には関係無いと思っていたこの2作の接点がここに。

12区 バスティーユ
 監督:イサベル・コイシェ
 出演:ミランダ・リチャードソン
    セルジオ・カステリット
    レオノール・ワトリング
妻に内緒の浮気の果て、離婚話を切り出そうとカフェに妻を呼び出したまでは順調だったが…。
一見よく有りそうな悲劇も、『死ぬまでにしたい10のこと』のイサベル・コイシェだからこそオイシ過ぎるネタ。
夫の心境の変化よりも妻の気丈な姿(ミランダ・リチャードソン)の方がある意味見もの。
レオノール・ワトリングの脇役も贅沢で満腹になる。

2区 ヴィクトワール広場
 監督:諏訪敦彦
 出演:ジュリエット・ビノシュ
    ウィレム・デフォー 
    イポリット・ジラルド
子供を亡くした母親の悲しみに暮れる姿を描いた、しかし幻想的なエピソード。
唯一参加している日本人監督の作品なのですが、誰この監督w
良くも悪くも邦画的な演出がパリと似合わない感じがして、せっかくジュリエット・ビノシュを使っているのになんだかなぁ…な印象。
それが逆にこのオムニバスの中では味になっているんだけど。
ウィレム・デフォーにしても、せっかくなんだからカウボーイじゃなくて侍にすりゃ良かったかも。
オマージュ云々は別として。

7区 エッフェル塔
 監督:シルヴァン・ショメ
 出演:ポール・パトナー
    ヨランド・モロー
少年が「パパとママの出会いは留置場」と語るところから始まる、孤独なパントマイマーの出会いを描いたメルヘンチックなエピソード。
この監督も知りません。
アニメの香りがするパントマイマーのコミカルな動きが楽しく、また個性的故の孤独が悲しみも誘う。
飽きがきそうなプロットも、5分の枠だからこそ成功している。
ポール・パトナーは『リトル・ブリテン』の脇役だけれど、コメディアンとして有名なのか?
1stシーズンでは、同じ格好でコントの合間にパントマイマー役をやっていた記憶しか…。

17区 モンソー公園
 監督:アルフォンソ・キュアロン
 出演:ニック・ノルティ
    リュディヴィーヌ・サニエ
初老の男との待ち合わせに現れたのは若い女性。父親なのかパパなのか、怪しい二人は怪しい会話をしながら通りを歩くが…。
ニック・ノルティの老けっぷりと、リュディヴィーヌ・サニエの成長に大注目。
トゥロー・ワールド』の長回しで大いに魅せてくれた監督、今回は期待通りまるごと長回しで撮っている。
気にして観ていたから職人技が覗えました。
いったい何回撮り直したんだろう。
フランス語と英語が混ざり合ったこの映画の中で、本作では特に言葉遊びも面白かった。
でも、注目するべきところが多くて、会話の内容なんてほとんど覚えていませんw
オチと、その後を描いたラストがいい。

3区 デ・ザンファン・ルージュ地区
 監督:オリヴィエ・アサヤス
 出演:マギー・ギレンホール
映画の撮影でパリに訪れているアメリカ人女優。ヤクの売人がちょっと気になるが…。
この監督も知りません。
女優の乱れた生活の一端が垣間見えて、ちょっとげんなり。
薬の売人とは言え、やる事わきまえている辺りが女優よりもしっかりしてたりして。
マギー・ギレンホールって、華の有る女優役をやっても華が見当たらないもっさり顔だけれど、次回作はケイティー・ホームズに代わって『バットマン』新シリーズのヒロイン役だとか…不安。
今回はもっさり顔が残念顔に変わって面白かった。

19区 お祭り広場
 監督:オリヴァー・シュミッツ
 出演:セイドゥ・ボロ
    アイサ・マイガ
刺されて倒れた男性と、それを介抱する新任救急隊員の女性。彼女には覚えが無くても、彼は彼女を知っていた…。
これについても監督、出演者共に知らない。
生活水準の低い移民の黒人男性と、パリ市民の黒人女性の感覚の違いが面白い。
血の付いた手に持つ二人分のコーヒーが悲しみを誘う。

9区 ピガール
 監督:リチャード・ラグラヴェネーズ
 出演:ファニー・アルダン
    ボブ・ホスキンス
歓楽街ピガールの風俗店で声をかけてきた女性と男性客の関係は…。
映画『ムーランルージュ』が好きで、一度は夜のきらびやかな姿も見てみたいけど、怖くて近寄れない“世界のエロ”満開なピガールの夜。
ファニー・アルダンの大女優オーラが、こんなに短いコメディーの中でも輝いて眩しかった。
彼女の前ではピガールのド派手なネオンも、ボブ・ホスキンスも添え物程度。
軽快なトークと短時間での二転三転に酔った気分。

8区 マドレーヌ界隈
 監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ
 出演:イライジャ・ウッド
    オルガ・キュリレンコ
ひと気の無い深夜の街角で、吸血鬼に遭遇した青年のとった行動とは…。
最もファンタジックで異様なエピソード。
それもそのはず、監督はヴィンチェンゾ・ナタリ。
“愛”をこんな風に歪んだ視点で表現するなんて。
イライジャ・ウッドは存在自体がファンタジー。
彼の映画のセルフパロディーと思われる演出も、この短い時間に詰め込まれている。
パンフレットを読んで知ったのですが、死体役は20区の監督ウェス・クレイブンなのだとか。

