<太秦映画村(3)>
冷たい雨が本格的に降り始めてきた。
底冷えして家族観光客にはあいにくの天候だが、わたしのように撮影が目的であれば、傘は邪魔だが人混みを避けられるので悪い状況でもない。
江戸の町は、大名をはじめとする武士が居住する武家地が六割以上を占めていた。
その武家地を除く四割未満を、町人地と寺社地で分け合うのである。
町人地の表通りには、間口の広い裕福な商家(町屋)が建ち並んでいた。
鬼平犯科帳に出てくるような、盗賊が眼をつけて準備段階の<引きこみ>をじっくりと仕込みそうな大店である。
裕福な商人や大店の番頭などを別にすれば、江戸で暮らすといえば借家の長屋住まいだった。
ひと口に長屋というが二種類あって、蕎麦屋とか小間物屋とかの小さな商いをする商人は表通りに面した表長屋を借りた。現代でいえば店舗付きの住宅だ。
職人一家や、青物や魚などをはじめとしたいわゆる棒手振り(ぼてふり=行商人)の一家など、多くの江戸庶民は裏通りの路地にある裏長屋を借りて住んだ。仕官かなわぬ内職浪人たちも裏長屋だ。
長屋の構造だが、入ってすぐに竈と水瓶が置かれた土間、つまり台所でその奥に寝るだけでいっぱいの狭い座敷があるのが一般的だった。水道(井戸)や厠(トイレ)は共同、風呂は銭湯である。物干し場や塵溜めも共同だ。
家賃は月に三百文~五百文くらい。当時の蕎麦の値段から現代の値段に換算すると、一文がおよそ十五円~二十円だから、月に四千五百円~七千五百円となる。職人の手間賃でいうと二、三日分ほどのようだ。現代の東京に比べれば安い家賃で暮らしやすかったようだ。
風呂のない長屋暮らしに<湯屋>は欠かせない。
二階にある休み処では、湯あがりに茶菓や囲碁将棋もゆっくり楽しめたそうだ。
銭湯も江戸庶民の娯楽のひとつだったのだろう、江戸にはなんと五百軒以上の湯屋があったようである。営業時間は「朝五つから夜の五つまで」、つまり午前八時から午後八時までだ。当時は温泉場なみに朝湯も楽しめたわけだ。料金はだいたい十文くらいというから、二百円くらいだったのだろう。
江戸に迷い込んでしまったような裏長屋の雰囲気に浸れて、時代小説好きのわたしはたまらなく満足した。そういえば、長屋のなかに「銭形平次」の家もみつけたが、実際に撮影セットに使われたのであろうか。
― 続く ―
→「太秦映画村(1)」の記事はこちら
→「太秦映画村(2)」の記事はこちら
冷たい雨が本格的に降り始めてきた。
底冷えして家族観光客にはあいにくの天候だが、わたしのように撮影が目的であれば、傘は邪魔だが人混みを避けられるので悪い状況でもない。
江戸の町は、大名をはじめとする武士が居住する武家地が六割以上を占めていた。
その武家地を除く四割未満を、町人地と寺社地で分け合うのである。
町人地の表通りには、間口の広い裕福な商家(町屋)が建ち並んでいた。
鬼平犯科帳に出てくるような、盗賊が眼をつけて準備段階の<引きこみ>をじっくりと仕込みそうな大店である。
裕福な商人や大店の番頭などを別にすれば、江戸で暮らすといえば借家の長屋住まいだった。
ひと口に長屋というが二種類あって、蕎麦屋とか小間物屋とかの小さな商いをする商人は表通りに面した表長屋を借りた。現代でいえば店舗付きの住宅だ。
職人一家や、青物や魚などをはじめとしたいわゆる棒手振り(ぼてふり=行商人)の一家など、多くの江戸庶民は裏通りの路地にある裏長屋を借りて住んだ。仕官かなわぬ内職浪人たちも裏長屋だ。
長屋の構造だが、入ってすぐに竈と水瓶が置かれた土間、つまり台所でその奥に寝るだけでいっぱいの狭い座敷があるのが一般的だった。水道(井戸)や厠(トイレ)は共同、風呂は銭湯である。物干し場や塵溜めも共同だ。
家賃は月に三百文~五百文くらい。当時の蕎麦の値段から現代の値段に換算すると、一文がおよそ十五円~二十円だから、月に四千五百円~七千五百円となる。職人の手間賃でいうと二、三日分ほどのようだ。現代の東京に比べれば安い家賃で暮らしやすかったようだ。
風呂のない長屋暮らしに<湯屋>は欠かせない。
二階にある休み処では、湯あがりに茶菓や囲碁将棋もゆっくり楽しめたそうだ。
銭湯も江戸庶民の娯楽のひとつだったのだろう、江戸にはなんと五百軒以上の湯屋があったようである。営業時間は「朝五つから夜の五つまで」、つまり午前八時から午後八時までだ。当時は温泉場なみに朝湯も楽しめたわけだ。料金はだいたい十文くらいというから、二百円くらいだったのだろう。
江戸に迷い込んでしまったような裏長屋の雰囲気に浸れて、時代小説好きのわたしはたまらなく満足した。そういえば、長屋のなかに「銭形平次」の家もみつけたが、実際に撮影セットに使われたのであろうか。
― 続く ―
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