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映画・演劇のレビュー

演劇集団よろずや『油小路の八人』

2010-01-31 20:29:46 | 演劇
 作、演出の寺田夢酔さんはこれを「幕末アクションホラー活劇」と呼ぶ。だが、よろずやである。ただのエンタメを目指したわけではない。どちらかというと、これは『オーマイリョーマ』の流れを汲む作品だ。まぁ、時代背景が同じだから、というのがその理由で、ジャンルとしてはコメディーとアクションと、まるで違うではないか、と言われそうだが、寺田さんの目指すものは共通している。単なるアクションではなく、どちらも幕末を舞台にして、混迷の時代の中で日本という国がどこに向かおうとしているのか、を描く。その方向性は同じだ。彼の真面目さがよく出ている。

 荒唐無稽な話なのに、気を衒うことのない落ち着いた描写で堅実な芝居を作る。ただのアクションにはならない。史実をベースに、実在する人物が遭遇するとんでもない出来事を、それなりにリアルなタッチで見せていく。だいたい新撰組にゾンビ軍団があった、だなんてめちゃくちゃな設定を用意してるのに、結構納得させるのだ。陰陽師の土御門がやってきて、妖術を使ったり、結界の中から逃げられないだとか、史実と絡めて、なかなか上手く話を作っている。

 但し、全体の構成があまりに単純過ぎて、事件に巻き込まれてからのノンストップアクションが単調になったのは問題だ。ただひたすら逃げ回るだけで話にそれ以上の仕掛けがない。絶体絶命の危機に対して、彼らがどう対処するのかがまるで描かれない。刀を使った切り合いだけでは、場がもたない。そう言うことだから、だんだん追いつめられていく様にもドキドキさせるものが生じない。

 日本の未来を賭けて正義のために闘う姿はかっこいいが、大義名分だけではない人と人とのつながりや、彼らの夢や理想がこのお話の中でちゃんと展開できていたなら、話に奥行きが生じたはずだ。御陵衛士たちのそれぞれのキャラクターがもう少ししっかり描き分けられていたなら、そこから新しい展開も可能だったはずなのに惜しい。これだけの大作なのである。このアイデアを生かしきるだけの台本が欲しい。

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