おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

文楽12月公演 @ 国立劇場

2010年12月19日 | 文楽のこと。
由良湊千軒長者&本朝廿四孝@国立劇場

【由良湊千軒長者】
 「難しげなタイトルだが、安寿と厨子王の物語である」。-とサラリと書いてはみたものの、実は「安寿と厨子王」がどんなストーリーだったかなんて、まるで覚えていません。森鴎外の「山椒太夫」も読んだような、読まなかったような…まことに胡乱であります。

 鑑賞ガイドによれば、三荘大夫(=山椒太夫)のもとに売られた安寿と厨子王が虐待されながらも、いつも父母を思ってけなげに働き、励まし合って生きていくという物語-だそうだ。ストーリー自体は単純でわかりやすいのですが、逆に言うと、何の展開もなく、面白味がない。景気も悪いし、政局も混迷しているし、せめて、舞台の上ではシミッたれた現実をしばし忘れられるようなanother worldを見せてもらいたいなぁ…。
 
 話の本筋からは外れますが、観ていて気になったのが厨子王の幼児言葉だ。厨子王の人形はちょっとイケメンな若者風だった。年の頃で言えば15~16歳といった感じだろうか。ところが、語りは7つ8つの子どものような口調。人形拵えと浄瑠璃とのギャップが激しすぎる。イケメンが舌ったらずな幼児言葉でしゃべるのは興醒め-と感じるのは、私だけじゃないハズ。浄瑠璃が正しいのであれば、人形は、もうちょっと子どもらしく作ってほしかった。


【本朝廿四孝】
 廿四孝と言えば「十種香」「奥庭狐火」が繰り返し上演されていて、初心者の私でも既に、複数回見ている。恋に狂う女の狂気が溢れ出る簑師匠の八重垣姫は、何度見ても、見応えがある。

 今回の「桔梗が原の段」「景勝下駄の段」「勘助住家の段」は、八重垣姫登場の前段に当たる部分で、武田家と上杉家の間での名軍師・山本勘助争奪戦を描いたもの。新聞の劇評などでやたらと「難解な物語」と書かれているし、上演回数が少ない演目のためにネット検索しても予習資料が十分に集めることができず、撃沈覚悟で臨んだものの…意外や意外、見応えたっぷりでめちゃめちゃ楽しめました。

 確かに、単純明快すぎる「安寿と厨子王」とは対象的に、いかにも、文楽チックな錯綜したストーリーで、3分に1回はツッコミを入れたくなるぐらいに突飛な展開。

 主人公である横蔵(玉女さん)と慈悲蔵(勘十郎さま♪)兄弟が父の名跡である山本勘助の名と奥義の軍法書を巡って激しく火花を散らす。慈悲蔵はいじらしいほどに母に尽くし、父の跡を継ぎたいと必死にアピールする。母親からイヤミを言われようが、ダメ出しされようがへっちゃら。「川には魚がいるのだから、それを獲ってくるのはガキでもできる。不可能を可能にしてこそ、本当の親孝行。雪山でタケノコを掘ってきて食べさせてくれ」と、「イジメ」のような言い付けにも必死に従おうとする。

 しかし、しかし、そこまでしておきながら、物語の終盤で「実は、慈悲蔵は上杉(長尾)方の家臣・直江山城之助だったのです」と突然のカミングアウト。しかも、そのことをこっそり母親だけに打ち明けていたという。その上、兄の横蔵が長尾景勝に顔立ちが似ているという理由で、慈悲蔵と母親は示し合わせて横蔵を景勝の身代わりとして殺そうとしていたのです。とすると、「いったい、何のために慈悲蔵を虐待していたの???」と疑問が湧いてくる。

さらに驚いたことに、兄の横蔵は以前から武田信玄に仕えていたそうだ。いくら対立する兄弟とはいえ、それぞれ、敵対する武将に仕えていたことにお互い気付いていないなんて、戦国武将としては、あまりに察しが鈍すぎるんじゃないか?

 さらに、横蔵が慈悲蔵夫妻に育てさせていた赤ん坊の次郎吉は、実は、将軍・足利義晴の忘れ形見ということも明らかになる。「そんな大切な預かりものを、対立している兄弟に渡しちゃっていいわけ???」と、またまた、素朴な疑問が湧いてくるが、いちいち、立ち止っていると頭が混乱するので、あまり深く考えずにスルーしておく。

 話は前後しますが、この演目は、横蔵の子どもである次郎吉(=実は将軍の忘れ形見)を養育するために、慈悲蔵が泣く泣く、わが子峰松を桔梗が原に捨てにいく場面から始まります。未だ、横蔵・慈悲蔵の間で山本勘助の跡目争いが決してもいないのに、なぜか、峰松に「山本勘助」の名札がついているという意味不明の設定。山本勘助の縁ある子どもということで、武田家と上杉家の赤ん坊争奪戦が始まるのですが…よくよく考えてみれば、慈悲蔵は上杉方の家臣なのだから、こんな無意味な争いが起こらない方法を考えられなかったのだろうか? -という疑問はさておき、最初の見せ場は、リトル・勘助をめぐる女たちの代理戦争。武田方の唐織と上杉方の入江の言い争いはなかなか見応えあり。勘弥さんが遣われる品格ある女性は気の強そうな雰囲気が出ていて、カッコイイ。

 慈悲蔵の妻・お種が、雪の降る門口に置きざりにされたわが子・峰松と、横蔵から託された次郎吉とが同時に鳴き声を上げ、どちらを抱き上げて乳をやるか心乱す場面が切ない。やっぱり、清十郎さんは圧倒的に、女形を遣われているのがしっくりくる。もちろん、勘十郎さまも、相変わらず素敵でした。慈悲蔵が登場してくるだけで、舞台の上の空気が変わるような気がする。背筋がスッと伸びた立ち姿がゾクゾクするほどカッコよかった。

 そして、なんと行っても、床が素晴らしい!!! 人間国宝不在の月ながら、聴きごたえたっぷりでした。錯綜したストーリーでもこれだけ楽しめるって、やっぱり、「床」の力です。特に、呂勢&燕三のコンビにはうっとり。呂勢さんの伸びやかな声に、燕三さんの重めの音がよく合っていました。 津駒&富助もボリューム感があって情を語る場面にピッタリ。人間国宝のおじいちゃま方の至芸も魅力的ですが、脂が乗った世代のエネルギーとエネルギーがぶつかりあう感じもまた心に響いてきます。簑師匠や清治さんを見ることができないのは残念でしたが、ても、次世代の胎動を感じて満たされた公演でした。
 

1 コメント

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Unknown (cota)
2010-12-21 18:15:17
ご無沙汰です。
ホント、床は良かったんですよね。呂勢大夫燕三も
津駒大夫富助も12月ならではのコンビで。
でも私はちんぷんかんぷんの筋に気を取られて楽しめませんでした。
つし王は私も全く同じく思いました。
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