20区 ペール・ラシェーズ墓地
 監督:ウェス・クレイヴン
 出演:エミリー・モーティマー
    ルーファス・シーウェル
彼女の好きなコメディアンの墓を前にして、「ユーモアの無い人とは結婚したくない」と言われても、変わる気の無い堅物な男は…。
滅多にホラー以外を撮らないウェス・クレイヴン監督の貴重なラブコメ。
品を感じるユーモアのセンス溢れるラブストーリーは始めてでは?
ホリデイ』を観たすぐ後だったので、ルーファス・シーウェルの笑いを誘う表情を新鮮に感じた。
パンフレットを読むと、オスカー・ワイルドの幽霊役は14区のアレクサンダー・ペインなのだそうです。

10区 フォブール・サン・ドニ
 監督:トム・ティクヴァ
 出演:ナタリー・ポートマン
    メルキオール・ベスロン
盲目の青年が受けた彼女からの別れの電話。その瞬間彼女との思い出が走馬灯のように…。
日本では公開時期的に一番タイムリーな『パフューム』の監督作。
ピュアな青年が思い出すのは彼女との幸せな時と、自責の念。
純粋過ぎる所以の思い込みを描いている部分は『パフューム』と共通する。
天真爛漫で真っ直ぐな彼女を演じるナタリー・ポートマンがキュート。

6区 カルチェラタン
 監督:フレデリック・オービュルタン&ジェラール・ドパルデュー
 出演ジーナ・ローランズ
   ベン・ギャザラ
   ジェラール・ドパルデュー
長年別居生活をしてきた熟年夫婦が、婦人行きつけのレストランで始めたのは別れ話。
ここに来て、オービュルタン&ドパルデューの近代フランス映画らしいフランス映画。
長年体も心も離れていても、いざ別れ話となると複雑な心境。
二人の表情を観ていて、暖かい涙が溢れてきた。
故ジョン・カサヴェテス監督婦人と、彼女と共にジョン・カサヴェテス映画に縁のある俳優の夢の共演との事ですが、彼の作品をひとつも観た事が無くて残念。

14区 14区
 監督:アレクサンダー・ペイン
 出演:マーゴ・マーティンデイル
デンバーの女性が、念願のパリを一人旅。公園のベンチに座り、パリに居る事に幸せを感じていた彼女の頭に浮かんだ事とは…。
一人旅ならではの“勘違い”や“間違った認識”列挙が楽しい。
それでも面白くて辞められないんです一人旅。
異国で一人ぼっちだからこその非日常。
旅の恥はかき捨てと思ってはまた行く自分自身に重ねて観ていました。
寂しく感じる瞬間が有っても、お気楽旅行。
かなった夢をはかなく思うか、次に繋げるかは考え方次第ですね。

パンフレットを読んで思った事は、『パリところどころ』を観てないなんて大失態!
即クリック買いしましたともw
『パリ、ジュテーム』は是非ブルーレイで欲しい。

次はいつパリに行けるだろうか。
いや、次はシチリアの番か。
お願いですから長期休暇ください。



パリところどころ

紀伊國屋書店

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4 コメント

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一人旅☆ (パフィン)
2007-03-30 22:20:21
TBをありがとうございました♪
どの作品も味わいがありましたね~。
とても気に入った一本です。

>異国で一人ぼっちだからこその非日常。
私も一人旅が好きです。日常から離れたとき
五感がフル回転して、生まれ変わる感覚☆

シチリア島行きました。遠い!
パレルモの郊外の修道院(天井画と庭が素敵)、
アグリジェント(ギリシア遺跡)、モザイクの館、
そしてタオルミーナ(青い海を見下ろすリゾート)
素晴らしい旅でした。
春は強風で飛行機が飛ばないことがあるそうです。
交通の便が良くないため、自由時間があるツアーが最善かと・・。長々と失礼しました。
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シチリア!! (そーれ)
2007-04-02 15:09:12
>パフィンさん
良いですよねぇ一人旅。
いかにも観光客な感じじゃなく、地元の人たちと溶け込んでる(つもり)感で、日本じゃ有り得ないけど知らない人にこちらから話しかけたりかけられたり。
シチリア羨ましいです!
イタリアは、チケットだけ買って北から順に下りてくる感じで回ってて、8年前にナポリ、イスキア島までは行けたんですが、それから長期休暇が取れなくて全然行けてないんですよ(涙)
最低でも9連休は無いと辛いですね。
アマルフィ、アルベロベッロなんかにも行きたいなぁ。
シチリアだとローマから飛行機で1時間半でしたっけ?
イタリア語聞き取れないし、現地でチケット買って失敗するよりはツアーの方が安全そうですね。
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パリに行きたい! (kossy)
2007-07-14 23:39:01
いいなぁ~
俺も行ってみたい。
ずっと暇なので金さえあればぁ~~(汗)

実際に行ったことがあれば、それぞれの街の特徴も理解できて感慨深いんでしょうね~
返信する
こういう映画を観ると (そーれ)
2007-07-16 00:16:37
>kossyさん
長期休暇が全く取れないまま7年も経っちゃって、長いことヨーロッパに行けずにストレスたまりっ放しです(⊃д⊂)
当初の目標は毎年一回ヨーロッパ旅行とか、その内ローマに移住なんて思ってたんですが、もう若くないし移住は無理w
日本の良さにも目を向けなきゃなんて後で思ったりするんですが、どうも私はヨーロッパ派で、日本の文化よりもアッチのが気になるんですよねぇ。
分厚い石で出来た建物や石畳の良さったら…。
日本に帰ってくると、電車の窓から見える建物が薄っぺらく感じて悲しくなります。
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