都電・早稲田駅
[不滅の都電荒川線・早稲田駅]
何てステキな駅なんだろう。
いつ観てもそう思う。
東京に唯一残る都電荒川線の始発駅というか終着駅というか、その栄光の早稲田駅はパセオから徒歩15分のところにある。
もう一方の終点三ノ輪駅も、これが下町情緒たっぷりの郷愁ステーションなのだが、これはまたの機会にご紹介したい。
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その昔パセオが文京区本郷から今の高田馬場へ引っ越してきた当時、私はまだ30代半ばで、あの頃はほんとに忙しかった。
毎日15時間は仕事だったし、フルに休めたのは正月の三ヶ日くらいのもので、おまけにその三日間は風邪などで寝込むパターンがほとんどだった。
だがしかし、そうしたチョー多忙の反動は必ずやってくるものなのである。
私の場合のそれは、「突然の蒸発」という形でやってきた。
ある日の昼下がり、外で食事を済ませた私は、何の気なしに都電通り(新目白通り)をぶらつく。
運転手になりたかった位に大好きな都電が私を追い越す。
その後を追うように歩いてゆくと、そこは終点早稲田駅だ。
出発前の三ノ輪行きの都電がひと息いれている。
まるで彼がおいでおいでをしてるように私は感じる。
で、後先考えずについフラフラッとそれに乗り込む。
運転席の後ろに立ち、進行方向の懐かしい情景にただひたすら見とれる。
荒川線の沿線というのは、昭和の下町風景みたいなところがたくさん残っていて、ノスタルジックな逃避気分を盛り上げるには最高のシチュエーションなのだ。「オールウェイズ~三丁目の夕日」状態である。
ふと気づけば、「次は終点、三ノ輪、みのわー」である。
明るい内から飲ませる店にプラッと入り、放心状態のまんまビール焼き鳥で一人酒盛りを始める。
で、いい気分になったところで、三ノ輪駅からふたたび早稲田行きの都電に乗り込む。
不思議なことにこの段階でもうストレスはふっ飛んでいる。
すっかり楽しい気分になっている。まるで多幸症のようだ。
桜の名所飛鳥山で途中下車して、飛鳥山公園を散歩しながら酔いを冷まし、ベンチで一服してから三たび都電に乗り込み、すっかり元気にパセオへと戻る。
この間およそ四時間ぐらいか。
ささやかな反動、半日の蒸発である。
ケータイも持たない時代のことで、最初の蒸発の時は社内でひと騒ぎあったようだが、以後は何となく公認された感じだった。
ま、年に二、三度ぐらいのことだったしな。
いまにして想えば、この「ぶらり都電の旅」はある種私の命綱だったのかもしれない。
やろうと思えば、今なら毎日でも出来ることだが、そんな必要もないので、さすがにこの数年は一度もやってない。
だが、こうしてしみじみ早稲田駅を観るたびに、あの蒸発が至福のひと時だったことを妙に懐かしく想い出すのだ。
「人生いたるところ青山あり」なのであった。
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