おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「県庁おもてなし課」 有川浩

2011年09月29日 | あ行の作家

「県庁おもてなし課」 有川浩著 角川書店11/09/27読了 

 

これは…もしや…有川浩の新境地ではないか!? 「軍事オタク系」「ベタ甘純愛系」に加えて、「政策小説」が有川浩の3本目の柱になるかも…と感じさせる思い入れと気合いが伝わってくる1冊。サクサク読めるページターナーなのに、しっかりとした読み応えもあり。そして、読み終わると、ちょっと元気になれます。

 

舞台は高知県庁。「観光立県目指して、おもてなしの心で、県外からの観光客をお迎えしよう」― というかけ声のもとに作られた「おもてなし課」。しかし、いったいどうすれば観光客が来てくれるのか。それが思いつけないから、全国の史跡や温泉は観光客の減少に打つ手もなく苦しんでいるのだ。

 

で、「おもてなし課」が最初に取り組んだのが、高知県ゆかりの有名人を「観光特使」に任命して、知り合いに名刺を配って、高知県の存在を宣伝してもらうこと。おもてなし課の掛水史貴クンは、高知県出身の売れっ子作家・吉門喬介に「観光特使」への就任依頼の電話を掛けて、いきなり「他の自治体もみんなやっていることのマネだよね」「特使になってもいいけど、そんなことして、いったいどういう効果があるの?」と厳しいツッコミを入れられる。 

 

確かにね。効果ないです。私も「愛媛いよかん大使」とか「弐千円札大使」とかの名刺見せてもらったことあります。名刺交換の時の「実は、私こんなこともやっておりまして…」というちょっとした世間話の糸口になったり、飲み会の席の小ネタにはなるけれど、でも、そんな名刺もらってもしょうがないし…もらったところで愛媛に行こう、沖縄に行こう(弐千円札は沖縄県の首里城守礼門がモチーフ)とは思わないよなぁ。

 

 しかし、吉門喬介の厳しいツッコミは、出身地への熱い熱い思い入れがあってこそ。掛水クンは吉門喬介の導き(というか、仕掛け?)によって、元県庁職員の観光コンサルタント・清遠と出会い、吉門喬介が「おもてなし課」の奮闘ぶりを小説に仕立てるというサイドストーリーと絡み合いながら、高知県まるごとレジャーランド化に向けて少しずつ前進していくという物語。

 

 「おもてなし課」のお役所仕事っぷりは、「さもありなん」という感じで、かなり笑えます。吉門喬介に観光特使就任を依頼しておきながら、特使の名刺が吉門の手に届いたのは1カ月後。その間、「おもてなし課」なりにああでもない、こうでもないの検討や折衝を重ねていたわけだが、吉門からは「あのね、民間では、1カ月も放置されると、あの話は流れちゃったのかな―と思うわけ」などと嫌みを言われ、ようやく「役所の常識は世間の非常識」であることに気付く。

 

 ちなみに、高知県庁・おもてなし課は実在する。掛水貴史くんは架空の人物だが、有川浩に観光特使就任を依頼し、名刺を1カ月待たせた担当者は実在する。つまり、高知県出身の有川浩が特使就任依頼されたものの、「名刺なんか配るよりも、作家の自分にできることは、高知を舞台にした小説を書くこと」と思い至って書いた小説が「県庁おもてなし課」なわけで、読者にとってはノンフィクションの面白さ(お役所仕事のトホホっぷり)と、フィクションの面白さ(無駄にベタ甘純愛の有川ワールドはここでも健在です!)が二重に味わえてお得。

 

 それにしても、全編にわたり土佐弁満載。高知の隠れた観光スポットや旨いモンてんこ盛り。高知県おもてなし課の最大の功績は、有川浩にこの小説を書かせたことに尽きる。高知県観光特使の名刺500枚配っても、「高知県に行こう」と思う人は1人もいないかもしれないのに、この小説を読んで高知に行ってみたくなる人はたくさんいるだろう。

 

 楽しくって、軽く読めるけれど、地方自治体の仕組みや、政策がどうやって企画立案されて実現していくのかというステップや、なぜお役所がお役所仕事に陥らざるを得ないかという裏側の事情がキチンと押さえられていて、単なるエンタメ小説で終っていないところに、有川浩のパワーを感じました。

 

 なので、次は有川浩に「国政小説」を書いてもらいたい! 「政治小説」と言われるものは以前からあるし、それを専門とするオヤジ作家もいます。でも、基本的には、政局小説というか… 政治家のドロドロバトルなんですよね。そうじゃなくて、「国の政策」がいかに実現していくのか、又は、実現を阻害されているのか―そこに一番のスポットを当てた小説です。レベルの低い予算委員会の論戦見てても、国民には政策決定過程って解りづらいと思うのです。ここは、有川浩の出番!

 



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