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映画・演劇のレビュー

『その男の本、198ページ』

2010-10-27 20:35:31 | 映画
 『その男の本、198ページ』というタイトルはあまりよくないなぁ。もう少しロマンチックなタイトルの方がよかったのではないか。『リメンバーミー』のキム・ジョングォン監督最新作だ。最近ではこういうファンタジータッチのラブストーリー映画が韓国から来ることが少なくなった。以前はどんどん作られていたのに観客の嗜好が変わったのだろうか。あれは明らかに岩井俊二の『Love Letter』の影響だったのだろうが、一時期かなり大量に公開された、気がする。

 事故のショックで一部の記憶(恋人が死んでしまったこと)を失ってしまった男と、彼を助けて198ページに書かれた真実を探しだそうとする図書館司書の女を主人公にしたラブストーリーだ。優しくて、胸にしみる映画である。とりわけ風景が美しいのが気に行った。なんでもない街並み、図書館とその周辺の生活空間。そして、2人が旅に出る田舎の風景。そのどれもが魅力的だ。だが、お話自身の方はちょっと弱いからドラマの根幹に関わる部分で説得力を持たない。死んでしまった女と彼の間にあったドラマを描かないことで、それをきちんと感じさせることができていたなら、すばらしい映画になったかもしれない。そこは、この映画にとって一番大事な部分だ。彼の抱いた喪失感をどう表現したらいいのか。そのためにも主人公の造型を、もう少しリアルにして欲しい。でなければ、のめり込めない。ずっと喪服を着たままだとか、彼女が借りた本の198ページに書かれてある彼女の隠された謎に執着するとか、彼女に関する記憶のみを喪失したこととか。それらちりばめられたいくつかも要素がもっときちんと一つにならなくてはつまらない。オチも単純すぎるし。

 こういう映画は雰囲気がまず大事だが、それはお話がよくできていなくては成立しない。心地よく騙されるのが、大事だ。そのためには周到な準備がいる。嘘くさいと僕等が感じた瞬間にこの映画は失敗となる。残念である。


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