まさかの大ヒットらしい。公開前は興業が心配されていたようだが、よかった。これはよくある安易なTVドラマの映画版ではなく、大ヒットした2本のドラマ(『アンナチュラル』『miu404』)を作った監督の塚原あゆ子と脚本の野木亜紀子コンビが放つオリジナル企画だ。骨太なアクション映画を女性(満島ひかり)を主人公にして描くのが女性コンビという布陣。これは今まで日本にはなかったタイプの作品ではないか。
アクション映画と書いたが、実はこれはアクションではない。勝手にそう思い込んでいた。あの女性映画監督の草分けであるキャサリン・ビクローの傑作映画『ハートブルー』がアクション映画だったから。塚原あゆ子はキャサリン同様、従来の日本の女性映画監督とは一線を画す骨太な商業映画を作る。
これはテンポのいいサスペンス映画だ。転勤してきた満島ひかりが出社するシーンから始まる。最初から最後まで彼女がお話の中心にいる。彼女が何者なのかわからないけど、構わない。この施設の施設長として赴任してきた初日に連続爆破事件が起きる。彼女はこの難局にたったひとりで立ち向かう。結果的に彼女をサポートすることになる岡田将生との距離感もいい。つまらない恋愛(感情)にはならない。彼女の存在自身が謎のまま話はどんどん進展していく。僕たちはただ彼女だけを見守ることになる。(僕と岡田将生)
ふたりのいる巨大な配送センターが舞台になる。圧巻である。まるで『帰れマンデー』の地方にあって行列が出来る工場みたいなシーンから始まる。ここに働いている社員の出社風景である。これだけの施設を管理するのはほんの一握り(7人、とか言ってたような)の社員だけ。ここで働いているのは何千人にも及ぶ大多数の人たちはすべて非正規雇用者たちである。この冒頭の彼らが出社してくるシーンは凄い。それぞれの持ち場に入り機械が動き出す。
ここから配達された荷物が爆発する。連続爆破犯を追う。物流業界を背景にして、事件と関わる人たちの群像劇になっている。単純な犯人捜しではなく、爆発物撤去でもない。例えば、配送業をする火野正平の父親と、会社が倒産して今は父の助手をしている宇野翔平の息子。(このふたりが親子!)一日中トラックで配送先を回る。そんなふたりのエピソードがいい。この社会を底辺から支える大多数の人たちをふたりに象徴させる。
映画は2本のドラマともリンクしている。それぞれのドラマのメインキャストが登場してのエピソードもある。特別ゲストとしてではなく、このドラマ世界にさりげなく取り込まれている。
他にもさまざまなエピソードが挟み込まれているが、あくまでも中心は満島ひかりである。しかも事件の謎解きではない。犯人は女性で満島は彼女を救うことが出来なかった。その事実が何を意味するのかは映画を見て考えて欲しい。これは、流通業界を通してこの世界がどうなっているのか、改めて考えさせてくれる社会派映画でもある。