この映画が素晴らしい。自虐的な映画で、よくぞバート・レイノルズが引き受けたものだ、と驚く。でも、この映画は彼へのリスペクトに満ちている。描こうとすることの本質を見極めて、これを喜んで受け入れた彼は立派だ。そして、人生の最期にこの映画がある、という事実に驚く。遺作になるなんて、話が上手くできすぎている。
70年代から80年代にかけて一世を風靡したハリウッドを代表するスターが、この映画に主演する。80代になり、老いさらばえて、往年のアクション映画の大スターとしての面影もなく、偏屈な老人になった彼自身を思わせる男を演じる。だけど、映画を見終えたとき、とても心地よい感動がある。惨めな老人のお話ではない。自分の人生を精いっぱい生きた男の見事な晩年の姿がそこには描かれる。
これは個人的な映画として、ではなく、普遍的な映画だ。誰だって彼のように生きれたらいい、と羨ましく思うはずだ。映画の中で、イーストウッドやデ・ニーロが引き合いに出されるけど、彼らとは違う生き方をしたレイノルズの生きざまは立派だ。アクションスターであることにこだわり、マッチョでセクシーで、ノーテンキ。演技派男優にはならない生き方。この映画の主人公と重なる部分は多い。というか、これは彼を明らかにモデルにしているわけでが、彼自身ではない。これは映画という虚構の中でしか、成立しない。ドキュメンタリーでは不可能なバランスで成り立つ微妙な匙加減が素晴らしい。
先日NHKで、織本順吉の最期を綴るドキュメンタリーを見たが、役者ってほんとうに凄い。最期まで役者だのだ、ということを実感させられた。この映画とはまるで違うアプローチなのだけど、どちらにも心揺さぶられた。