私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Franz Schubert: Impromptus op. 142 - Sonate op. 78
Harmonia mundi HMC902021
演奏:Andreas Staier (Fortepiano)

フランツ・シューベルト(Franz Peter Schubert, 1797 - 1828)は、時代的にはベートーフェンと重なり、古典派的作法の作曲家だが、曲想にはロマン派への入り口が見える。声楽曲、リートの作曲家としての評価が圧倒的に高いが、ピアノ曲も印象的な作品が多い。
 ピアノ・ソナタ第18番ト長調 作品78(D894)は、1826年、シューベルト29歳の時の作品で、初版譜に「幻想曲(Fantasie)」と題されていることから、「幻想ソナタ」と呼ばれることが多い。ト長調を基調としたこのソナタは4つの楽章からなり、傑出したピアノソナタの一つに数えられている。第1楽章は、「ごく穏やかに謡うように(Molto Moderato e Cantabile)」とあるように、第1楽章としては希な、平穏な楽想が支配的である。第2楽章はアンダンテという指示があり、ここでも程良いテンポが支配しているが、第1楽章より音に厚みがあり、雄大さを感じさせる。第3楽章はアレグロ・モルトのメヌエットで、唯一短調の楽章である。第4楽章は再びト長調でアレグレットという速さを抑えたテンポのロンド形式の楽章である。この様に全体を通して中庸のテンポが支配していて、旋律的にも穏やかさで一貫している作品である。
 「イムプロムトゥス(Impromptus)」は、日本語では「即興曲」と訳されているが、この言葉から想像する、その場の感興を音楽にするというものとは違っている。「イムプロムプトゥス」は、むしろ一定の構成、ロンドやバロックのダ・カーポ・アリアの形式を持つ場合が多い。シューベルトは、死の前年1827年にそれぞれ4曲からなる「イムプロムプトゥス」を2組作曲した。当初は8曲通した番号を付していたらしい。作品142の「イムプロムプトゥス」は、その2つめの作品で、第1番ヘ短調、第2番変イ長調、第3番変ロ長調、第4番ヘ短調からなっている。この様に両端の曲が同一調で、第2番が関係長調、第3番が属音上の長調と、調性的にも統一性があるため、ロベルト・シューマンやアルフレート・アインシュタインによって、ソナタに属すると主張された。しかし現代の音楽学者からは、この説は否定的に論じられている。第1番ヘ短調は、A1-B1-A2-B2-A3のロンド形式あるいは展開部を持たないソナタ形式である。第2番変イ長調は、トリオを伴うメヌエット形式である。第3番変ロ長調は、劇付随音楽「ロザムンデ」の第3幕間奏曲、アンダンテイーノ変ロ長調にもとづく変奏曲である。主題提示と5つの変奏曲からなり、最後に主題が回帰して終わる。第4番ヘ短調は、緊張感を伴う、最も技巧的な曲で、ロンド形式に近い。終結部はさらに高揚して、プレストの6オクターヴに及ぶ下降音型で終わる。この様な4曲の楽章構成も、ピアノ・ソナタと見なす理由になっている。
 今回紹介するCDは、アンドレアス・シュタイアーがフォルテピアノを演奏しているフランス・ハルモニア・ムンディ盤である。すでに何度も紹介しているが、 シュタイアーは、1955年にゲッティンゲンで生まれのチェンバロおよびフォルテピアノ奏者で、独奏、歌手や器楽奏者との共演を幅広く行っている。そのレパートリーは17世紀、18世紀から、19世紀の作品にまで及んでいるが、特にチェンバロではバッハ、フォルテピアノではモーツァルトとシューベルトに重点を置いている。シュタイアーが演奏しているフォルテピアノは、ヴィーンのコンラート・グラーフが1827年に製作した楽器を1996年にクリストファー・クラークはが複製したものである。演奏のピッチや音律については、何も記されていない。
 録音は、2008年7月と8月に、ベルリンのテルデック・スタジオで行われた。このCDは、2009年4月に発売され、現在も販売中である。

発売元:Harmonia mundi France

注)シューベルトとその2つの作品については、ウィキペディアドイツ語版のFranz Schubert、同じく英語版のFranz Schubertピアノソナタト長調作品78イムプロムプトゥスを参考にした。


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