おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「日本以外全部沈没」 筒井康隆

2012年01月16日 | た行の作家

「日本以外全部沈没」 筒井康隆著 角川文庫 12/01/13読了 

 

 年末から年初にかけて「日本沈没」を読んでいたところ、友人から「『日本以外全部沈没』がめちゃめちゃ面白い!」と勧められて購入。表題作を含む196276年の初期筒井作品を集めた短編集。

 

 「日本以外全部沈没」は、パロディであることが一目瞭然のタイトルですが、はっきり言って「ここまでやるか!?」というほどブラック。あまりの毒々しさに脱力しました。本家小松左京の「日本沈没」は、日本列島が沈没して日本人が彷徨える民になるかも…という設定でしたが、「日本以外全部沈没」では、次々と大陸が沈没し、唯一、残った日本列島に世界中の人が押し寄せるという設定。

 

 毛沢東、インディラ・ガンジー、キッシンジャー、フランク・シナトラにソフィア・ローレン、ビートルズ、蒋介石などなど世界の要人・著名人が軒並み西銀座のバーで生き残りをかけた交渉劇を展開する。(「日本沈没」の田所博士もこのバーに来ていました!)

 

さすがに40年前の作品とあって、今読むと、同時代感はないのですが…今風に言えば、オバマもサルコジもメルケルもジョニー・デップも、KARAもみんな日本にすがって生き残ろうとするという感じの設定でしょうか。1970年代前半といえば、日本が経済大国にはなっていない時代に、日本が世界の頂点を極めるという妄想を炸裂させているのがスゴイ。

 

どの作品も、大風呂敷を広げて、世の中をおちょくっている感じなのですが、特に痛烈だったのは「ヒノマル酒場」という掌篇。大阪の路地裏の一杯呑み屋・ヒノマル酒場に全身緑色の宇宙人がやってくる。世の中は、宇宙人が地球に(正確に言うと、通天閣のすぐそばに)降り立つ瞬間から大騒ぎで、テレビ中継車が何台も出て宇宙人の一挙手一投足に注目しているのだが、ヒノマル酒場に集う人々は「なんや、大掛かりなドラマの撮影か?」「ドッキリカメラちゃうんか」と宇宙人を意に介さない。というか、かなり、確信を持ってテレビや報道を疑ってかかっている。

 

 マスコミが信用されなくなったのって特にこの10年ぐらいが顕著なのかと思いきや…40年前から、ここまで報道がこき下ろされていたのかと思うとガックリきます。ちなみに、このストーリーに登場する宇宙人は、全身緑色の見かけはともかくとして、キャラ的には缶コーヒーBOSSのジョーンズ船長のモデルではないかと思いたくなるような感じで、なかなか憎めないヤツでした。

 

 時代の流れもあるのでしょうが、今の時代、なかなかここまで毒気に満ちた…というか、シュールなストーリーを雑誌に載せるって難しいような気がします。作家が書きたくて書いても、出版社がちょっと及び腰になりそうな…。そういう意味でも、興味深い一冊でしたが、書かれた時代背景が私にとってギリギリわかるかわからないかの境界線だったため、面白さが完全には理解できなかったのが残念。50歳代ぐらいの人なら、この毒の味がより楽しめるのだろうなと思います。

 

 

 

 



1 コメント

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Unknown (けん)
2012-01-17 01:41:19
TBさせていただきました。

今の時代だと勇気いるかもしれませんね(笑

またよろしくです♪
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