おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

良弁杉由来 & 鰯売恋曳網 @ 国立劇場

2010年09月12日 | 文楽のこと。
良弁杉由来 & 鰯売恋曳網 @ 国立劇場 9月文楽公演

 「昼寝に6500円お支払い」というぐらいに、ひどく爆睡してしまいました。

「良弁杉」は特に辛かった。楽しかったのは「桜宮物狂いの段」ぐらいでしょうか…(それでもちょっと寝ました)。清治さん率いる三味線軍団と、呂勢さん&咲甫さんの浄瑠璃が華やか、かつ、フレッシュ感があってちょっとテンション上がりました。やっぱり、清治さんの三味線の音は、切れ味鋭くてステキ。そして、清治さんの隣に座っている清志郎さんは、まぎれもなく、「清治さんの音」の継承者なんだなぁ-と感じます。

フィナーレの「二月堂の段」は、完全に、沈没。「あ~、この調子っぱずれ、どうにかならないかなぁ」「なんで、三味線がこんなに唸っているんだろう…」などと思いながら聞いていると、まるで、物語が頭の中に入ってこない。というか、ストーリーは知っているのに、全然、浄瑠璃が心に響かない。もしかして、会場で何人か泣いている人がいたようで、ちょっと鼻をすするような音が聞こえてきた時には「私は、こんな程度では泣けないよ」と冷めた気持ちになりました。

途中、何度も沈没してハッと目が覚めるたびに、大夫の床本をチラリと確認。「まだ、半分以上残っている…。早く、終わんないかなぁ…」と再び眠りの世界へ。

実は「良弁杉」は、2008年春に、女流義太夫の人間国宝・駒之助さんと文雀さん和生さんグループのイベント公演がありました。その時は、まだ、文楽を見始めたばかりで、浄瑠璃を聴きとれない部分もたくさんあったと思うのですが… それでも、駒之助さんの語りはストレートに心に響いてきて、「良弁杉」の親子の情愛が痛いほどに伝わってきました。そして、私なりに、駒之助さんの語りが、完全に人形を喰ってしまっているなぁ…と思ったのでした。

今回の公演での床は、まるで、駒之助さんのような迫力も熱い思いもなく(それ以前に調子っぱずれだし…)、人形もなんかなぁ…。良弁よりも簑紫郎さんの僧侶の方が、哀しみがにじみ出ていたように見えてしまいました。

「鰯売恋曳網」。三島由紀夫原作の作品として、今回の公演の話題の一つ。もともと、歌舞伎ではよくかかる演目らしいのですが、文楽公演としては初上演。傾城に恋をした鰯売りが、大名に化けて傾城に会いにいく-という物語。肩の凝らない、気楽なアミューズメント作品でした。咲甫さんの浄瑠璃、とっ~ても楽しかった。もともと咲甫さんの声は大好きですが、直前の「良弁杉」の調子っぱずれでイラ立っていたせいか、いつも以上にウキウキしました。そして、勘十郎さまの人形が、秀逸。人形ではなくて、猿源氏という鰯売りが、本当に、そこにいるかのよう…。

…と断片的には楽しめましたが、「新作」の存在意義は、「古典作品」の素晴らしさを再認識するためのもののような気がします。やっぱり、300年、400年熟成させた作品の重さは違うよなぁ。というわけで、後半の咲大夫さん&燕三さんの床のところは、半分ぐらい寝ていたかも。

今公演、圧倒的に2部(阿漕&桂川)が素晴らしくて、6500円以上の価値あり。かたや、1部(良弁杉&鰯売)は、お昼寝するのに6500円は高すぎ-という気分。これは、国立劇場のプログラムミスなんじゃないでしょうか…。


4 コメント

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ドナルド・キーン (バンビ)
2010-12-05 23:25:26
オリオンさん 今晩は。先日大阪で「文楽の夕べ」という催しがあり、住太夫さんとドナルドキーンの対談がありました。私はチケットをゲットしたものの、都合により行けず友人に代わりに行ってもらいました。ドナルド・キーンは
まだ文楽をみたこともない若いころ、「文楽では人形遣いが観衆に姿を見せながらも観衆の注意を人形にむけるマジックを使い自分たちの姿を主観的には消すことに成功した」というような文章をみていったいどういうことかと興味を持ったようです。確かに私も文楽を見始めたころは、なんてたくさん舞台に人がいるのだろうと思いましたが、熱中しているとき「あれっ人形遣いの人たちの存在が気にならなかったな。不思議だな~」と思ったことがあります。芸を磨くことによって自分の存在を消すことに成功するというのは・・なんかすごいなぁ。と改めて文楽の魅力再発見みたいな気分でおります。
ドナルド・キーンの文楽に関する著作を読み込み、初春公演にのぞむ所存です。しかし外国人でありながらここまで文楽はじめ日本文化の探求をしているドナルドキーンという人物もすごすぎます!!(大興奮!!)



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文楽ファンの (おりおん。)
2010-12-06 13:03:33
バンビさん、こんにちは。コメントを有難うございました。ほんと、文楽って不思議ですよね。私は、ついつい好きな出演者さんの顔を追ってしまうのですが…でも、物語に入り込んでいくと、ある瞬間、人形しか見えなくなっているのです。
 
 私は、12月5日に東京で文楽公演の初日に行ってきました。「鑑賞教室」のため、たくさんの外国人の方もお見えになっていました。ドナルド・キーンさんをはじめ、外国人でも文楽の面白さを評価して下さる半面、日本人でも文楽未体験の人がいるのは、なんか、とっても残念だなぁと思います。私は、結構、友人を誘ったりしているのですが「え~、なんか、難しそう」と二の足を踏む人が多いのです。

 ぜひ、もっとたくさんの人に文楽の面白さを知ってもらいたいなと思います。

 私は新春公演には行けないかもしれませんが、ぜひぜひ、お楽しみ下さい!

 
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初春公演 (バンビ)
2011-01-16 22:21:20
オリオンさん こんばんは。本日二部の公演をみてきました。中将姫の「ひばり山姫捨松」、「傾城恋飛脚」ともそれぞれよかったのですが、「小鍛冶」の稲荷明神を遣われた勘十郎様にはもう参りました。舞台の空気も浄化させてしまうような凄さ!三輪太夫さん、文字久の太夫さんの声も高らか、一時別次元にスリップしてきました。不思議なエネルギーをもらえた気がします。
オリオンさんのコメントを楽しみにしているのですが・・・

文楽歴1年になりますが、文楽ってホントに楽しいですね。

文楽ゆかりの地、本日の公演でいえば中将姫の
当麻寺や、近松門左衛門のお墓参りなど行きたい場所も色々でてきました。

これも文楽との縁を作ってくださいましたオリオンさんのブログのおかげです。これからもコメント楽しみにしております。

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うわ~、羨まし! (おりおん。)
2011-01-17 21:51:31
バンビさん

 こんばんは。コメントありがとうございました。「舞台の空気を浄化させてしまうような凄さ」の一言が突き刺さりました。
 私、新春公演は、日程的にどうしても行けそうになくて…。スッキリ諦めていたつもりでいましたが、でも、バンビさんのコメントを拝見したら、「ああ、行きた~い。勘十郎さまのお人形ちゃんに会いたい」と思いが募ってきてしまいました。羨ましいです。

 でも、しばらく大阪には行けそうにないので、バンビさんからのご報告を楽しみにしています。
 
 私は、今はひたひら東京での2月公演を心待ちにしております。

 それでは、また。 

 

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