音楽にこんがらがって

音楽制作を生業としている加茂啓太郎の日常

浅川マキさんの事

2010年01月18日 | 音楽
東芝EMIに入社した時、新人プロモーターの僕は「本当の浅川マキは理解されていない!」と憤り、一生懸命プロモーションしました。

マキさんに初めて会ったとき「面白い新入社員が入ったって聞いてたから」と言われて少し嬉しかったのを思い出します。

六本木のお宅にお邪魔して深夜(早朝)まで酒も飲まず、どういう音楽が素晴らしいのか(一拍の深さについて)どういうミュージシャンが素晴らしいのか(曲を小節で数えるのは二流)など教えてもらいました。
マキさんはジャズ(時には美空ひばり)のアルバムをかけて、「このフレーズのタイム感の素晴らしさは加茂さんは分かる?」と教えてくれました。

ベテランも新人も関係なく良くないものは良くないと言い、良いと思った物は褒める姿勢、自分もこうありたいと思いました。

僕もマキさんが知らないであろうアルバムを持っていって聞いてもらいました。
あぶらだこを聞いてもらった時「こんなブレスの深いボーカルは滅多にいない」と絶賛してくれて、ライブまで見にいった彼女は「帰って来い、あぶらだこ」と歌いました。

小沢健二を聞いてもらったときは「歌が下手と言われると思うけど、このボーカルは実はすごい、サウンドは悪くないけどベースが少し残念だ」と言われました。ナンバーガールのアルバムを聞いてもらったの事もありました。感想は記憶にないのが残念です。

大晦日も池袋の文芸座で何度もすごしました。

一本の取材も徹底的にこだわるマキさんの現場は大変でしたが、自分をいかに誤解なく伝えたいかという迫力には圧倒されました。

良いギターはいないかと相談されてルースターズの下山淳さんを紹介したら「彼は世界レベルだよ、山内テツとやろう」と言って実現したライブは今も耳の中で鳴ります。

書けないエピソードは数限りないです。
正直面倒くさいと何度も思った事は何度もありました。でも、自分を削ってもかける、そのこだわりの強さ、音楽への誠意には何度も襟が正されました。「アンダーグラウンドでいる事がどれだけ大変か分かる?」と言われたときは心が震えました。

去年の年末の新宿ピットインのライブを久しぶりに行こうと思っていたら志村君の訃報などもあり行けなかったのが悔やまれます。

こんな本当の「歌」が歌えるボーカリストは滅多にいないと思います。
これだけ音楽のために一切の妥協をしないアーティストを僕は他に知りません。

ご冥福をお祈りしたいと思います。