風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

江戸町奉行所のはなし その5 住民自治

2018-09-05 04:15:44 | 時代劇





「江戸八百八町」という言葉があるように、江戸はたくさんの町に区割りされていました。


そうして数町から数十町ごとに「町名主」という役職が置かれ、これが町場を取り仕切っていました。


江戸の町には三人の「町年寄」が置かれ、町名主はこの町年寄の配下でした。


町名主の仕事は多岐に亘ります。お上から町年寄を通して下ろされる「御触れ」を町民に知らせること。徴税や人別改(戸籍)の整理。住民福祉や衛生管理。祭りなどの行事における警備手配等々。


それと、町民同士の訴訟、揉め事争いごとの審理、調停なども、町名主の仕事でした。


例えば長屋の住人同士などの争いごとの場合、間に立って調停するのは大屋の仕事でした。「大屋と店子は親子も同然」という言葉がある通り、大屋は単に部屋を貸しているだけではなく、保護者や民生委員のような役割を果たしていたんです。


しかし大屋の段階で解決できなかった場合、町名主にこの争いごとの調停が持ち込まれます。町名主の調停はかなり強い効力を持っており、大概の揉め事、争いごと、訴訟事は町名主の段階で解決されていたようなんですね。


しかしそれでも、町名主でも解決しきれない問題に至って、ようやく奉行所に事件が持ち込まれた。町奉行所としては「町人同士の事は町人同士で解決してよ」が基本スタンス。ですから「この件はそっちでやってよ」と、奉行所に持ち込まれた案件を町名主に差し戻すケースもあった。



町場のことは基本町場で解決する。よほどの大事でもないかぎり奉行所はタッチしなかった。さすがに刑事事件に関しては奉行所が出張らないわけにはいかなかったでしょうが、刑事事件にも大小があって、比較的小さな事件に関してはやはり奉行所は積極的には関わらず、「町場で解決できるならそっちでやってよ!」というスタンスだったようです。

「事件に大きいも小さいもない!」と、すみれさんにどなられそうですが……って、懐かしい!わかる?「都知事とおんなじ青島です」って、わかる?




……話が逸れました。なるほど、こうやって町の自治に任せることで、奉行所の負担を大幅に減らしていたわけですね。しかしそうなりますと、「表」の仕事だけでは到底手が回らないでしょうから、裏社会の人々との協力体制が必要になってくる。ヤクザもんがもっとも恐れるのは「お上の御威光」だとはよく聞く話です。裏社会の人間ほどお上の言うことはよく聞いた。適度なお目こぼしをしてやれば、お上のため、そして結果的には庶民のためによく働いた。これが「任侠道」「侠客」などと呼ばれ、庶民の人気を博するようにもなっていくわけです。


「餅は餅屋」「蛇の道は蛇」こうした裏社会の人々と密接に繋がることで、逆に江戸の治安はよく保たれた。現代においても、警察とヤクザの癒着が取り沙汰されることがありますが、そうしたことはこの頃からすでに常態化していた、ということでしょう。


私はこうした「非合法組織」の存在を決して容認しているのではありません。しかし現実としてそのようなことはあったということは、認識しておく必要があるのではないでしょうか。



裏社会との繋がり、そして住民による自治。これが奉行所の負担を大幅に減らし、江戸の町の治安を守っていた。特に「住民自治」という部分は大きな意義があったといえるのではないでしょうか。


町の安全は町民で守る。江戸時代というと、上からの一方的な圧力で一般庶民は苦しんでいた的なイメージが、歴史教育や一部の時代劇で喧伝されてきましたが実はそうじゃなかった。少なくとも江戸町民の自治意識は結構高いものがあったのではないでしょうか。


この町名主の活躍は、作家・畠中恵による小説『まんまこと』などで描かれており、この『まんまこと』は去年だったか、NHKで時代劇ドラマ化されています。

ようやく時代劇の世界でも、町名主の活躍、江戸町民による住民自治というものが描かれるようになってきた。


時代劇にも、描かれてこなかった分野というのはまだまだたくさんあるでしょう。


時代劇には未だ可能性が残っている。




さて、ここから得られる結論ということですが、それは私がいつも言っている通りのことです。


江戸時代は決して、暗黒時代なんかじゃなかった。




というわけで、これにておしまい。






青島くんとすみれさん

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2 コメント

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Unknown (チャメゴン)
2018-09-08 08:36:09
江戸の町事情あれこれのご考察をありがとうございました。一概に悪はいけないとか決めつけられないってことですね⁉︎こっちはいい、あっちは絶対ダメって気をつけなきゃなぁ…。
時代劇、新境地で開花してほしいですね!
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Unknown (薫風亭奥大道)
2018-09-08 16:22:58
チャメさん、まあ、決して褒められた話ではないけれど、日本社会というのはそういう表社会と裏社会とが上手くバランスを取りながらやってきた社会で、でもメインはあくまで表社会、裏社会があまりでしゃばらないように調節しながらやってきた社会だったと思うんです。
それが近代になって、そういうわけにもいかなくなってきた。でも古くからの慣習はいまだに残ってる。
東映のやくざ映画などは、そうした日本社会の裏面史をさりげなく描いていたりする部分はあるのだろうね。あまりみたことないけど(笑)
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