弓塚さつきがタタリと交戦を始めた頃。
アルクェイドと秋葉に散々絞られた遠野志貴は再度眠りについた。
いつもなら無理をしてでもタタリの捜索に行って行くところであったが、
シエル先輩の安静するようにとのお願いに従い、眠りについていた。
アルクェイドと秋葉はそれぞれタタリの捜索に出ており、
ゆえに今部屋にいるのは志貴のみ、寝息だけが部屋の中で小さく音を立てていた。
そんな中、静かにドアが開かれる。
するりと忍び寄るように人影が部屋に入る。
人影はゆっくりとベットで眠る志貴の元へ近寄る。
やがて、枕元まで来た人影は何もせずじっと眠れる王子を見た。
直ぐそばに人が立っているにも関わらず志貴は相変わらず寝息を立てて寝ている。
これだけなら、何ともない事実であるがしばらくその姿を見ていた人影は、ふと違和感を覚えた。
人影は人より遥かに優れた頭脳を回転させ、その違和感について考える。
解答は直ぐに出た、そうあまりに静かなのだ。
魔術で自己暗示による精神洗浄をしているならともかく自然の眠りにしては生気がない。
志貴の眠りはまるで、
「まるで死体のようですね、貴方の眠りは」
そうシオン・エルトナム・アトラシアが感想を呟いた。
そして、そっと手を志貴の頬を撫で、エーテライトを接続し志貴の体調を見る。
傷は回復傾向にあるが体温は平均より低く、心拍数も少ない。という解が直ぐに頭脳にはじき出された。
「よかった」
その結果にシオンは思わずそんな言葉を発し、
刹那、自分の口から出た言葉の内容に動きを止めた。
何故ならシオン・エルトナム・アトラシアが、
他人を気遣ったような経験は、今は亡き友人であるリーズバイフェ以来だ。
アトラス院にいたころは他人に対して全て無関心で、
ここ最近は教会とアトラス院から逃げる日々であったためそうした余裕は一切なく、
加えて言えば、タタリを追うことのみで他人に興味関心を持つという発想自体まったくなかった。
それがどうだ?
たった今他人を気遣った。
それも初対面は殺しあった人間だ、おまけに異性だ。
何がシオン・エルトナム・アトラシアにこのような行動に移させたのか?
遠野志貴の異能の希少価値?
たしかに研究材料として魅力的であるが解に合わない。
何故ならその眼だけを奪う隙はあったはずだがしなかった理由が見つからない。
タタリ打倒のための協力者であるから?
それはあるかも知れないが、何故遠野志貴なのか?
協力者ならば真祖に代行者、吸血鬼と選択肢は複数あったはずだ。
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