アメリカの恋愛小説『マディソン郡の橋』で有名になったカバー・ブリッジ(屋根付き橋)だが、私にはアイオワ州の橋よりここ、カナダはニュー・ブランズウィック州の橋のほうがロマンティックに思える。素朴な板張りが百年持ち堪えている。始めに見たのはキングズ郡サセックスにあるサーモン・リバー・ブリッジ。1908年の建造、ちょうど百年前だ。36メートルの橋には屋根があり、入口も出口も紅葉した木で装飾され、側面には垂直に板が貼り付けられ、橋は一見横長の家に見えるが、その下にきれいな川が流れている。橋の入り口から出口が正方形に口を開けて見え、橋の内部にはベンチがあり、光の陰影により内部がロマンチックに脚色され、百年前ここで起こったであろう数々のロマンスや小説の主役のロバート・キンケイドさえ垣間見えてくるのだった。もっと橋を見たいと願い、近くの店に入って尋ねると、イーストウッドに似た品のいい紳士が教えてくれた。「ムース・ホーン・ブリッジに行きなさい。高速から歩いて土手を下り、すぐ見れますよ」と。
ムース・ホーン・ブリッジも内部にベンチがあり、下はせせらぎ、同様にロマンの香りが漂っていた。高速の路肩に車を止め斜面に下りかけたら、車の故障なら助けようと後続の車が止まった。ここだけではない。アトランティック・カナダで会った全ての人々が親切だったことを付け加えたい。ゆったりとした大地でゆったりと時が進む人生を送っていると誰でも優しくなれるのではなかろうか。(彩の渦輪)