私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Schubert: 6 Moments musicaux D 780, 3 Klavierstücke D 946
Virgin 7 24356 11612 2
演奏:Melvyn Tan (fortepiano)

高齢の読者の中には記憶している人もあるだろうが、NHKラジオで毎日曜日の朝放送されていた(今も放送されている)「音楽の泉」という番組の始めに用いられていた曲が、シューベルトの「楽興の時」第3曲ヘ短調であった(現在も同じ)。筆者が記憶しているのは、堀内敬三が解説を行っていた頃(1949年から1959年)のことである。現在でもこの曲を聴くと、どうしても「音楽の泉」とつながってしまう。その当時は確か、室内楽編曲で演奏されていたと記憶している。
 「楽興の時(Moments musicaux)」(D 780)は、フランツ・シューベルトの1728年に出版された6曲からなるピアノ曲集である。曲は変化に富んでおり、テンポも速い曲やゆったりした曲がある。第3番ヘ短調が最も良く知られており、「ロシア風歌曲(Air Russe)」という名で呼ばれることもある。ABA形式の第4番嬰ハ短調のA部は、バッハの「巧みに調律された鍵盤楽器のための前奏曲とフーガ」第1巻の第2番ヘ短調の前奏曲との関連が指摘されている。この曲が作曲された1823年から1727年には、シューベルトは、バッハのこの曲集を研究していたことが知られている。「楽興の時」は、技術的にはそれほど難しくはないが、初期ロマン派の特徴を備えたピアノのための小品として高く評価されており、「さすらい人幻想曲(Wanderer-Fantasie)」(D 760)や8曲の「即興曲(Impromptus)」(D 899, D 935)と並んで、シューベルトの最も良く知られたピアノ曲である。
 「3つのピアノ曲(3 Klavierstücke)」(D 946)は、シューベルトの死の年1728年に作曲されたが、生前に出版されることなく、1868年にブラームスによって出版された。第1曲変ホ短調は、イタリア、ナポリの舞曲タランテラ風の主題を持っている。シューベルトは変イ長調の間奏部を削除しようと考えていたようだが、ブラームスは原作を尊重してそのまま出版した。第2曲変ホ長調は、穏やかで平易な楽想の曲である。第3曲ハ長調は、ポーランドのマズルカ風の活発な曲である。
 今回紹介するCDには、上のシューベルトの作品に加えて、ベートーフェンの「6つの変奏曲」(作品34)、「エリーゼのために(Bagatelle “Für Elise”)」(WoO 59)、「アンダンテ・ファヴォリ(Andante favori)」(WoO 57)及び「アレグレット(Allegretto [Bagatelle])」(WoO 53)も収録されている。
「6つの変奏曲」は、ベートーフェンのオリジナルの主題によるもので、1802年に教え子であったバルバラ・オデスカルキ侯妃(Fürstin Barbara Odescalchi)に献呈された。この オデスカルキ侯妃には、ほかにピアノソナタ第4番ホ長調(作品7)とピアノ協奏曲第1番ハ長調(作品15)も献呈している。
 「エリーゼのために」は、ベートーフェンが1810年4月27日に、教え子であったテレーゼ・フォン・マルファッティに捧げた曲であったが、ベートーフェンの生涯を著したルートヴィヒ・ノールがこの曲の自筆譜を所有していて、それを出版した際に誤って名前を「エリーゼ」と読んだためにこの名が付いたといわれているが、最近これに対しては、異論が出ている。「エリーゼのために」は、ベートーフェンの曲の中でも、知らない人がいないぐらい良く聴かれる曲である。
 「アンダンテ・ファヴォリ」は、もともとピアノソナタ第21番ハ長調(作品53)「ヴァルトシュタイン」の緩徐楽章として作曲されたが、このソナタの両端楽章と合わないため、単独の曲となった。作曲はソナタと同じ1803年である。「アレグレットハ短調」は、1796年頃に作曲された小曲である。
 演奏しているのは、すでに「 ベートーフェンのピアノ協奏曲第3番と第4番をフォルテピアノとオリジナル編成のオーケストラで聴く」で紹介した、1956年シンガポール生まれのメルヴィン・タン(Melvyn Tan)である。タンはEMIとの専属契約のもとに、ベートーフェンのピアノソナタと協奏曲の全曲など多くの録音を行った。タンが演奏しているフォルテピアノは、1814年にヴィーンのナネッテ・シュトライヒャーの工房が制作したものを、1983年にデレク・アドラムが製作した複製楽器である。シュトライヒャーのフォルテピアノは、一部の部品を除いてすべて木製で、細い弦と小形のハンマー、それといわゆるヴィーン・アクションを備え、この複製はFF - f4の6オクターヴの楽器である。打楽器的な力強さよりも、繊細な響きを特長としている。
 なおこの録音は、現在シューベルトの8曲の即興曲とともに2枚組のCDとして(番号0724356223325)発売されているが、現在は入手が難しいかも知れない。

発売元:EMI Classics



Virgin 0724356223325

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