おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「RUN! RUN! RUN!」 桂望実

2011年01月19日 | か行の作家
「RUN! RUN! RUN!」 桂望実著 文藝春秋社 11/01/19読了 
 
 「嫌な女」がメチャチメャ面白かったので、桂望実again―と思ったのですが、これは駄作だなぁ。人物設定が甘いし、肝心のところを書き込まずに「そして、12年後」みたいなずるいタイムワープ使っていて好感が持てなかった。

 新設大学の陸上部を舞台に、箱根駅伝をテーマにしたストーリー。というと、三浦しをんの「風が強く吹いている」(新潮社)を彷彿させるが…「RUN! RUN! RUN!」の主人公である優はかなりイヤなヤツだ。

 恵まれた家庭に生まれ育ち、何不自由なく陸上に打ち込み、高校時代から抜群の成績で注目され続けてきた選手。かつて箱根駅伝の2区を途中棄権した父親が叶えることができなかった夢を背負い、箱根駅伝の区間記録達成、ゆくゆくは五輪選手となることを目標としている。

 才能があるのだから特別扱いされて当たり前―という協調性マイナス圏の超自己チュー男が、自らの出生のヒミツに疑問を持つようになったことをきっかけにして少しずつ大人になっていく。そして、不本意ながら補欠選手のサポートに回ったことをきっかけに、チームワークとは何か、仲間に支えられるとはどんなことなのか―遅ればせながら学んでいく。

 こんなふうに書くと、とってもいいストーリーのように聞こえるが、なにしろ、この主人公の冷血無比ぶりがあまりにも現実離れしすぎていて、リアリティがないのです。もちろん、駅伝に限らず、トップアスリートになる人はどこかしらナルシストな側面を持っていると思う。でも、幼少期から厳しい練習を積んできたトップアスリートたちは、大人になるまでの間に集団行動やチームワークを徹底的にたたき込まれているので、本心はともかくとして、ここに描かれていた優ほど血の通わない行動を取ることは考えられない。

 それほどエキセントリックに優を描いておきながら、「そして12年後」になると、なぜか、とってもいい人になっているのが唐突な印象だった。優が血の通う人間になったのならば、それはそれで結構なことです。だとしたら、優が変わっていく軌跡こそが「物語」なんじゃないかと思うのです。 優とそのファミリーのエキセントリックぶりに軸足を置きすぎて、肝心の物語は「そして12年後」でお茶を濁した印象。 物語の重心を置く位置を変えるだけで、すごくステキなストーリーになったのではないかと思います。