「嫌な女」 桂望実 光文社 2010/12/28 読了
「男をその気にさせる天才」「すべての女を敵に回し、自由に、奔放に、したたかに生きる」。帯にあったコピーを見て、ふと思い浮かんだのは、今年の社会面を彩った木嶋佳苗容疑者でした。
連続殺人事件が話題になり始めた時「こんなに次々と男をカモにしちゃうなんて、どんな絶世の美女なんだろうか?」と勝手に想像力を膨らませていました。ところが、いざ、週刊誌に写真が出てみると「えっ~なんで、みんな、こんな十人並みのパッしないおばちゃん(といっても、私より若いけど…)に引っかかっちゃたの???」と不思議に思ったのは、私だけではないですよね???
でも、彼女には、若さや、いわゆる世間一般的な美しさとは別の次元の魅力があったのだろうなと思います。詐欺・殺人という救いようもないことをしてしまったことは許されざることですが、それでも、何人もの男性を惹きつけ、信じ込ませ、財布を開かせるには、それなりのパワーが必要なハズなのです。
『嫌な女』の夏子も特段の美人というわけでもなく、性格も捻じれているというのに、なぜか、いつも、男をカモにしてカネを巻き上げる不思議な才能と魅力を持っている。次々と手口を変え、人の善意につけ込み、その上、自分が悪いなんてこれっぽっちも思っていない。最初は、夏子のネガティブ・パワーに触れてしまって、ちょっと負けそうな気分になりました。
でも、実は、この物語の本当の主人公は『嫌な女』・夏子ではなくて、夏子の遠縁にあたる徹子という女性弁護士なのです。
小さな子どもの頃から、70歳を過ぎるまで、徹子は夏子に振り回され、翻弄され続けるのですが、それでも、なぜか、徹子は夏子を嫌いになることができない。
物語は、徹子の目から、男をカモにし続ける夏子の魅力を解き明かしていくように進行していく。たとえウソであっても、ほんの一瞬でも「あなたに会えてよかった」「あなたの人生は幸せだった」-と誰かに言ってもらいたい-多く人が胸のうちにそんな弱さを抱えていて、そこにつけ込んでしたたかに逞しく生きたのが夏子。詐欺師ではあるけれど、でも、夏子は、確かに、ある一瞬、騙す相手を幸せな気分にさせてあげていた。
かたや徹子はそんな弱さと孤独に向き合い、誰かにつけいられる隙を見せることもなく、自分から甘えることもなく、淡々と、でも、逞しく生き抜いた。
徹子が年老いていく様子が、切なくも、清々しく、「私も、こんなふうでありたいな」とちょっと思ってしまいました。
小説誌連載中のタイトルは「いつだって向日葵」だったそうです。そのタイトルだったら、きっと、手に取ることはなかっただろうなと思います。「嫌な女」の方が500倍ぐらいしっくりきます!
ちなみに作者の代表作「県庁の星」は、織田裕二主演で映画化されそこそこヒットしましたが… 「嫌な女」も映画化したくなるような作品。 小説を読んでいる時「あと50ページ圧縮したらスッキリとした作品になるのに…」と思うことが多いのですが、「嫌な女」はちょっと物足りなく感じるぐらいのある種の大河ドラマでした。
「男をその気にさせる天才」「すべての女を敵に回し、自由に、奔放に、したたかに生きる」。帯にあったコピーを見て、ふと思い浮かんだのは、今年の社会面を彩った木嶋佳苗容疑者でした。
連続殺人事件が話題になり始めた時「こんなに次々と男をカモにしちゃうなんて、どんな絶世の美女なんだろうか?」と勝手に想像力を膨らませていました。ところが、いざ、週刊誌に写真が出てみると「えっ~なんで、みんな、こんな十人並みのパッしないおばちゃん(といっても、私より若いけど…)に引っかかっちゃたの???」と不思議に思ったのは、私だけではないですよね???
でも、彼女には、若さや、いわゆる世間一般的な美しさとは別の次元の魅力があったのだろうなと思います。詐欺・殺人という救いようもないことをしてしまったことは許されざることですが、それでも、何人もの男性を惹きつけ、信じ込ませ、財布を開かせるには、それなりのパワーが必要なハズなのです。
『嫌な女』の夏子も特段の美人というわけでもなく、性格も捻じれているというのに、なぜか、いつも、男をカモにしてカネを巻き上げる不思議な才能と魅力を持っている。次々と手口を変え、人の善意につけ込み、その上、自分が悪いなんてこれっぽっちも思っていない。最初は、夏子のネガティブ・パワーに触れてしまって、ちょっと負けそうな気分になりました。
でも、実は、この物語の本当の主人公は『嫌な女』・夏子ではなくて、夏子の遠縁にあたる徹子という女性弁護士なのです。
小さな子どもの頃から、70歳を過ぎるまで、徹子は夏子に振り回され、翻弄され続けるのですが、それでも、なぜか、徹子は夏子を嫌いになることができない。
物語は、徹子の目から、男をカモにし続ける夏子の魅力を解き明かしていくように進行していく。たとえウソであっても、ほんの一瞬でも「あなたに会えてよかった」「あなたの人生は幸せだった」-と誰かに言ってもらいたい-多く人が胸のうちにそんな弱さを抱えていて、そこにつけ込んでしたたかに逞しく生きたのが夏子。詐欺師ではあるけれど、でも、夏子は、確かに、ある一瞬、騙す相手を幸せな気分にさせてあげていた。
かたや徹子はそんな弱さと孤独に向き合い、誰かにつけいられる隙を見せることもなく、自分から甘えることもなく、淡々と、でも、逞しく生き抜いた。
徹子が年老いていく様子が、切なくも、清々しく、「私も、こんなふうでありたいな」とちょっと思ってしまいました。
小説誌連載中のタイトルは「いつだって向日葵」だったそうです。そのタイトルだったら、きっと、手に取ることはなかっただろうなと思います。「嫌な女」の方が500倍ぐらいしっくりきます!
ちなみに作者の代表作「県庁の星」は、織田裕二主演で映画化されそこそこヒットしましたが… 「嫌な女」も映画化したくなるような作品。 小説を読んでいる時「あと50ページ圧縮したらスッキリとした作品になるのに…」と思うことが多いのですが、「嫌な女」はちょっと物足りなく感じるぐらいのある種の大河ドラマでした。