おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「白銀ジャック」 東野圭吾

2011年01月06日 | は行の作家
「白銀ジャック」 東野圭吾著 実業之日本社文庫 

 さすがベストセラー作家。そつなく上手い。私にとっては、久々のページターナーで3時間一気読みでした。

2010年10月に創刊した実業之日本社文庫創刊の第一弾の目玉中の目玉とあって、ハードカバーでも売れる作品を、いきなり文庫にしてしまった心意気に感服致します。他の出版社の皆さまも、読者は、いつでも「いきなり文庫化」大歓迎ですよ~!

 「ハイジャック」ならぬ「白銀ジャック」。つまり、スキー場を丸ごと人質にとってしまおうというストーリー。ゲレンデの下に爆弾を仕掛けてあり、大規模な雪崩を起こすという。犯人は爆弾を起動させないために「3000万円」という微妙な額を要求してくる。スキー場や付属のホテル・レストランなどを何日にも渡って営業停止にすることを考えれば、3000万円で犯人と取引できるのであれば安いものと-経営者なら考えるわけだが…。

実業之日本社文庫のウェブサイトで著者本人が「いろいろ推理するだろう 残念ながらすべてはずれている」とうそぶいている。なるほど、ベストセラーになるためにはこういうサービス精神が必要なわけなのですね。ストーリーには、いろいろと、臭う仕掛けが散りばめて「あっ、こいつ怪しいな」「多分、この男が裏で糸ひいているんでしょ」と読者に推理する楽しさを提供しつつ、予定調和的に、その推理からヒョイとハシゴを外して読者に騙される楽しさも提供してくれる。一度ページを開くと、もう、「やめられない、止まらない」状態です。

ただ、結末は、かなり陳腐な印象。「えっ~、そんな重大なことをあっさり告白しちゃうの?」「妻が死んでいるというのに、簡単に水に流していいの?」とツッコミたくなるところは山のようにあるのですが…。なにしろ、ベストセラーエンタメなのです。深く考えず、軽~く読み流せるところにこそ醍醐味があるだろう-と自ら、深追いを戒めました。

ところで、出版不況のさなか、なぜ実業之日本社は文庫を創刊したのだろう? 2010年の売れた本ベスト25を見ても、文芸書は村上春樹ぐらいで(もしかして、「もしドラ」って、文芸書?)、ほとんどがダイエット本とか、ハウツー本とか、ビジネス書っぽいのとか…。さらに2011年は「電子書籍元年」などと言われていて、これから、文庫で小説を読む人なんて絶滅危惧種になるんじゃないか…と思うのですが。

とはいえ、「白銀ジャック」は2010年10月発売で既に100万部突破。出版不況でも、売れる本は売れるんですねぇ。


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